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唯一無二の《ニートマスター》  作者: ごぶりん
第2章 魔の力、その予兆
25/46

パーティー《四色獣》

3ヶ月近く空いてしまいました。

お久しぶりです。ごぶりんです。


申し訳ありません、今回登場するキャラにイラついてモチベが若干下がっておりました(本末転倒感)。


次回からは筆も乗ると思いますので、どうかご了承をば。


では、どうぞ。

 



 誰かを呼び止める声が背後から聞こえてきたが、アラト達はそのまま進む。当然だ、自分が呼び止められているとは思っていなければ誰かの声が聞こえてきたからといって立ち止まりはしない。そしてアラト達はそう思っていなかった。


「ちょちょちょ、待ってくれって!!」


「さてと……知りたいことがあるんだがそれはどうすればいいかな……」


「何だよ、知りたいことって?」


「ん、角ウサギの強さだよ。アレが特別だったのか、そうでないのかが知りたい」


「あー、なるほどな。でも角ウサギであのレベルだったらふつーにやばくねーか?」


「そうなんだよ。だから知る必要がある」


 恐らく、魔物の大量発生ということなので角ウサギもいっぱいいるだろう。それを判断材料にしたい、というのがアラトの考えだ。


「おーい、待てって言ってんじゃん!」


「どうしますかぁ〜? どさくさに紛れて角ウサギを攻撃しますぅ〜?」


「獲物を横取りするような状況にはするべきじゃないと思うのです」


「クリリの言う通りだろうな。不必要に目立つようなことは避けたい」


「う〜ん、じゃあどうすればいいんですかねぇ〜」


「他の人が戦っているのを見ればわかるんじゃないです?」


「どーだろーな。多分わかるとは思うが、あたしらも依頼を受けてる。厄介な敵かもしれないし、どれくらい余裕があるかは未知数だろ? そのことも考慮に入れておくべきだと思うなー」


「あうぅ……おねーちゃんの言うことももっともなのです……うーんです」


「「「うーん」」」


 と、そこで悩むアラト達を駆け足で追い抜いて、両手を広げて立ち塞がる存在があった。


「だから! ちょっと! 待ってくれって!!」


 その人物は、先程ギルドでアラトに突っかかってきた子供だった。

 アラトは瞬時に魔力を伸ばし、パーティーチャットを開始する。


『無視』


 その冷徹とも取れる指示に、いち早く従ったのはクシュルだった。


『わかりましたぁ〜、気にせず素通りしますぅ〜』


 キララとクリリは困惑もあるようだったが、取り敢えずはアラトに従うことにしたようだ。


『お、おう……?』


『はいです……?』


 談笑を続けながら自身の横を通り過ぎて行くアラト一行を横目で見て、少年は固まったまま呆然と呟いた。


「えぇ……? ……素通りって、マジ?」




 少年が後ろから慌てて駆けてくる気配を感じながら、キララはパーティーチャットでアラトに訊ねる。


『なあ、なんであいつを無視するんだ? しつこいからか?』


『わたしも気になりますです。あそこまで邪険にする必要はないんじゃって思うです』


『ししょーはあの人に対して個人的には何の感情も持ってないと思いますよー』


 2人はアラトに訊ねたのだが、思わぬところから返事が返ってきた。

 クシュルだ。


『そういうのじゃなくて、礼儀の問題ですー。仲のいい人や知り合いなら、あの呼び止め方でも基本的に問題はないと思いますー。でも、私達とあの人には何の接点もありませんー。冒険者ギルドにいてクエストを受けようとしていたということはあの人も冒険者なのでしょうが、それとこれとは一切関係がないですー。仮に冒険者に粗野な人が多かったとしても、こちらの知ったことじゃありませんしねー。最初は最低限の礼儀を持って接するべきですー。っていうことで合ってますかししょー?』


