なんだったんだ?
こんにちは。
三作品目の連載はコメディーです!
楽しんでいただけたら嬉しいです!
「なぁ、オヤジ。今日はオマケねぇの?」
商店街の八百屋に、俺の声が響く。
俺の名前は関屋ユウ。高校生。ただいま近所の商店街にて、夕飯の為の材料を買い出し中である。え?なんでいきなり自己紹介してんのかって?そりゃあ、俺が地の文の担当をしてるからな。自分で自己紹介しなきゃ、誰もやってくんねぇもん。
さて、話を戻そう。
俺は今、八百屋でオヤジにオマケをせびっている。ウチはかなりの貧乏だから、日々の節約を怠らないのだ。
「オヤジ。ウチ、今日の夕飯カレーなんだよな。ジャガイモ、これだけじゃ足りないんだけど」
するとオヤジは申し訳なさそうに言う。
「悪いね、ユウ君。ウチも今厳しくてさ。今日のオマケは無理だよ」
なるほど。我が家の家計の事情を知っている数少ない人物であるオヤジでも、今日は無理らしい。諦めるか。
「わかったよ、オヤジ。またな」
「ほんと、悪いねぇ」
俺は八百屋から出て歩き出す。それにしても困った。これじゃ、カレーの為のジャガイモが足りない。いっそのこと、カレーをやめるか?でも、俺の可愛い可愛い弟妹たちは、今日のカレーを楽しみにしている。あ、誰だ今、ブラコンって言ったの。俺はブラコンじゃないぞ。
俺が悶々と考えながら歩いていると、
「うおっ」
後ろから走ってきた奴とぶつかった。
「あ、すんませ………」
俺は取り敢えず謝ろうと思い、相手を見る。しかし、出かかった謝罪の言葉が途中で引っ込んだ。なぜなら、
「あー、僕の方こそゴメンね。キミ、ケガなーい?」
そいつが全身黒ずくめだったから。黒いマントに黒いスーツ。黒シャツ、黒ネクタイ、黒のシルクハット。
(え、なにこの人?某探偵マンガに出てくる怪盗キ○ドのコスプレ?いやでもあの人は白か。でもなんでこんなところで?)
まるでというか、がっつり不審者だ。周りの人たちの視線が痛い。
目の前の不審者は、親しげに俺に話しかけてくる。
「あ、キミ、お使いの帰り?偉いねー」
お巡りさん、ここに不審者がいます。
「そんな偉いキミに僕、お願いがあるんだけど」
不審者は俺に顔を近づけて、ひそひそ話の要領でしゃべる。
「僕、こわーいおじさんたちに追っかけられてるんだよね。だからさ、キミの家にかくまってくれない?」
ここで「うん」と言えば、俺には簡単に死亡フラグが立つ。全力で回避しなくては。
不審者は自分のポケットをゴソゴソして、なにかを取り出して俺に見せる。
「かくまってくれるんなら、キミにこれをあげるよ」
不審者の手の上に乗っかっていたのは、真っ赤でキラキラと輝く綺麗な石。
「ルビー?」
俺は不審者に尋ねる。
不審者は大きく頷いた。
「そう、ルビー。これをあげるからさ、僕をかくまって」
「要らん」
俺は不審者の言葉を遮る。俺が今欲しいのはルビーじゃない。ジャガイモだ。
「ルビーは食えんだろ。ジャガイモをよこせ」
「へっ?ジャガイモ?」
不審者は驚いたようだった。しかし、俺の背後へと視線を向けると、途端に慌てだす。
「おっと、僕もう行かなきゃ」
そして俺をもう一度見ると、ウインク。
「キミ、なかなか面白いね。また会えるといいなぁ」
は?俺は会いたくないっつーの。不審者に進んで会いたがる奴なんていないだろ。
不審者は走っていく。
俺はジャガイモの入ったビニール袋を持ち直して、家路へと急ごうとした。しかし、
「君、大丈夫だったかね?」
俺の肩を叩いてくる奴がいた。今度は誰だ。
俺はちょっとイラッとした。振り返る。
そこに立っていたのは、スーツを着た小太りのオッサン。そしてその他大勢。
オッサンは俺の顔の前に縦長の手帳のようなものを差し出す。よく見ると、それは警察手帳だった。
これはこれは刑事さん。さっき、不審者と会いましたよ?
「はぁ、俺はいたって健康ですが?」
「そういうことじゃない」
刑事さんは俺の答えを一蹴する。じゃあどういうことだ。
「さっきの男になにか変なことをされなかったかね?」
ああ、そういうことか。
「ルビーをあげるからかくまって、と言われました。断りましたけど」
俺は答える。
刑事さんはふむふむと頷いて、俺にビシッと敬礼した。その他大勢も刑事さんに続く。
「協力、感謝する」
俺もつられて、ビシッと敬礼した。すると、刑事さんとその他大勢はさっきの不審者が走っていった方へと駆けていく。俺はそれを呆然と眺めながら、首をひねった。
「なんだったんだ?」
このときの俺は、この出会いが俺の短い青春をぶっ壊すだなんて、思ってもいなかったんだ。
どうでしたか?
感想とか貰えたら、嬉しいです。