あんなヤツ、忘れてしまえ。
今、思う気持ちが交差している。誘惑に打ち勝てない弱い自分。心はジェンガのように崩された。
人恋し、人恋し、
甘美な誘惑は私を包んで、
惑わしてしまう。
ティアナはメシア君とした口づけを思い出して、「あれは夢だったんだ」と思う。
メシア君はそのまま家まで送ると、真顔で「考えて見て、このキスの意味」と謎掛けを出した。
メシア君のペースに巻き込まれてる私。
レア以外の人を愛すなんて出来るの?
人惑わし、酔いしれよ、いっぱいの愛で。
次の日、メシア君は何も言わずに朝迎えに着た。
お母さんに「ティアナもやるわねぇ」と言われ、大変恥ずかしい。
「…あの謎掛けの答え分かった?」
「…え?」
恥じらう私に平然としたメシア君は応えた。
「正しいと思う答えは君が出せばいいんだよ」
メシア君はそう言うと、下駄箱に入ってる手紙を見つけた。
「…あ」
メシア君は悪びれた様子もなく、飄々としてるのに、
この心の靄はなんだろう。
「手紙読んでくれましたか?」
そう言うと、白い長い髪をした女の子が恥ずかしそうに俯いて、メシア君の答えを伺う。
「…ああ、これから読むところだったんだ」
「ちょっと放課後来て貰えませんか?」
…ずきん、胸が痛む。何だろう、これは。レアとは明らかに違う気持ち。
人愛し、隣人を愛す。
私もそうだろうか…。
授業が終わるのをぼーっと聞いていた。
小テスト、先生に当てられての朗読、周りの噂。
ティアナさんってさ、レアって男の人と別れたの?
この間水族館で二人見たけど、レアじゃなくてメシアだったぜ。
メシア君もティアナさんって、お似合いだよね。
どうでもよかった。
そっと唇を手でなぞる。
キス…しちゃったんだ。
顔が赤らみ、自覚する。
この気持ちは、
レアとは違う所でどこか惹かれてるんだ。
あっという間に放課後のチャイムが鳴る。
ティアナは友達に「大丈夫?」と散々聞かれるくらい放心状態だった。
白い長い髪の女の子が廊下を歩いてるのを見た。
それとなく後をつけてしまう。
何やってるんだろう。
案の定お約束の展開だ。
「メシア君私と付き合ってくれませんか?」
メシア君はどうするんだろうか?
「ああ、今興味ないから」
その言葉を聞いて、女の子が泣きながら、こっちへ寄って来る。
その言葉を聞いて、ショックを受けてる私もいる。
キスしたのも、デートに誘ったのも、
ただ単に気まぐれ。
メシアはけろりと何もなかったかのように振り返る。
不味い、隠れなくては。
そう思って、樹の後ろに隠れてる。
「…見えてる」メシアはそう言い放つと、どんどん近づいてくる。
メシアが瞳孔を開いたのは、ティアナの泣き顔がきっかけだった。
「…私、レアが好きだから」
「…それが?」
見透かされてるような気持ちになる。
「本当に本当にレア一人だけ好きで居るから」
「…それが?」
自分だけがこんな気持ちになってると思った。
すると、メシアはもう一度キスをした。
今度は避けられたのに、敢えて避けなかった。
初夏の香り漂う木の下で、
メシアは「好きだ」と語り始めた。
レアはティアナの家庭教師、レアは過去に恋人を殺めて、ティアナに重ねた。
ずっとずっと長い片思いだったよと語り始める。
あの余裕綽々なメシア君が顔を赤らめながら、話している。
答辞で初めてメシアが表彰台から見たのは、可愛い寝顔。
緊張して疲れてしまっただろうか。
それとも馬鹿にしてるのか?
後者なら怒鳴ってやる。
前者だったら、その時は告白しよう。
一目惚れだった。
「レアなんて男忘れてしまえ」
その言葉に、今だけは酔いしれて忘れてしまう。
レア、ごめんね。
数日前、寝ているレアにそっとキスをした。
空回ってる自分の気持ち。いつまで経っても子供扱い。
私は、クレハさんでも何でもない。
私だけ愛してくれる人がいいの。
そう思い、揺れていた私の心はジェンガのように崩された。
今更な貴方は許してくれますか?のタイトルの意味、分かりましたか??