模擬戦 4
こんにちは、ごぶりんです。
模擬戦からクリリが脱落しましたね。構図としてキララvsクリリ、アラトvsクシュルになっているので仕方ない面もありますが。
これが完全な乱戦だったなら結果はまた違っていたでしょう。
では、白熱する模擬戦の続きをどうぞ。
アラトは振り返らずに飛ぶ。駆けてくるクシュルを迎え討つために、後ろは双剣がどうにかすると信じて。
だが、馬鹿正直に突っ込んで行っても意味はない。
クシュルの得物が《兎人の二双高剣》であるのに対し、アラトの得物は《宵闇の双短剣》か徒手空拳。《宵闇の双短剣》では《兎人の二双高剣》による攻撃を受け切れないことから、そもそも装備するだけ無駄だろう。相手の補助魔法の存在を考えると、現時点では相手の攻撃力や腕力の方が高い可能性もかなりある。そんな相手に、アラトは素手で対処せねばならないのだ。
「────ッ!!」
クシュルが声を出さずに気合いを入れ、右手の《二双高剣》を勢いよく振り下ろす。左の方は追撃用に控えさせているようだ。
「────くっ!?」
アラトはギリギリながらもその一撃を回避する。自身の左を通り過ぎた魔法剣を置き去りに、クシュルの懐に潜り込むことに成功。右の拳を握り締め、カウンターの一撃を叩き込まんとする。
だが、クシュルとて同じ轍は2度と踏まない。身体の横に添うように構えていた左の剣を、鋭く突き出す! このタイミング、この速度! 完璧だ! 詠唱する時間もない! これを回避することは叶わない! そうクシュルは確信する。
────────にやり。
「!?」
しかし、アラトは、不敵に笑った。
確かに、クシュルの攻撃は素晴らしい。この一撃を躱せるのは、速度特化の獣人族である『兎人族』の上位種族、『月兎族』くらいのものだろう。距離が近過ぎるため、詠唱も間に合わない。────そう、普通なら。
アラトは、心の中で高らかに唱い上げる。
(『下位上級返し技巧・拳剣交錯』!)
アラトに掛けられた『詠唱破棄』の魔法は、まだ解けていない。
先程までわざわざ声にして詠唱していたのは、MPの余分な消費を抑えるためと、クシュルを引っ掛けるためだ。
『詠唱破棄』も含まれる『特定階級無魔法・詠唱関連』は、魔法を駆使して戦うプレイヤーにはほぼ必須の魔法の1つだ。消費MPが増えるものの詠唱というタイムロスを完全になくせる『詠唱破棄』に、詠唱にかかる時間を大幅に短縮できる『詠唱短縮』や『詠唱圧縮』。他にもある『詠唱関連』の魔法を使えたことで、刹那の戦いに勝てた魔法職のプレイヤーも多いだろう。
逆に、技巧を主に使って戦うプレイヤー達(ほとんどが近接戦闘職)は『詠唱関連』を使えない、もしくはほんの少ししか使えない者の割合がかなり高い。『詠唱関連』が技巧に効果を及ぼさないというわけではないのにも関わらず、だ。大きな理由は2つある。