 クシュルがアラトに確認を取り、アラトはそれに肯定の意を示す。

 もちろん例外はある。向こうから喧嘩腰で来られたのに礼儀正しくしている必要はないし、仲が良くても礼儀正しくすべき場面は多くある。

 今回の場合、少なくとも向こうからこちらに話しかける場合は礼儀正しくするべきだとアラトは判断したのだ。また、向こうからはいきなり喧嘩腰で来られたが、それでもアラトはこちらから話しかける用があった時には丁寧な態度で会話に入るつもりだった。今のでその気は完全に失せたが。

 相手の態度に相応の態度で応じる、それがアラトのやり方だ。


『なるほどです……けど、そこのぶりっ子ババアがおにーちゃんのことを何でも理解してる風なのがめちゃくちゃ腹立つです』


『ふふん、何を言われても負け惜しみにしか聞こえませんねぇ〜。悔しかったら貴女もししょーの行動の理由を察せるようになればいいじゃないですかぁ〜』


『ふんっ、別にいいです』


(……おや?)


 クシュルとクリリの言い合いを聞いていたアラトは、少し違和感を感じた。最後のクリリの発言と今までのクリリの発言、込められているものが違うような……? 最後の発言に、なにか深みのようなものをアラトは感じ取った。これがただの気のせいなのかそうではないのか。それは今のアラトに判断できることではないが、気には留めておくことにする。


『……アラト』


『ん? どうしたキララ』


 クシュル達の会話を聞いていたアラトだったが、キララに声をかけられて意識の方向を変える。


『お前の考えはわかった。でもな、あたしの考えは違う。話を聞くべきだ』


『……向こうが謝ってこなくても?』


『そうだ。向こうがこのままえらっそーなガキの態度で来たとしても、だ』


 初めての徹底的な意見の対立。クシュルとクリリも思わず口を閉ざしていた。周囲に訝しまれないように適当に続けていた表面上の身のない会話も途切れてしまったので、道行く人からチラチラ視線を向けられる。

 だが、アラトはその全てを無視した。ついでに、目の前に再び立ち塞がった少年も無視した。少年の瞳に光るものが滲む。



 アラトは、これを待っていた。待っていたのだ。


 普通、4人もいて意見が割れないなどということは起こりえない。人にはそれぞれの価値観があり、意思があるからだ。今まで意見が割れなかったのが不思議なくらいである。

 もしずっと意見が一致し続ける集団があるとすれば、その中の誰かが他の全員を洗脳している以外にありえないだろう。もしくは、思考を誘導しているかだ。どちらにせよ、まともな集団ではない。


 意見は対立して普通、衝突するのが当たり前なのだ。そして人は、そのぶつかり合いを利用してお互いを知ろうとする。故にアラトは、この機会を待っていた。


 アラト達は、一緒に行動するようになってからまだ間もない。またゲーム内でお互いを認識してはいたが、それで知ることができるのはゲームに対するスタンスのみ。そこから相手の全てを知ることなどできるはずもない。

 このような集団は、できる限り早いうちにお互いをある程度知っておくべきなのだ。しかし、アラト達にその機会は今までなかった。どこかで意見がぶつかっていれば違っただろうが、自分達のこの世界での存在や居場所を明確にすることが最優先だったからだ。

 正直アラトとしては、今日の午前中にでも話し合う機会を作りたかった。だが、まだ状況を正確に掴めてはいない。現状の調査も必要不可欠だ。対話を後回しにするのはよくないが、そうせざるを得なかった。


 そこにこの対立だ。アラトは嬉々としてキララと話し始める。


『へぇ、キララはなんでそう思うんだ? その言い方から察するに、キララもあいつの態度には不快感を覚えてるんだろ?』


『ああそうだ。あのガキには1度礼儀ってもんを叩き込んでやるべきだとは思うさ。でも、あたしらは情報を持ってない。あいつが何か、あたしらに有益な情報や行動を齎す可能性がないわけじゃない。それに、この世界では礼儀なんてほとんどないのかもしれないだろ? 王族とか貴族には別、って感じで』


