第三話 エイト・ナイン
さて、あの時葉月から逃げた弥生はというと……。
西校舎の階段を全て登りきって、屋上までやってきていた。
全速力で走ってきただけあって、弥生の息は既に切れ切れ。その場にドカッと倒れ込むと、仰向けに寝転ぶ。
ポカポカとした陽気でずいぶん気持ちがいい……。
弥生は頭上で腕を組み、そのまま腕を枕にした。
「あー……空が青いなぁ……」
いや、赤かったら大問題である。
空はいつもどおりの薄い青色が一面に広がっており、白い雲がアクセントになっている。まるで青いキャンパスに白い絵の具をぶちまけたかのような景色だったが、弥生はこの景色が嫌いではない。
今も昔も変わらない、この空の色が嫌いではない。
(あぁ……、結局入学式サボっちゃったなぁ……)
授業をサボって屋上で転がっている……。一昔前の不良みたいな光景である。
それも授業じゃなくて、入学式をサボっている。
こんな不良生徒、そうそういるものじゃないのではないだろうか。
自分の行動に苦笑いをしながら、弥生はゆっくりと先程の少女の事を思い出していった。
思い出す……とは言っても、難しいことではない。その出来事はつい先程のことであり、意識して思い出さなくても思い出せるはずの事だった。
しかし、彼女の「お兄ちゃん」という一言のせいで、冷静さを失ってしまったので、あの時の状況を良く理解できていないのである。しかるに、弥生は思い出すという行為が必要だった。
彼女が呼んだ兄という言葉……。
兄とは確か、本人から見て傍系2親等の年長の男性――通常は同じ父母から生まれた年長の男性――の事を言うはずだ。つまり、僕と彼女は同じ父親……もしくは母親から生まれた子供だということだろうか……?
でも、弥生には妹がいた記憶なんてなかった。
弥生の覚えている限りで最も古い記憶は、父親に連れられて地方を転々としていったことだ。あの日々は弥生の人生の中でも最も辛かった記憶でもある。
その後も酷い事は沢山あった。多くの“不幸”を見てきてはいたが、それでもあの日々ほど地獄を見たことはない。……あの日々だけはもう、繰り返したくない。
グッと弥生は唇を噛み締めた。
弥生は父親が嫌いだった。
何も言わずに自分の手を握り、どこかに連れ去っていく……。そんな父親が弥生は大っ嫌いだった。
仕事から帰ってくればいつも暴力を振るってきて。気に入らないことがあれば少ないお金で酒を買って飲んで。挙句の果てには僕の目の前で死んで。
何一つ父親らしい事なんてされた覚えはない。
(あんな男に……あの子みたいな女の子が出来るはずがないよなぁ……)
あんな最低な男からあんな女の子が生まれるはずがない。
自分みたいな最低な人間は生まれても、あの少女みたいに可愛い女の子が生まれるはずがない。
だとすれば――。
彼女とは血のつながりがないのではないだろうか――?
そうだ。そうに違いない。
弥生は自分の中で無理やりそう結論付けると、そのままゴロリと寝返りをうった。
「………………」
妹じゃない。そう頭で思い込んでも、心が晴れない。
なんだかモヤモヤとしていて、どうしても落ち着くことができなかった。
「うぅぅぅ……あー!! もー!!」
寝ている状態から上半身だけを起こし、ポケットの中から携帯を取り出す。
今の時代の携帯電話はほぼ全てタッチスクリーン型になっており、入力装置と出力装置が一体型になっている。弥生は携帯の画面の中から電話帳を開くと、とある人物へと電話をかけた。
聞きなれた電話の接続音。
コール回数が5回を過ぎた頃、電話の相手が現れた。
『なんじゃ? ナインか?』
電話の昔の主流は通話のみのものだったが、現在ではテレビ電話が一般的な通話機能になっている。これは、情報メディアが発達し、大量のデータを一度に送ることが可能になったことが大きな理由である。
その為、同時通話も可能となっており、通常回線でも10人が同時に会話を出来るという機能まで付いているくらいだ。