1つは、魔法職に比べてそこまで短縮しなければならない状況が起きにくいこと。魔法職が近接戦闘職に接近されたらなす術もなくなるのは、単純に相手に得意な距離に持ち込まれたということに加えて、詠唱する暇がないことが挙げられる。魔法職の武器は魔法なのに、それを使う暇がないとなれば勝てるわけがない。それを解決してくれるのが『詠唱関連』で、効果が発揮されていれば懐に入り込んできた近接戦闘職ともやり合える可能性が生まれる。だが、近接戦闘職はそんなことはない。『詠唱関連』を使うことによるメリットは相手にこれから自分が何をするか気付かれにくくなるかもしれないくらいで、そんな小細工を頑張るくらいなら相手が避けれない状況を作ることに尽力する方がよっぽどマシである。
理由のもう1つは────こちらが決め手と言っても過言ではないが────『詠唱関連』の効果を発揮して魔法・技巧を使うと、MPの消費が増えるのだ。これは深刻な問題である。近接戦闘職は基本的にHP、攻撃のパラメータに上昇補正が掛かり、MP、魔攻のパラメータには下降補正が掛かる。防御面や素早は職業によって大きく異なるから一概には言えないが……。一部の例外はあれど、大体そんな感じだ。全体的にバランスよく伸ばせるのは、魔法戦士系の上級職を極めようとしているなどの限定されたプレイヤーだけだろう。
つまり要約すると、「ただでさえMPが少ないのにわざわざ自分から消費MPを増やすくらいならちゃんと詠唱してその分のMPで技巧を使った方がマシ」というわけだ。
そして当たり前のことだが、その弊害か近接戦闘職は『詠唱関連』の知識が乏しい傾向にある。トッププレイヤーはその限りではないが、基本的に使わず、周りの者も使わない環境であればそれも仕方のないことだろう。
アラトはそこを突いた。
クシュルには以前、こんな魔法があると実演してみせたことはあったが、その状態での戦闘を見せたことはなかったし、その時は魔法しか使わなかった。故にクシュルの『詠唱関連』の認識は、「どのくらいの時間かはわからないが、魔法を詠唱なしで使える補助魔法」というものになってしまっているはずだ。それを利用できればと思ったわけである。
そして、アラトの予想は的中した。
色々なことを警戒していたであろうクシュルが、最後の最後に無警戒となって攻撃してきた。
このチャンスを活かさない手はない。
突きを最速で放つには、身体の構造的に身体を捻るのが一番だ。左の突きを今まさに放っているクシュルは、右手を引き戻しているわけである。これは、アラトが簡単に《兎人の二双高剣》に触れられるようになったことを意味していた。
スッ……、っとアラトの手がクシュルの手に添えられる。その瞬間アラトの手がブレたと思ったら、《兎人の二双高剣》はクシュルの手を離れて落下していた。
「……えっ? ────ッ!!」
クシュルは一瞬何が起きたかわからなかったようだが、先のアラトの言葉を思い出したのか、取り敢えず左膝を鋭く打ち出してアラトを牽制する。懐に入り込まれてしまっては仕切り直すために距離を取るしかないので、クシュルの行動は間違いではない。定石に近い行動と言えるだろう。
……だが、この場合においては悪手だった。
この状況を意図的に作り出したのはアラトだという事実を、焦ったクシュルは失念してしまっていたのだ。
この咄嗟の攻撃を待っていたアラトは、躊躇うことなく動いた。
左手で膝を受け止めるように構え、右手をクシュルの左太腿に添える。そして左手に膝が触れた瞬間、再度心の中で詠唱を行う。
(『下位上級返し技巧・衝撃ズラし』)
────ボキィッ!!