(一理ある……どころじゃないな。キララの言っていることはかなり理に適っている。あいつに関しては根拠は薄いが、可能性としてはまあまあってとこだろう。しかも礼儀に関しては多分キララの言ってることが正しい。この世界においては俺がおかしいんだろうな)


 パーティーチャットには乗せず頭の中で呟くアラト。

 文化レベル、知識レベルは比較的高そうなこの世界だが、その礼儀関係の事柄が日本と同じと決めつけるのは間違っている。この世界には王政があるのだ。王族が自分達の上にいて、それ以外は皆同じ位置にいる。国民がそういう認識だとしても何らおかしくはない。そしてその場合、おかしいのはアラトだ。

 アラトは頷いてキララに言葉を返す。


『そうだな。確かに、キララの言う通りだと思う。じゃあ、話を聞くっていうことでいいか? 厄介ごとの臭いがするけど』


『あたし達なら、落ち着いていれば大抵のことには対処できるはずだ。それに、やっぱり情報収集したいだろ?』


『まあね。じゃあ、そうしますか』


『おう』


 話がまとまり、クシュルとクリリは安堵のため息を吐く。

 4人が雑談を再開したところで、少年が追いつき声をかけてきた。


「あの、すいません……待って、もらえませんか……」


 アラト達が止まってくれなさすぎて心が折れたのか、少年の言葉遣いは丁寧だ。できるなら初めからやれよと思わないでもなかったが、今更蒸し返す必要はないだろうとアラトは言葉を飲み込む。

 代わりに、別の言葉を投げかけた。


「なんだ? 冒険者ギルドで喧嘩腰で来ただけじゃ飽き足らず、まだ何かあるのか? ていうか、まず名乗れ」


 あの時の相手の態度を非難するニュアンスを多分に含ませつつ、相手の要件を訊ねる。

 少年は頷き、口を開いた。


「俺の名はラーチェ。ちょっと……手伝い? ってほどのことじゃないんだが話を聞いてほしい」


「うーん……どうする?」


 アラトが先程決まったことを訊き直す。

 さっきの会話はパーティーチャットで行ったもの。アラトの判断のみでこの面子が動く、そのような勘違いを周りにされて面倒なことになるのを防ぎたいという意図があった。


 3人から頷きが返ってきたので、それを見てアラトも頷く。

 そしてラーチェと名乗った少年の方へ向き直り、返答した。


「わかった。どこかに移動するのか?」


「ああ。俺達が取った宿屋がある。そこで話を聞いてもらいたい」


「よし、案内してくれ。俺達も依頼を受けている。なるべく手短にな」


「それは俺達も同じだ。じゃあ付いてきてくれ」


 アラト達はラーチェに付いて歩き出した。







「ここだ」


 ラーチェがアラト達を連れてきたのは、若干ボロく安そうな宿屋だった。

 中から男達の笑い声が聞こえてきて、クシュル達3人を連れて入るのを躊躇うアラト。

 一瞬の逡巡を経て、3人に外で待っているように言おうとしたその時、ラーチェが宿屋の扉を開け放ち大声で呼びかけた。


「おおーい!! 話聞いてくれる奴らを連れてきたぞー!! こいつらだー!!」


 そして中にいた人間が一斉に入り口を向き、3人を逃すタイミングを失う。

 アラトは胸中で舌打ちしながら中に入っていくラーチェの後を追った。ちょっかいをかけてくる奴がいたら問答無用の『威圧』をぶち込むつもりで。



 中には十数人の男がいて、そのうちのほとんどが酒を呑んでいた。1階が酒場、2階が宿屋の造りなのだろう。マスターらしき人物がジョッキを磨いていた。


 男達のうち武装しているのは3人。酒を呑んでいない3人だ。彼らがラーチェの仲間だろう。他の男は『観察眼』で見たところ能力が低かった。まあ今は異常事態だが、同時に冒険者に取っては稼ぎどきのはずだ。朝っぱらから酒を呑んでいるわけがない。