無論その機能が最大限役に立つ場面などそうそうないだろうが。
「うん……急に電話なんてかけちゃってごめんね」
『まぁそうじゃな。出来ればもう少し妾を寝かせて欲しかったのじゃんがな……ふぁぁ……』
携帯に映っているのは白銀の髪をした眠そうな少女だった。
彼女の名前は蓮。本名かどうかは判らないけど、おそらく偽名。
美しい長い白銀の髪を持っているが、日本人らしい。どうも隔世遺伝による影響で昔の人の血が現れてしまったのではないかというのが皆の見解。本当かどうかは誰も(本人すら)知らないらしい。
しかし、最も注目すべきはその年齢だろう。
背は低く(携帯ではバストアップまでだから見えないけど)、可愛らしく大きな眼。まだちょっとだけ頬がプニッとしており、やや丸い印象がある……。
外見年齢は……、10才程度。
完全に幼女だった。
『それで? 何の用じゃ? ナインの方から連絡をよこすなど、珍しいこともあるものじゃな……』
寝起きなのか、眠たそうに目をこすりながら弥生に聞いてくる蓮。
その姿はどう見ても小学生である。
弥生はその蓮の姿に慣れたもので、特に気にせず、
「それが、僕の妹を名乗る女の子に出会ったんだ」
自分のありのまま起こったことを伝えた。
『――――はぁ? なんじゃそれは? 新手の詐欺か何かではないのかのう?』
「いや、詐欺って……。学校に通っている幼気な少年を“妹”だと名乗って詐欺するような女の子なんているのか……?」
『美人局の仲間みたいなものではないのか? きっと妹だと思っておると、その内怖いお兄さんがお主の家に詰めかけてくるのじゃよ。それじゃあ通話切るぞー』
「待ってください、待ってください。もうちょっと話を聞いてください」
『ふぅぅ……なんじゃ? まだ用があるのなら、さっさと言うてはくれんかのぅ……?』
「分かったよ……」
盛大なため息を吐き、弥生はディスプレイに映る少女を真剣な瞳で見つめた。
それに反応してか、蓮も身を引き締めた。だが、どうしても外見年齢のせいか、その顔には真剣味は足りていなかったが。
「その妹って名乗る子にあった瞬間、何か……ちょっとよく分からないんだけど、違和感があったんだ」
『違和感?』
「うん……。あぁ、ようやく会えたなぁっていう違和感……。僕には妹なんて居なかったはずなのに、それでも久しぶりに会ったっていう感覚だけは少しあったんだよ」
『記憶がないのにか?』
「うん」
弥生は10分程前の事を思い出す。
少女に「お兄ちゃん」と言われた瞬間、弥生の中で欠けていたひとつのピースがカチリとハマったようなそんな感覚がしたのだ。
だが、弥生にとってはそれが違和感になってしまっていた。何故か?
例えば一面真っ青のパズルがあったとする。少なからず出来上がっているこのパズルにハマったピースがあったとしても、それが本当に正しいのかは判別しにくい。おそらく「それは本当に正しいピースなのか?」と疑問に思うのではないだろか?
つまりはそういうこと。
弥生のなかではピースがハマったような感覚があったが、弥生にはそれが正しいピースなのかどうかが分からないのだ。
「僕は子供の頃の記憶がかなり曖昧なんだ……。だから、もしかしたら忘れている“何か”が彼女達の事に関することなんじゃないかなぁって」
『……記憶……のぅ……』
正直話をすれば、蓮は弥生の記憶に欠落があるのを知っている。
その欠落は人工的……いや、どちらかと言えばとある事件の結果と言ったところか……それによって引き起こされた二次的なモノであった。
それだけではない。
弥生が服用している【ある薬】も、彼の記憶を欠落させる原因になっていると蓮は考えている。
『まぁ、よい……。それで? 妾は一体何をすればよいのじゃ?』
「過去を――――僕と彼女の過去を調べて欲しいんだ」
『……過去か…………、まぁ良いじゃろう。少し時間をくれ。夜までには資料を集めておいてやろう。あー、出来れば19時位にこちらに来てくれると助かる』