「あぐっ!?」
「ぐっ……」
太い骨が折れる音とクシュルの悲鳴が重なる。アラトの呻き声が小さく漏れる。
身体の何処かで受けた衝撃を、一切減衰させることなく他の場所から放出する『衝撃ズラし』。もっと階級が上の技巧ならそんなことはないが、『衝撃ズラし』では完全にノーデメリットというわけではなく、身体の中を衝撃が通過する際にその10%のダメージを受けてしまう。10%とは言っても、体内を直接搔き回すダメージだ。それは相当な衝撃だが、アラトは呻き声1つで捻じ伏せる。
「──ッ」
アラトは続けて、脚の痛みに脂汗を浮かべるクシュルの胸に手を置く。
衝撃そのものの痛みは疲労に変換されるが、衝撃の結果折れた骨の痛みに関してはルールは影響しないため、クシュルの意識は痛みで朦朧としてきていた。そのため、自分の胸に手を置くアラトの行動に、疑問を持つ余裕がない。揉まれてるわけではなさそうだし……まあいっか……などと考えていたくらいだ。
「『────』」
アラトが何か言ったのはわかったが、内容を聞き取ることはできなかった。
──その直後、クシュルの意識は暗転した。
「────プッ。……ふぅ、何とか上手くいったか」
身体の中をやられた影響か、口に上がってきた血を吐き出して一息吐くアラト。
クシュルは倒した。今頃、闘技場の外に出されて目を覚ましていることだろう。
クシュルにトドメを刺した技は、『上位中級暗殺技巧・心摑』という。相手の心音を感じ取れる箇所に2秒以上手を置き続けた時のみ発動できる即死系統の技巧だ。即死系統なので、当然即死耐性が機能する。それでも完全に無効化できるわけではなく、発動までに手を置き続けなければならない時間が延びるだけだが。
(俺は『心摑』と『心盗』までしか使えないけど、『暗殺術・心』はどれも強力な技巧だ。用心するために情報は後で共有しておこう)
クシュルにも訊かれるだろうし、と心中で付け加えるアラト。『上位下級暗殺技巧・心盗』は相手の即死耐性にかなり依存する1発勝負の技巧だ。0か1かの勝負では攻撃側に補正を掛けてくれる《マスパラ》のシステムだが、これは例外でむしろ防御側に若干の補正が掛かる。対低級モンスターにはある程度使えるが、中級モンスターの一部と上級モンスターのほとんどは即死耐性を備えているため、今のアラトではほぼ使う機会のない技巧である。また、アラトでは覚えられない階級の技巧、『上位上級暗殺技巧・心絞』は相手の心音を感じ取れる箇所に1秒以上手を、『上位特級暗殺技巧・心砕』は相手の身体の何処でもいいから1秒以上手を置き続けると発動できる。特に『心砕』は発動条件が簡単に満たせるので、知らないと冗談抜きで危ない。
(まあ、今はキララだ)
アラトは思考を切り替えて、キララを倒すために後方に飛んでいく。
時はアラトと《智慧ある双剣》が別れた瞬間まで遡る。
アラトに投げつけられたドーズとソーズは、目の前に迫る脅威がヤバイ物だと即座に理解した。
『ソーズ!!』
『おうよ!!』
『『魔力充填、同調完了! 『上位上級固有魔法・何であろうとぶった斬るっ』!!』』
ドーズとソーズは互いに魔力を渡し、同調率を高める。そして一糸乱れぬ動きで、飛んできた膨大な魔力の塊を叩き斬らんとする。
『ぐっ……』
だがやはり一筋縄では行かず、ドーズが呻くような声を上げるも、
『ぬ……ぬらぁぁぁぁああああ!!!』
ソーズが気合いを迸らせ、何とか切断することに成功した。
『『ぜい、はあ、ぜい……ぐうっ、かはっ……』』
しかし、やはり消耗は避けられない。疲労を見せる双剣に、容赦のない追撃が飛ぶ。
「へー、やるじゃん。んじゃ、もういっちょ行くか。『四神総勢協奏魔法・四位一体』」
4体の四神がそれぞれ口を大きく開き、各々の属性を宿した魔力そのものを打ち出してくる。それらは空中で混ざり合い、強大で複雑な魔力となって双剣に迫る。
