いくら出す?
第2話です!
感想を送って下さった方、評価をつけて下さった方、本当にありがとうございました!
これからも頑張ります!
さて、今回はユウの友達とユウの弟妹が初登場です!
黒ずくめの不審者に遭遇した翌日。俺は、その不審者の正体を知ることとなった。
「はよー、ユウ」
「おお、おはよー」
不審者に遭遇した翌日。教室に入った俺に真っ先に声をかけたのは、友人の葵レンジだった。レンジは珍しく新聞を広げている。
「どうした、レンジ。株でも始めたのか?」
「ちげーよ」
違うんだ。
「じゃあ、面白い殺人事件でもあったのか?」
「お前なぁ、なんで殺人事件が面白いんだよ」
え、面白くないのか?俺は面白いと思うんだが。
レンジは俺の前に新聞を広げ、一枚の写真を指差す。
「ほら、これだよ、これ」
「これ?」
俺は写真を見る。そこには、昨日の不審者と俺が写っていた。もちろん(?)、俺の顔には目線が入っていたが………肖像権とかどうなってんだ?俺はOKなんざ出した覚えはないぞ。後で新聞社に電話して、金でもふんだくってやろうか。
なんてことを俺が考えていると、レンジが写真の側に書いてある見出しを読み上げた。
「『日本一の大怪盗、怪盗ファントム。遂に柏町に出没』だってよ」
「怪盗ファントムぅ?」
俺はすっとんきょうな声をあげる。あの不審者、怪盗だったのか。それにしても怪盗とか、今どきいんのか。っていうか、ファントムってなんか微妙な名前。
「凄いよなー、この町に怪盗が出たんだぜ?しかもこの写真に写ってる奴、いいよなぁ。怪盗と一緒に写ってるとか」
いや、そうでもなかったぞ?なんか変な奴だったし。
「お前、あんな変な奴と写真撮りたいのか?変わってんなー」
俺が言うと、レンジはちょっとムッとしたように言った。
「なんでお前、ファントムが変な奴だって思うんだよ?」
「だってそれ、俺だし」
「は?」
おいおい、まさか、気づいてなかったのか。
「だから、そこの写真に写ってる怪盗じゃない奴、俺なんだよ」
友達だったら気づきそうなもんだが。
「………。ええええええええ!?」
レンジは一瞬黙りこんだあと、突然大声を出してその場で2メートルほど跳んだ。おお、高い高い。クラス中の視線が俺たちに集中する。
「おおおお前っ、ほほほほんっとうにっ、会ったのか!?ファントムに!?」
「っぐ、ぐるじいっ」
俺の胸ぐらを絞め殺さんばかりの勢いでギュウギュウ絞めてくるレンジに、俺はギブアップする。し、死ぬかと思った。
「あぁ、会ったのはホントだよ」
するとレンジは、とたんに目をキラキラとさせ始める。
「へぇー、会ったんだっ、会ったんだ!?なぁ、どんな奴だった、怪盗ファントムっ」
お前は俺を絞殺しかけたことは謝らないのか。「悪いことをしたらごめんなさい」って、教わらなかったか?
「どんな奴って、さっきも言っただろ。とにかく変な奴だった。そういえば、ルビー持ってたな。なんでだ?」
レンジに尋ねると、すぐに返事が返ってきた。
「あ、それならあれだ。あれ」
さっきから「これ」とか「あれ」とか、それじゃわからん。
「この町の宝石店で、ファントムが宝石強盗に入ったんだ。だからじゃないか?」
なるほど。道理で、ルビーなんか持っていやがったわけだ。
すると、始業のチャイムが校内に響き渡った。
昼休み。すなわち飯どき。
「なぁ、ちょっと頼みがあるんだけど」
4限目に使っていた教科書たちをしまっていた俺は、手を止めてレンジを見た。
「なんだ?」
レンジは顔の前で両手を合わせて、俺を拝むポーズ。
「今日、夕飯ごちそうして!」
「やだ」
俺は即答。
「なんで!?」
「食費が余分にかかる」
前回も言ったが、俺のウチは貧乏なのだ。誰かに夕飯をごちそうするほどの余裕は、はっきりいってない。
「お願い!」
レンジはなおも俺を拝み続ける。
「今日、ウチの両親いなくてさ。夕飯作ってくれる人いないんだよ。俺は料理できないし。だからっ、お願い!」
「カップラーメンでも食ってりゃいいだろう」
「そんなこと言わずにさぁ!友達だろ!?」
「………」
やれやれ、しつこい奴だ。そんなレンジに、ちょっとだけ慈悲をくれてやろう。
俺は机に肘をつき、手を組んで、その上に顎を乗せる。そして言ってやった。
「いくら出す?」
「金かよ!?」
レンジは俺を拝むポーズをやめた。
「当たり前だ。世の中、金が全てだ」
「いやいや、金以外にも大事なものはあるよ!?」
「世の中、金でまわってんだよ」
「そうだけど!そうだけどね!なんかお前、金の亡者みたいになってるよ!?」