「分かった」
何らかの仕事の話だろうと弥生は当たりをつける。
だとすれば、こんな通常回線で話せる会話でもない。蓮の言葉に弥生は頷きを返した。
「それじゃあ19時にそちらに向かうよ。また後で――――」
と、電話を切ろうとしたところで、
『これっ!! またぬか!!』
蓮の静止の声が飛んでくる。
弥生は驚いて、通話を切るボタンから指を話すと、蓮をマジマジと見つめた。
その顔は少し赤い……。というか、ちょっぴり怒っているように見える。
「えっと……怒ってる……? 僕、何か怒らせるような事したかな……?」
『お主……、昨晩帰投命令を無視したじゃろ?』
「え? 帰投命令――――あっ」
と、弥生は昨晩のことを思い出して眼を逸らした。
その弥生の態度を見て、ディスプレイ内の蓮がググィ~と近づいてきた。その眼は弥生を非難しているように見える。
ジト目の蓮を見て、誤魔化すのは無理だと悟る。
「すみません……」
『お主が帰投命令を無視したせいで、妾は昨晩こってりと絞られてしまったのじゃぞ……?』
(寝不足の理由は僕だったのか……)
このような昼間に眠たいと言っていたのは昨晩よく眠れなかったから……。そして、その原因は弥生が命令を無視した事によるシワ寄せだった。
『まぁ、反省しておるのなら良い。次からは命令にはキチンと従ってもらわなければ困るぞ?』
「うん……、でも、薬を使っている間はどうしても気分が高ぶっちゃうんで……、すいません……」
『それはわかっている。が、昨日は上の方から緊急の連絡も入っていたのだ。そう簡単に無視されても困るのだ』
「……すいません……」
今回のことは全面的に弥生が悪い。
そもそも、上からの帰投命令に対して、無視し、なおかつさらに緊急の連絡をも聞かずに帰ってしまったのだ。
これはさすがに怒られても文句は言えない。
しょぼくれた弥生の姿を見て、蓮は溜息一つ。
『はぁぁ……まぁ、お主も反省しておるじゃろうし、あの時は薬の効果も出ておった。仕方ないことといえば仕方ないのぅ』
「……本当に、すいません……」
『まぁ、よい。今回はさして罰も無く、厳重注意だけじゃった。被害は妾の睡眠不足程度じゃったから御の字じゃろう。偶には上も温情をかけることがあるということじゃな』
「……うん、次からは気をつけるよ」
『そうしてくれ』
蓮のその言葉を最後に、通信がプツリと切れる。
携帯をポケットの中に仕舞い、弥生は再度屋上の床の上に寝転がった。
空は相変わらず青い……。
「ふぅぅぅぅぅぅ…………」
考えることは沢山ある。
妹(と名乗る子)、組織の事、蓮の事……。
先程の電話ではよく考えてみればまだ何一つとして解決していないような気がする。
弥生はゆっくりと目を閉じた。
すでに色々と動かしていた頭は休息を求めていた。身体と心の疲れがこの陽気な空の下でドッと溢れ出たのである。
そもそも、昨日の晩はよく眠れなかった。仕事と入学による興奮で、中々寝付けなかったのだ。
暗い視界の中。
弥生はゆっくりと眠りの世界へと落ちていく。
******
「ん……?」
眠っていた弥生は、不意に誰かが屋上にやって来た音で目を覚ました。
屋上の扉は思ったよりも分厚い。扉が開く音は、かなり大きかった。
入ってきた人物は、下に寝転がっている弥生を見ると、
「おっ、ここにいたのか。少し探してしまったじゃねーか」
と親しげに声を掛けてきた。
「……え? えっと……」
鈴桜高等学校に弥生の友人はいない。そもそも、入学式であるこの日にサボってしまったのだから、友人が出来ているはずがない。
更に言ってしまえば、弥生は中学からの友人というのも居ない。――――弥生は中学に通っていなかったからだ。
そんな弥生に話しかけてきたのは、鈴桜高等学校の制服に身を包んだひとりの男子生徒……。よく見ると、襟元には『副会長』と書かれた小さなバッチが付けられている。どうやらこの学校の生徒会の副会長らしい。
だが、そんな人物が何故自分に?