「へへっ、姉ちゃんいい身体してんなぁ〜。どれ、お味は〜っと」


 ラーチェを先頭に酒場を横切っていると、1人の男が下卑た声を上げながらクシュルに手を伸ばした。その手はクシュルの形のいいお尻を目指している。


 ケモ耳娘3人の中で一番スタイルがいいのは間違いなくクシュルだ。

 胸はそれほど大きいわけではないが、柔らかそうでいて余分な脂肪は一切ない腕にスラリと伸びる引き締まった脚、そして低くない身長とバランスの取れた身体に完璧にマッチした掌にギリギリ収まらないくらいの美乳。そこに整った美しい顔だ。大抵の男がクシュルを欲情の視線で見るだろう。

 クリリは完全に幼女だ。そっちの趣味の人間には堪らないだろうが、この男は違うらしい。

 キララもポジション的にはクリリと全く同じである。キララに言ったらブチ切れること間違いなしだが、事実は揺るがない。



 さて、自分の相棒が男達にある種評価をされるのは、アラトに取っても悪いことではない。むしろ誇らしいことだ。そこに嘘偽りはない。

 だが。だが、だ。手を出されそうになっているのを見逃すのは違う。それは、()()()()()

 アラトは戦闘の素人にも見えるようにゆっくり、ゆっくりと短剣を鞘から引き抜き、それはゆっくりと振り下ろした。


「それとこれとは話が別ってね」


「あ〜ん? ……ヒィッ!?」


 フォン、と軽い風切り音と共に、男の指の先の空間を斬撃が通り過ぎた。斬撃というにはお粗末すぎるものだったが。


他人(ひと)の相棒に、汚い手で触れようとしないでくれないか?」


「お、て、てめっ、そ、それ、け、怪我でもしたらど、どうすんだっ!!」


「は? こんなの手元が狂うわけないだろ。当てねえよ。何のために動作をゆっくりにしてやったと思ってるんだ。あんたらに見せるためだよ」


 男は手を引っ込め、ガタガタ震えながら吠える。アラトは気にする様子もなくそう言い放った。

 酒場のマスターが渋い顔でアラトを見ている。


「お客さん……面倒事は外でやってくんねえか? うちは安い酒を出すただの酒場兼宿屋なんだからな」


「ああ、すみません。次手を出してきたら外に叩き出しますんで。その不利益分の補償はします」


「…………まあ、ならいいか」


 比較的ガタイのいいマスターは少し考えると、自分の客に視線を投げて言った。


「あんたら、この人らにちょっかいかけるのはやめときな。痛い目見るだけじゃ済まなくなるぞ。素人がどうやっても敵う相手じゃあない」


 このマスターは中々見る目があるようで、アラト達が強いということは感じ取ったらしい。それがどの程度かわかるほどの実力はないようだが。

 マスターの忠告に、酒を呑んでいた男達は顔を青ざめさせながらブンブン頷く。

 それを横目で見て、アラトは本題に入るためラーチェに向き直った。


「それで? 用件を聞こうか?」


「ああ。取り敢えず座ってくれ」


 アラト達はラーチェに促されるまま席に着く。テーブルを挟んで向かい合うは、ラーチェとそのパーティーメンバー。


「まず俺達の紹介から入らせてくれ。俺がパーティー《四色獣》のリーダー、ラーチェだ」


 ラーチェが再び名乗った。しかし、《四色獣》……何やら嫌な予感がアラトとキララを襲う。


 続けてラーチェが口を開き──


「俺は定学で、《青龍刀のラーチェ》と呼ばれていた」


 ──2人の嫌な予感を的中させる言葉を言い放った。


 定学は、元の世界でいう学校だ。ラーチェやラスカの年齢から考えるに、定学は年齢的には高校と同じくらいまで面倒を見るのだろう。

 高校での2つ名……考えるだけでゾッとする。アラトとキララはそっと視線を合わせ、同時に小さく首を横に振った。お互いに、『お前なら大丈夫か?』と訊いて答え合ったのだ。結論は、無理ということらしい。