『ちぃっ!! ドーズ! 俺がズラす、お前が落とせ!!』
『承知ッ!』
『行くぜぇ!! 『中位中級返し技巧・移ろう虚』!!』
ソーズがそう叫ぶのと同時に、ソーズの目の前、直径5m程の球状の空間が揺らぐ。
もし揺らぐ空間のすぐ近くに人がいれば、猛烈な暑さを感じただろう。それもそのはず。そこは陽炎が発生するほどの暑さになっていた。また、暑さを気にしなければそこで居心地の良さを感じる者もいるだろう。それはソーズが注入している物であり──それこそが『移ろう虚』の特徴でもある。
その空間は、カプセルのように魔力で密閉されたまま温度を上げていく。
キララが放たせた魔力塊が陽炎の下半分に侵入しようとした瞬間、さらなる異変が起きた。先程変化が起きた空間の真下、同様のサイズの空間で一気に温度が下がったのだ。さらに、そこから何かがソーズに流れ込む。温度が下がりすぎたためか、魔力のカプセルの下部に水が溜まり始めていた。
──そして、魔力塊が2つの空間の間のちょうど真ん中に来た時、魔力のカプセルが弾けた。その瞬間、意図的に作り出された気圧の差から2つの空間の間を、真下に向けて突風が吹く。さらに、枯渇した下の空間に向けて、飽和しきって破裂しそうな上の空間から、魔力の風が吹き荒れる。
魔力塊は魔力の風によって軌道をズラされ、そして、魔力塊に紛れ込んでいた『炎石の矢』は物理的な風に押し流された。
『ドーズッ!!』
失速し落下していく『炎石の矢』には目もくれず、ズラされた魔力塊が向かう先にいるドーズを案ずるソーズ。魔力塊を迎え撃つドーズは、切っ先を高々と掲げていた。
『『中位上級返し技巧────』
ドーズは魔力塊をしっかりと見据え(目はないが)、自身の身体を勢いよく振り下ろす。
『────魔墜撃』!!』
『中位上級返し技巧・魔墜撃』。魔の性質を持つもの────まあ強引に要約すると魔法関係の事象に対して補正の掛かるカウンター系の技巧だ。その補正によって魔法生物に多大なダメージを与えたり、攻撃魔法の威力を上げて跳ね返したりすることもできる。
ドーズに弾き飛ばされた魔力塊はキララ達に向かっていく。しかし、キララ達に焦る様子は一切見られない。
キララは軽く笑って呟く。
「放出した魔力を返してくれるなんてご丁寧にどうも、って感じだな。ビャッコ、頼むぜ」
『うむ。任された』
ポン、とビャッコの身体に手を置いて命令したキララに応えて、ビャッコが前に進みでる。
『魔力返還感謝するぞ、小童。『上位上級固有魔法・災禍吸滅』』
ビャッコが大きく口を開いて息を吸うと、魔力塊がぐんぐん吸い込まれていく。そして取り込まれた魔力は、魔力の通路を通ってキララを含む全員に分配された。
『なっ……』
『チッ、奴らはあんなこともできんのかよ……!』
四神の性能にドーズとソーズは驚愕を露わにした。そんな2振りに、キララは余裕の態度で話しかける。
「それにしても、あたしが紛れ込ませてた攻撃によく気づいたな! 素直に褒めてやる!」
普通『四位一体』ほどの魔力塊が放出されたら、他の魔力への感知能力が鈍りに鈍る。僅かな差はあるとはいえ、キララと四神の魔力は似ているので尚更気づきにくい。これは『四位一体』が大規模な攻撃だという証拠でもあるのだが……それ故に、それの裏に潜ませた攻撃を看破するのは容易なことではない。
それにしっかりと気づいて対応したソーズを、キララは純粋に賞賛していた。
────だが、客観的になると挑発のように聞こえるのも確か。事実ソーズは、挑発としてその言葉を受け止めた。そして、挑発されたらやり返すのが世の常識。
『ハッ! チビの割には多少やるようだが、俺を出し抜こうなんざ10年早えぞクソガキィ!! ガキはお家に帰ってママのおっぱいでもしゃぶってろやぁ!!』
「……あ?」