弥生は首をかしげる。
「おいおい。なんでそんなに俺の事がわからなそーな顔してるんだよ……」
「えっ?」
弥生はその男子生徒の顔をよく見てみる。
やや彫りの深い顔つき。少々ボサボサしている短い髪……。
良い意味で男性的に見えるその容姿。
さらには高身長。弥生の理想の男像をそのまま三次元化させたかのような人物が目の前に立っている。
「あ……あぁ……、隼人さんでしたか……」
「ばーか。気がつくのがおせーんだよ」
そう言ってニヤリと笑う男子生徒。名前を佐渡島 隼人と言う。
弥生の二つ年上で職場では先輩後輩関係にあたる人だ。今日からはこうして学校でも先輩後輩関係になったわけだが。
「オマエを教室まで迎えに行ったんだがよー、姿が無かったからこうして探しに来たんだぜ?」
「携帯に連絡を入れてくれればよかったのに……」
「携帯見てみろよ」
「……」
そのセリフに嫌な予感がして携帯を取り出す弥生。
携帯には着信履歴が『佐渡島 隼人』の名前で埋まっていた。
「あちゃー」と頭を抑える弥生。それを見て、さらにニヤニヤとイヤらしい笑を浮かべる隼人。
ちょっとだけイラッと来る笑い顔だったが、それ以上に弥生は自分の失態に落ち込んでいた。
「すいません……、どうやら完全に爆睡状態だったみたいです……」
「今回は俺が近くにいたからいいものの、居なかったら完全に大目玉だぞ? 昨日だって帰投命令ブチったらしいしな」
「あれはまぁ……はい……蓮の方からも怒られました」
「だろーなー。上の奴らがちょっぴり腹を立ててたぞ。『アイツはなんで帰ってこんのじゃー』ってな」
「いや、そんな帰りの遅い子供を待ってるお父さんじゃないんですから……」
おそらくセリフの部分は隼人の修正が入っているに違いない。弥生には自分の上司がそんなセリフを言う様子が想像できなかった。
まぁ、声マネの方は無駄に上手かったが。
弥生は履歴を一旦消すと、携帯をポケットの中にしまった。本人が目の前にいるのに、連絡を返す必要はないからだ。
「それで? 隼人さんは何か僕に用があったんですか?」
「あぁ……ちょっとな。……んー、まぁ移動しながら聞いてくれ」
「移動? 今からですか? 入学式とか……」
「もう12時だぞ? とっくに終わってる」
携帯を確認した時は時間を見ていなかった為、隼人の『12時』という発言に弥生は驚いた。
「結構寝てましたね……、僕……」
「よほど疲れていたのか……それとも薬の影響か……。まぁ、あの薬はあんまり良いもんじゃねーから、多用するんじゃねぇぞ?」
「はい……それはわかってますが……」
分かっている。
そんな事は言われなくても自分が一番よくわかっているのだ。
薬を服用したことによる副作用は記憶障害、睡眠障害、その他諸々……。決して身体に良いものではない。
でも。仕事には必要である。
ただそれだけだ。
「はぁぁ……」
そんな弥生の複雑な心境を隼人も分かっているのか、
「ほどほどにな」
軽い注意だけに済ませる。
「さて!! それじゃあ行くぞー!」
「行くって……本当に行くんですか? 何処に行くのかもまだ聞かされてませんし……」
「緊急の依頼なんだ。ほれっ」
と、隼人は肩に掛けていた黒いギターケースを弥生に手渡した。
今まで持っていたのすら弥生には気がつかなかった。どうやら本格的に寝ぼけているらしい。
自分をやや客観的にそう診断して、弥生はギターケースを受け取った。
と、同時にギターケースのサブポケットに入っている白い錠剤をひとつ取り出すと口に含んだ。
「あっオマエ!! さっき注意したばっかりだろうがっ!!」
隼人の軽い叱責が飛んでくるが、気にせず弥生は薬を飲み込む。
水があった方がもちろん良いのだが、一応この薬は水なしでも服用可能である。ただし、若干飲みにくいが。
「でもすぐに依頼ですよね? それじゃあ早めに飲んでいたほうがいいかと思いまして……」
「あー……いや、そうだけどよー……なんていうか、さっき注意したばかりなのに、目の前で服用されるとなー……」
「はぁ……。すいません……」
弥生の場合は仕事の関係上、仕方ないものではあるとしても隼人としては釈然としない。
「それよりも行きましょうか。仕事の話なら、あんまり遅くなると良くないです」