 だが、《ニートマスター》だの《動ける固定砲台》だの呼ばれているアラト達に、ラーチェをイタい奴だと思う資格はない。完全に同類である。


「そして、こいつが……」


「初めまして。私はラッピー。ラーチェと同じ定学に通っていました。以後お見知り置きを」


 ラーチェが隣の男を紹介する。ラッピーと呼ばれた男は、礼儀正しくアラト達に挨拶した。


「……ああ、どうも。よろしく」


「はい。あ、私は《朱雀扇のラッピー》と呼ばれていました」


 どこからか鉄扇を取り出しつつ補足するラッピー。その動きに淀みはなかった。しっかりと鉄扇を扱い慣れているようだ。アラトは曖昧に頷いた。


「……おう。それはいいとして、なあラーチェ」


「なんだ?」


「なんでこいつは上半身裸になってんだ?」


 そう。ラッピーは、話し始めると同時に目にも留まらぬ速さで上半身に纏っていた衣類を脱いだのだ。


「ああ、こいつはいつもこうなんだ。気にしないでくれ」


「そうか、わかった」


 ほとんど何もわからなかったアラトだが、こいつらに深く関わってはいけないということは理解した。ので適当に流して進める。まあ、アラトの願いは叶わず今後かなり頻繁に関わることになるのだが、そんなことを今知る由もない。御愁傷様である。


 次にラッピーの隣、フードを深くかぶった人物が自己紹介を始めた。


「……お、俺はギール……。び、《白虎爪のギール》と呼ばれていた……。よ、よろしく頼む……」


(声ちっさ!?)


 ちょっと油断していたら聞き逃しそうな声量だった。どもりながらも簡潔な自己紹介を終えたフードの人物、ギールは一仕事終えたかのように息を吐き出した。


「……ラーチェ……こいつは……」


「ああ、ギールは人見知りなんだ。気にしないでくれ」


「そうか、わかった……もういい……」


 なんというかもう、キャラが濃すぎてお腹いっぱいだ。

 アラトは最後の人物に目を向け、寒気に襲われた。


(ッ……!? なんだ、こいつは……!? 実力はそこまでではない……俺は何を感じ取って……!?)


「初めまして。僕の名前はホマモン。定学では《玄武棍のホマモン》と呼ばれていましたね。よろしくお願いします。それにしても貴方……ラーチェとはまた違ったベクトルでいい男ですね……?」


 ニッコリ笑いながらそう話しかけてきた。

 ゾワゾワッ!! と、アラトの全身を怖気が駆け巡る。


 今の発言で、キララも察した。ホマモンと名乗ったこの男、ゲイだ。

 アラトは同性愛者がいることは知識としては知っていたし、愛には色々な形があるんだなと感心していた。同性愛を否定したことはない。だが、自分が関係すると意見など簡単に変わる、ということをこの歳になって思い知らされた。


(正直嫌だ……ゾワゾワする!)


 否定とまではいかないが、できればその感情を自分には向けないでくれと切に願うアラトであった。


「……安心してください。嫌がる方にはちゃんと線引きしますから」


「あ、ああ……」


 ホマモンから配慮ある言葉が飛び出し、アラトは失礼だとは思いながらもホッとする。こればかりはどうしようもなかった。


「? なんかよくわかんないけど、こいつはすげえいい奴なんだ! さっきみたいによく俺のことを褒めてくれるんだぜ! 仲間想いな奴なんだ!」


 ラーチェが考えているものとホマモンが抱えている想いの質が違うような気がしたが、深くは踏み込まないことにしたアラト。とても懸命な判断である。

 そのラーチェはと言うと、隣に座っているホマモンと肩を組むようにし、軽く叩きながら誇らしげにしている。世の中には知らない方がいいこともある。ラッピーとギールが何も言わないのもそのためだろう。

 ホマモンは肩を組んでいるからか、めっちゃにやけていた。とても他人様に見せられる顔ではない。アラト達に思いっきり見られているが。アラト達はそのにやけ顔を視認した瞬間視線を散らせ、極力認識しないようにと努めていた。ラッピー達から同情の視線が送られる。ラーチェは首を傾げていた。