「で、結局いくら出すんだ?」
「最初に戻るのかよ!ていうか、お前は友達から金を取るのか!」
「世の中、金が全てだ」
「それはもういいよ!」
レンジはゼーハーゼーハーと息切れしている。まだ10代だってのに、情けない奴め。
「じゃあ、これでどうだ」
そう言ってレンジが机の上に置いたのは、100円玉。
「………これで足りるとでも?」
「足りないの!?」
「当たり前だ!最低でも500は出せ」
「500!?」
レンジは俺にくってかかる。
「500は多すぎだろ!」
「なに言ってんだ!定食屋なら安いもんだろ!」
「うぐっ」
レンジは俺の胸ぐらをはなす。そして今度は、机の上に500円玉を置いた。
「まさか、500円きっかりで話しをつけようなんて、思ってないだろうな?」
「じゃあ、お前は俺がいくら出せば満足なんだよ!?」
「お前は最高でいくら出せるんだ?」
俺が聞くと、レンジは財布の中を見て一言、
「1000円」
と言った。
「じゃあ、1000円」
「おい待て!」
俺の差し出した右手を、レンジはペチンッとはたく。
「お前さっき、500でいいって言ったよな!?」
「あれは最低金額だ。最高金額じゃない」
「お前は鬼か!今ここで1000円使ったら、俺の今月の小遣いがなくなるんだよ!」
「俺が我が家の生活費として有効活用してやる。本望だろう?」
「いいや!ぜんっぜん!」
そこから俺たちの金額交渉が始まった。
「500円!」
「1000円」
「600円!」
「900円」
「700円!」
「800円」
「750円!」
「………はぁ、しょうがない。それで手をうとう」
「ぃよっしゃー!」
「ちっ」
クソ、750円か。次は絶対、もっといっぱいふんだくってやる。
「おい!『ちっ』ってなんだ、『ちっ』って!」
「いーや?別にー?」
俺はレンジを横目で見やる。レンジは嬉しそうに万歳をしていた。
こうして、俺たちの昼休みは昼飯を食う暇もなく過ぎていった。
「ただいまー」
放課後。レンジと共に夕飯の買い出しをして帰った俺は、早速家の中にむかって挨拶。すると中から、バタバタとウチの可愛い弟妹4人が姿をあらわした。
「兄ちゃん、お帰り!」
これは俺のいちばん上の弟、レン。
「ユウお兄ちゃん、お帰り」
これは俺の唯一の妹、ラン。
「ユウ兄ちゃん、お帰りっ」
これは俺の2人目の弟、リン。
「ユウにぃ、おかえり。えほん、よんで」
これは俺のいちばん下の弟、ルイ。
ちなみにランとリンは、双子だったりする。
レンは俺の後ろに立っているレンジを見つけると、目を輝かせた。
「おお!レンジ兄ちゃんがいる!」
「よぉ、チビ共。元気してたか?」
レンジが4人に挨拶する。レンジは今までに何回もウチにきたことがあるから、俺の弟妹たちとは普通に仲がいいのだ。
「じゃあ、レンジ。俺は夕飯の支度があるから、レンたちの相手は頼んだぞ。あぁ、ルイ、絵本はレンジに読んでもらえ?」
俺は紺色のエプロンを身につけると、さっさと台所に行く。なんで俺が夕飯の支度をするかっていうと、できるのが俺しかいないから。なんで俺しかいないのかっていうと、親がいないから。ウチは母子家庭で、母親が夜遅くまで働いているのだ。だから俺が、毎日食事の準備をしてる。
「兄ちゃん、今日の晩飯、なに?」
レンがワクワクとした感じで聞いてくる。
「今日はオムライスだな」
なんでオムライスかって?理由は特にない。強いて言うなら、卵が安かったからだ。
「ほれ、せっかくだから、レンジに遊んでもらってこい。夕飯作るから」
俺は御飯をケチャップで炒めて、ケチャップライスにする。それから卵を焼いて、ケチャップライスを包んだ。小一時間もしないで、全員分のオムライスができあがる。なかなかの出来だ。俺は居間にいる全員に声をかけた。
「おーい、夕飯できたぞー」
俺はオムライスを運ぶ。
レンジは、自分のオムライスをつつきながら言った。
「ユウってホント、無駄に料理スキルは高いよなー」
「無駄にって言うな」
俺は食べながら抗議する。
「にぃ、えほん、よんで」
ルイが絵本を差し出してきた。
俺は絵本を受け取りつつ言う。
「今は御飯中だから、後でな?」
「うん」
ルイはこっくりと頷いた。さすが幼稚園児。しぐさがいちいち可愛い。
レンジの、
「ホントにユウはブラコンだな」
という呟きは、聞かなかったことにしよう。うん。
わああああッ!
なんか、すんごい長くなっちゃった気がする(汗)
いかがでしたか?
レンジ、レン、ラン、リン、ルイの5人!
怪盗さんは、もうちょい後かなー?
またまた次回で、お会いしましょう!