「あぁ、そうだな」
弥生はギターケースを肩に担ぐと、隼人に近づいた。
密着するまで二人は近づくと、不意にガッと弥生の肩を隼人は抱きしめた。片腕で弥生の肩を抱いているような形だ。
いつもどおりの隼人に対し、ちょっぴり頬が赤い弥生。
誰かに見られでもしたら完全に誤解されてしまいそうな絵だった。
「行くぞ! 振り落とされるなよ!!」
「は、はい!」
隼人が力強く屋上の地面を蹴り出した。
それと同時に弥生の身体を襲う浮遊感。
――次の瞬間には二人は空を飛んでいた――
「うわわわわわ!!」
「暴れるな!! 落ちるぞ!!」
厳密にいえば二人は空を飛んでいるわけではない。
隼人の能力によって空に“飛び出した”に過ぎないのだ(ちなみに能力がかかっているのは隼人だけ)。
「あ、相変わらず怖いですね……コレ……」
「うるせーやい」
隼人の能力とは「動く」事。
簡単に行ってしまえば、自分の身体に運動するためのベクトルを好きに与えられる能力だ。
隼人は今、重力によってかかる地上へのベクトルを反転させ、そこから目的地方面のベクトルを発生させて空を飛びながら移動している。
こうして空を飛んでいるというわけだ。
ちなみに、この能力は「使用者」にしか効果が無いため、通常弥生にはベクトルが発生しない。が、隼人は弥生をギュッと抱きしめているため、弥生を支える形でともに空を飛んでいた。
隼人は重力がかからないが、弥生にはかかっている。弥生は正直言ってかなり怖かった。
それだけではない。
「うぅぅ……し、下の人たち、僕達のコト見てるんじゃないですか……?」
「あー……大丈夫大丈夫。かなり高い所まで来てるから、下の奴らには見ても鳥ぐらいにしか見えねーよ」
「そ、それならいいんですが……」
いくら能力者という存在が一般的になったからとはいえ、空が飛べるような能力者は少ない。
必然的に空を飛んでいる二人は結構目立ってしまうのだ。
特に弥生のように小心者(と本人は思っている)にはそういう風に注目されるのはご勘弁願いたかった。
「それで? 仕事の内容はどんなのなんですか……?」
怖い思いを一時的に忘れるために、弥生は隼人に仕事内容を聞く。
屋上では「壁に耳あり障子に目あり」な為、聞けない内容だったが、ここまで来ればさすがに盗み聞くような人は居ないだろう。
弥生の質問を聞くと、隼人は弥生に顔を向けた。
二人は抱きしめるほどの距離にいる。必然的に、隼人と弥生の距離はかなり近かった。
「あ、あぅ……」
これは仕方の無いことなのだが、それでも弥生は慣れれない。
キスをするかのような距離にある隼人の顔に弥生は少しだけ恥ずかしさを感じていた。
「仕事の内容だったか……あー、まぁあれだ。今回は暗殺……ん? 暗殺じゃないか? まぁ、よくわからんが……」
「そんなので大丈夫なんですか……」
少し不安になる。
「確か、今日のヒトフタマルマル時にとある銀行で能力を使用した銀行強盗が起こるらしくてな……。で、こっちもいろいろドロドロしてるじゃん? それで、警察隊の方まで連絡が伝わらないんだとよ。だから、“ナイン”に警察隊を援護をしてもらいたいって政府のお偉いさんからのご依頼だ」
「ふん……俺を直々にご指名か……俺も有名になったものだな」
「おぅ。そーだな……、って、いつの間にか薬が効き始めてるし……」
「一応即効性の物を飲んだからな――――というか、ヒトフタマルマル時はもう過ぎてないか?」
ヒトフタマルマル時とはつまり12時の事。
「まぁな。だからちょっと急ぐぞ」
「分かった」
自分の言葉に頷いたのを確認した隼人は、移動速度を一気に速めた。
「むっ……これは結構キツイな……」
隼人の能力はベクトルを作るだけである。それは元々空を飛ぶための能力ではなかった。
この能力の本質は近接戦闘である。
例えば何かを殴る場合。その時腕には勿論ベクトルが発生している。このベクトルを強めれば、身体には負荷がかかるものの、通常以上の運動量を作り上げることができる(運動量とは速度と質量で求められる運動の勢いの事)。
さらには相手に拳があたった瞬間に作用反作用で生まれた逆方向のベクトルを反対方向にすれば、打撃時の威力を何倍にも高められる。