さてこの状況、ソーズにしてみれば挑発を返しただけだが、キララにしてみれば褒めたのにいきなり煽られたわけだ。当然、キララの眉がピクリと動く。仮に発育に関して言及されなかったとしても態度は変わらなかっただろう。
『こらソーズ! ……すまないね、お嬢ちゃん。こいつは口が悪いが、悪気があるわけではないのだ。今のも闘争心が強すぎてあのような物言いになってしまったのだろう。許してはくれまいか?』
「…………あ゛ぁ゛??」
ドーズの言い方は丁寧ではあったが、キララのことを子供扱いしているのは変わりなかった。キララの額に青筋が浮かび、女の子が出してはいけない程にドスの効いた声が漏れる。
四神はキララの怒気に中てられて完全にブルっていた。
『ま、マスター、落ち着いてください……!』
『そ、そうだぜマスター、あんな奴らの戯言なんか気にするこたぁねえよ……』
『……怒りに身を任せて良いことなど何もない、落ち着くのじゃ』
『あわわわわあばばばばば』
『『『本当に戦闘以外では役に立たないな玄いの!?』』』
四神がコントを繰り広げている間に、キララの腹も決まった様子。
「…………ふ」
ゆらぁ、と顔を上げて。
「ふふふあははははははあああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
危ない嗤いから一転、吠えた。
「ああ───もうあったまきた!! おめーら跡形もなく吹き飛ばしてやる!! スザク、セイリュウ、ビャッコ、ゲンブ!! あたしと一緒に全力でぶちかませえ!! 『中位特級無魔法・直結譲渡』!!」
キララが魔法を行使すると、四神とキララを繋ぐ魔力の回路に膨大な量の魔力が流れ込む。四神全員が魔力を受け取り、淡くキララの魔力を纏う。これで、四神は1度だけ上位特級の魔法を使えるようになった。
「オラ喰らえやあ!! 『上位特級獄炎魔法・邪炎爆噴』ッッッ!!」
キララが地面に手を付き、
『行きます! 『上位特級獄炎魔法・劫火顕嵐』!!』
スザクが羽ばたきを始め、
『悪く思うな! 『上位特級激流魔法・水圧爆撃砲』だっ!』
セイリュウの周囲に直径20cm程の水球が幾つも浮かび、
『……まあ、仕方あるまい。壊れんことを祈るばかりじゃ。『上位特級暴風魔法・雷嵐炎渦』』
ビャッコが祈りを捧げるように目を閉じ、
『っしゃ行っくぜええええええええええ!! 『上位特級岩石魔法・超々岩石乱舞重連撃祭』ァァァァァァ────イムッッッ!!』
ゲンブが吠える。
1人と4体から迸る莫大な魔力に、ドーズとソーズは慌てて対応に走る。
『げっ、こりゃマズイ!? ……耐え切れるかはわかんねえけどやるしかねえか、『上位特級空間魔法・隔絶結界』!!』
『私も重ねて守りを固める! 『上位特級空間魔法・対魔聖域』!!』
2人は同時に防御のための魔法を使う。ソーズの使った『隔絶結界』が2人から5mの距離に展開され、ドーズの使った『対魔聖域』が2人のすぐ側に出現し2人を包む。
その次の瞬間、キララ達の攻撃が『隔絶結界』を襲う。
2人の前後左右上下に巨大な魔法陣が出現し、そこから数多の岩石が射出され────そうになった時、大地から噴出した炎の波が下の魔法陣を、スザクが巻き起こした世界を焼き尽くす焔の風が手前の魔法陣を、ビャッコが発現させた雷が上の魔法陣を叩き壊し、ビャッコの嵐が残りの魔法陣をもガリガリ削り取っていく。なんとか岩石を放つことはできたものの、その威力、物量はとても悲しいことになっている。セイリュウの攻撃は魔法陣同士の間を縫ってドーズ達に襲いかかっているため、ゲンブの魔法陣には影響はなかった。
『ぎゃあああああああああああああ!? 俺の『超々岩石乱舞重連撃祭』があああああああああああああ!?』
「『『あ、ごめん』』」
そんなコントを繰り広げている間に、それぞれの攻撃が『隔絶結界』に飲み込まれる。