「それで? 自己紹介も終わったことだしそろそろ用件を話せ」


 アラトが先を促す。

 かなり時間を取られていたのもあるが、この状況をさっさと終わらせたかったという思いが強い。


「おお、そうだった。んで頼みがあって、今日の討伐の時、俺達が危険な目に遭ったら助けてほしいんだ」


「……というと?」


 アラトは怪訝な顔をする。危なくなったら助けろ、とはどういうつもりなのか。


「俺達はつい先日定学を出たばかりでさ。このランクになったのもつい最近ってことなんだ。しかも、今はこんな状況だろ? 普段通りの実力を発揮できないかもしれないし、そうなったら危険だ。だから、いざという時のサポートを頼みたいんだ」


「ちげえよ」


 アラトから低い声が出る。いつの間にか、アラトの持つ雰囲気が話を聞くものではなくなっていた。


「お前らの事情なんてどうでもいい。心底どうでもいい。俺が言いたいのは、戦闘に無縁な人ならともかく、冒険者のお前らが同じ冒険者である俺達にさも当然のように助けを求めるなんて、どういう了見だって言ってんだよ。わかるか?」


 ゆっくりと、言葉を区切りながら、言い聞かせるように話すアラト。その凄みに、ラーチェは少したじろぎながらも言い返す。


「それは、だって……実力のある冒険者が自分より弱い奴らを頼まれてフォローするのはよくあることだし……」


「そうか。じゃあその報酬は?」


「え?」


「俺達がお前らの依頼を受けたとして、その見返りはなんだ? と訊いている」


 こんな頼みをするなら、当然考えておかなければならないことだ。事前にパーティーメンバーと決めておくのも必要不可欠だろう。

 ────だが。


「あ、えーっと……今回、俺達が受けた依頼の報酬の半分……とか?」


「…………」


 アラトは無言で立ち上がる。キララも苦笑いで続いた。クシュルとクリリに至ってはラーチェ達から興味を失ったようだ。


「さ、行こう」


 アラトは3人に呼びかけて、そのまま立ち去ろうとする。その背を、ラーチェが呼び止めた。


「ちょっと待ってくれよ! 話はどうなったんだ?」


 アラトは振り返るのも億劫だという様子で視線をラーチェに向ける。実際振り返るのが億劫だった。こんな奴らに時間を使う必要はない、それがアラトの結論だ。


「お前は馬鹿なのか? お前らが稼げる報酬の半分なんて俺達ならすぐに稼げるに決まってるだろう。何かしてほしいならそれに見合う何かを差し出せ。まあ、中には対価を求めないお人好しもいるが……俺はそうじゃない。お前らのために無償で働いてやる義理もない。俺にないのと同様に、キララ達にも義理はない。わかったか? 俺達にお前らを手伝う理由はない」