このように、実際には格闘などに用いられるのが佐渡島 隼人の「動く」能力の本質である。
つまり……。
高速で空を飛んでいると、そこに発生する風圧なんかはそのまま彼らにかかる訳だ。
「我慢してくれ。一応軽く遅刻してるから、急いでるんだ……っと、目的地点が見えてきたぞ」
「あぁ――――できれば――――早くして欲しい――」
「速度をか?」
「これ以上速くしたら俺の体はボロボロになるぞ」
今の弥生には既に目を開けることすらできない。
ギュッと隼人にしがみつきながら、眼を閉じていることしかできないのである。
(あー、弥生って普通に外見可愛いしなー……。こう抱きつかれると、ちょっとドキッとしてしまう自分だなさけねー。でもできればコッチの顔になる前がよかったんだがなぁ……)
隼人の心の声である。
ギュッとしがみついている弥生の姿を見て、隼人はため息を吐いた。
二人が目的の場所に着いたのはそれから30秒後の事である。
場所は商店街の中でも一番高いビルの屋上。ここならば遮蔽物も少なく全方位見渡せるわけだ。
ビルの屋上に足をつけた弥生はすぐにギターケースを開き、銃――入っていたのはやはりドラグノフだった――を取り出して、スコープを外した。
「どっちだ?」
「2時方向で距離は大体1マイルって言った所だな」
「1マイルか……」
スコープの倍率は昨晩使用した時と変わっていない。が、1マイル――大体1.6km――では3km用のスコープでは倍率は高すぎるだろう。
倍率が半分のスコープをギターケースから取り出すと、ドラグノフに備え付ける。
装着を終えると、すぐさま言われた方向にドラグノフを構えた。
「見えるか?」
「あぁ―――パトカーのライトがよく見えてるよ……」
目的の場所は大して時間を浪費することなく発見できた。
すでに銀行強盗が押し入っているのか、銀行の前にはズラリとパトカーが列をなして取り囲んでいた。
何を言っているのかは分からないが、おそらく交渉をしているのだろう。一人の警官が矢面に立って、銀行の方へと何かを叫んでいる。
「さて……」
ライフルには既に弾倉が取り付けられている。
セミオートなのだから、一発ずつ弾を込める必要がないのが弥生には気に食わない。
元々弥生の使っていたライフルはボルトアクションライフルだったため、どうしても右手が手持ち無沙汰に感じてしまう。
(援護をすればいいって言っていたが……それはつまり殺すなって事か……?)
弥生はポケットから携帯を取り出すと、仲間に作ってもらったアプリを起動させた。
同時刻。
銀行前では警察官達は重苦しい空気で銀行を取り囲んでいた。
空はカラッと晴れているのに、警察官達の間の空気はどんよりと曇っていて重たい。
仲間達の士気が下がっているのを見て、仁科は舌打ちをしたい気持ちに駆られていた。
「おい、やはり今回の事件も……」
「ハッ。おそらく、“能力者”関連の事件かと……」
「ちっ、またなのかよ……」
仁科はこの一団の指揮官であった。
まだ若いながらも、鈴桜高等学校を高い成績で卒業したのと、類い稀ない努力のおかげで、こうして警察隊の指揮を任される身となった。
仁科には自信がある。それは、能力者にとって能力を使うために必要な、一種の心構えだった。
ただし、仁科の場合はそれが行き過ぎている嫌いがある。
大きすぎる自信は過信へと繋がる。彼はまだそれを理解していなかった。
(さて……能力者絡みの事件だとすると、簡単には手出しできなくなったな……くっそ、さっさとこんな事件片付けたいのにな……)
今回の事件の概要はこうだ。
時刻は大体11時50分頃、銀行内に三人の覆面を被ったいかにもな出で立ちの男達が入ってきた。
この時点で逃げ出そうとした人もいたが、犯人グループの一人が威嚇射撃を行なった。この時点で、銀行内は犯人グループに占拠された形となった。
その後、おそらく三人の中で体の自由を奪う能力者がいたのだろう。ほぼ全ての職員と、銀行内に居た客を能力によって縛り付け、残った職員に持っていたボストンバックを渡しながら金を要求。
金を持って逃走しようとした所で警察隊が銀行前を包囲。
逃げ出そうとしていた犯人グループはすぐに籠城へと切り替え、縛り上げていた人々を人質に取った。