『隔絶結界』は、触れたものを何であろうと吸い込み消滅させる結界だ。起きる現象としてはブラックホールが一番近い。『隔絶結界』には溜め込める量と消滅速度に限界があるため、ブラックホールとは全く違う物だが。『隔絶結界』の容量が埋まった時、結界は壊れる。それでも既に取り込んだものに関しては解き放つことはない辺り、上位特級の魔法であると感じさせる。容量が埋まった時に結界が壊れるということは、逆に言えば容量が埋まらない限り『隔絶結界』は維持されるということでもある。つまり、単位時間当たりの溜め込まれる量<消滅させる量なら『隔絶結界』は永遠に壊れないし、溜め込まれる量>消滅させる量なら『隔絶結界』はいずれ壊れる。
そして今回、そのままの『隔絶結界』では、キララ達の猛攻を10秒と抑えることはできないとソーズは確信した。
なので、容量と消滅速度を上げることにする。
『ドーズ! 俺はこの攻撃をできる限り抑えることに全てを尽くす! 後は頼んだぜ!』
『……承知!』
『よし、いっちょやるかぁ!!』
ソーズは、『隔絶結界』に余分な魔力を注ぎ込む。MPは魔法を使う時にぴったり徴収されるので、余分にMPを入れる必要はなかったし、できなかった。────《マスパラ》というゲームの時には。
ここでは違う。この世界は現実だ。ゲームではない。余分に魔力を注ぎ込むこともできるし、意味もある。プレイヤーであるアラト達や、NPCとは言えどもプレイヤーと同じように活動していたクシュル達にはわからなかったが、智慧があるとは言っても道具であるドーズ達や、召喚されはしたが所詮は魔力で造られた存在であるスザク達はこの世界の原理を本能的に理解していた。
魔力を余分に注入された『隔絶結界』は、その容量を増やし消滅速度を上げていく。
それに気づいた四神達も、自分達の存在を維持する分のMPは残した上で自身の攻撃にさらなる魔力を上乗せしていく。『隔絶結界』の性質上、攻撃を切らせることは下策。また、MP的にも追加で足す方が新たに魔法を使うより安上がりだ。このやり方に気づいていないキララの攻撃が途絶えるが、それも数瞬のこと。すぐに『邪炎爆噴』を唱え直し攻撃を再開する。やはりキララと四神のMP量の差は歴然だ。
────守る側が追加した魔力がソーズの分だけなのに対し、攻める側が追加したのは四神4体分。いくら存在維持のためにMPを温存しているとはいえ、数の差は歴然。密度を高めた攻撃に、ソーズの『隔絶結界』は1分と保たなかった。
だが、ソーズの頑張りは決して無駄にはならなかった。ソーズが四神の攻撃の威力を削ぎ落としたことによって、魔力を追加したドーズの『対魔聖域』が残りの攻撃を防ぎきることに成功する。『対魔聖域』はその名の通り、魔に属するものを防ぎ弾く聖なる領域。魔法生物の侵入を阻み、魔法攻撃の攻勢を弾き返す。確かにキララ達の攻撃は激しいが、現状受け切れないことはないとドーズは考える。その判断は間違いではないが、間違いでもあった。
「はっ、『対魔聖域』ならちょうどいい! これで決まりだ! 『上位特級獄炎魔法・灼獄新星』ッッッ!!」
キララが腕を振るい、小さな光輝く球体をドーズとソーズに嗾ける。球体は物凄い勢いで彼我の距離を潰す。
『灼獄新星』には、魔法の防御を食い破り糧にして火力に変える性質がある。故に、『対魔聖域』などただの餌。だが、そのことを知らないドーズは避けることはできないし、避けようとすら思わない。
あと数秒で『灼獄新星』が『対魔聖域』に着弾し、全てを飲み込む────という瞬間。
「殺女っ!!」
『──『下位特級刀専用切断技巧・封刺抜刀』』
突如現れたアラトの鋭い呼びかけと、それに続く抑揚のない声。
見る者の心を奪うような美しい日本刀を手にしたアラトが、『灼獄新星』を斬り払っていた。