 キツイ物言いではあるが、正論だ。現にラーチェは何も言い返せずに黙り込むしかない。


「ま、俺達もほしいものがないわけじゃないが。お前らに教えてやる必要もないしな。自分達で考えろ。俺達が求めるものを持ってきたら、喜んで手伝ってやるよ」


 情報が少なすぎる。そんな言葉がラーチェの喉まで出かかったが、グッと堪えた。今言っても意味がないどころか逆効果だろう。


 アラト達は酒場を出て行った。

 ラーチェ達は顔を見合わせる。少々気まずそうな雰囲気のまま立ち上がり、酒場を出て行く。そしてアラト達の様子を気にしながら後を追った。




「さて、無駄な時間を食ったな……」


「そうだな、結果収穫はなかったし。悪かったなアラト、意見曲げてもらったのに」


「いや、それは結果論だから気にしてない。あのガキは世間を知れって感じだけどな」


「確かにアレは舐めてましたよねぇ〜。ちょっとびっくりしました」


 アラト達は話しながら門へと急ぐ。早く行かないと獲物がいなくなってしまうかもしれない。


 ──アラト達のこの考えは、数分後に180度変わることになる──。




「ああっ、お前達!」


 門のところまで来たアラト達はいきなり声をかけられた。ハイギスだ。


「ハイギスじゃないか。どうしたんだ?」


 ハイギスは少し慌てているようだ。


「どうしたもこうしたもないだろ! お前達は証明証を持っていなかった! つまり冒険者志願者だったんだろ!? 初心者が来ていい現場じゃない! 戻るんだ!」


 物凄い剣幕で怒鳴ってくる。だが、アラト達のことを本気で心配している様子が窺えた。


「……心配してくれてありがとう、ハイギス。でも、大丈夫だ。俺はBランクだし、こいつらもCランク。早々遅れは取らないさ」


「なっ……!?」


 ハイギスはアラト達のランクの高さに少々驚いたようだ。

 だが、平静を取り戻すと真面目な顔になって口を開いた。


「そうか……それならまあ大丈夫かな……? だが、油断は禁物だ。すでに多くの冒険者が怪我をして戻ってきている。回復魔法の使い手も何人もいるのに、だ。それだけの戦場だということだろう。気をつけろ」


「ああ、ありがとう。行ってくるよ」


「俺はここで冒険者の出入りを管理しなくてはならない。無理はするなよ」


 アラトはハイギスに手を振って門へ向かう。

 門は閉まっていた。さて、どこから出るのだろう?


 アラトが出入り口を探し始めた瞬間、外から冒険者が戻ってきた。2人が肩を貸して1人を運んでいる。その1人は意識を失っているようだ。


「しっかりしろ、王都に着いたぞ!」


「教会に……いや、もう人でいっぱいか!? 診療所の方がいいだろうか!?」


「どっちにしろ、とにかく移動しないと……!」


「あ、あんた達」


 移動しようとした冒険者2人に、アラトが声をかける。

 当然、怒鳴り声で返された。


「んだよ!? 俺達は急いでるんだ!!」


「邪魔だ、どいてくれ!」


「その人を治せばいいんだな?」


 アラトはその声を無視し気を失っている冒険者に手をかざす。


「じっとしてろよ。『中位下級回復魔法・治癒の衣(ヒーリングヴェール)』」


 暖かく柔らかな光が意識のない冒険者を包む。その暖かさは両隣で肩を貸している2人にも伝播し、2人を困惑させた。


「これは……?」


「いったい……」


「それは『治癒の衣』。対象が完全に回復するまで傷を癒し続けてくれる魔法だ。元気になっても、傷が癒えるまではあまり動かない方がいいから、そこは覚えておいてくれ」


「ああ……ありがとう……」


「なんとお礼を言ったらいいか……」


「気にしないでいい。それと、『治癒の衣』には周りにいる者にも多少の回復効果がある。貴方達もその人の側にいて休むべきだ。見たところ限界が近いんじゃないか?」


 2人は目を見開くと、顔を見合わせてからアラトに深く頭を下げてきた。アラトはそれにヒラヒラと手を振ると、3人が出てきた扉に向かう。

 緊急時はここから外部と行き来するらしい。


「さて、3人とも。準備はいいか?」


「もちろん。あたしはいつでもやれるさ」


「私も準備ができてないなんてことありえませんよぅ〜」


「わたしもなのです。行けますです」


 アラト達4人は頷き合う。

 アラトが扉を開けて、キララ達もそれに続いて外に出た。






「────こりゃ、すごいな」


「だな。ひどい」


「大変なことになってますねぇ〜」


「うう……あんまり見たくないのです……」



 視界いっぱいに広がる平原。

 そこでは数多くの冒険者と、見たこともないような数の魔物が乱戦の模様を呈していた。

いかがだったでしょうか?

青龍刀のラーチェにイライラしつつ書いてました。


次回は書くのが好きな戦闘シーンがあるのでサラッと書けるんじゃないかなーと思っておりますが、どうなるかはわかりません。頑張ります。


では、また次回。

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