警察隊としては予想通りの行動だったが、彼らはまだ若い。
作戦が上手くいくかどうか若干の不安を胸に抱き、硬直状態へと事態は変化していた。
「くっそ……なんとかして能力者だけでも止められないのか……?」
「我々の方も能力を使えば無理ではないかもしれませんが……」
「許可は?」
「まだでていません」
「ちっ。上の奴らって言うのは、安全圏でふんぞり返ってるくせに、許可を出すのだけは遅くて仕方ない……」
仁科の指揮する警察隊は特殊訓練警察隊、通称『能力者チーム』である。
チームメンバーは主に能力者育成学校を卒業した者達であり、構成員全員が能力者である。
犯罪グループに能力者がいたとしても彼ら、20名もの能力者に勝てるはずがない。人質が居なければ、すぐにでも突入するのだが……。
「人質も確保したいな……」
「それは大丈夫です。彼らの注意を引きさえすれば、私の「運ぶ」能力で人質は全て運んでみせます」
「ほぉ……さすがだな」
仁科は自分の補佐官となっている相方の自信にあふれた言葉を聞き、感嘆の声を漏らした。
「では後は――――」
「仁科さん!! 上から能力の使用の許可がおりました!!」
「――そうか、分かった」
と、同時に、交渉役――気を引くための囮役とも言う――をしていた同僚がこちらに帰ってくる。
同僚の顔はなんとも微妙な表情をしていた。
仁科はその表情が何を表すのか何となく理解していながらも、その同僚に
「どうだった? 向こうの要求はなんだった?」
と聞いてみた。
それに対して同僚は、
「逃走用の車をすぐに用意しろ。と……」
あまりにも予想通り過ぎる答えを返してきた。
「予想通りだな……」
「はい……、予想通りすぎて私もなんとも言えない気持ちになりました……」
ここまでネゴシエートしがいのない交渉も珍しいものです。
同僚はそうつぶやいていた。
「じゃあ、作戦開始と行きますか……!」
犯人は一人が金を入れたボストンバックを持ち、一人が人質を捉えるための能力を発動しており、一人が拳銃を片手に持って人質のこめかみに構えていた。警察隊への牽制のつもりらしい。
銃を突きつけられた男は顔を恐怖に引き攣らせ、すぐにでも叫び出しそうな表情をしていた。
『おぉい!! 警察ども!! さっきの話を聴いてるだろ!!! さっさと車をよこせってんだよ!!』
拳銃を構えた男はそう大声で喚く。
煩い男だ。と仁科は心の中でその男を罵倒した。
パトカーの影に隠れ、彼らから見えない位置にいる同僚の一人に仁科はアイコンタクトを送る。
それが、始まりの合図――。
『お、おぉぉい……な、なんだよこれ……!?』
『うわあああああああ、や、やめろ、く、来るな……こっちへ来るなあああああああ!!!』
『な、なんだと……これは―――――――ぐああああああああ!!』
急に犯人グループの三人が喚き出す。
手足をぐるぐると回し、何かに向かって彼らは抵抗をするが、勿論彼らの目の前には何もいない。
では何をしているのか……。それは、彼らに迫る巨大な蟲を、彼らは必死に遠ざけようとしているのだ。
彼らだけにしか見えない――彼らのみが見える蟲を――。
これが同僚の一人の能力、「見せる」能力だ。
彼らは幻覚を見ている。彼らにしか見えないモノを見ている。そして、それに対して彼らは恐怖を感じているわけだ。
「次、私が行きます」
すぐに次の同僚が動き出す。
「運ぶ」能力によって、犯人達の近くにいた人質たちをすぐさま運び出す。
運ばれた人質は同僚の足元で鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしていた。急に警察隊の所にまで飛ばされれば、そんな表情をしてしまうのも当然だろう。
だが、この能力で全員運び出せる訳じゃない。
彼の運ぶ能力は重さに比例して消耗が激しくなる。人間は彼にとってはかなり“重たい”らしい。
8人目を自身の近くまで運び出したところで顎を出していた。
「よしっ! 行けっ!!」
『うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!』
人質はいない。犯人達は錯乱している。この状態は作戦通りだ。
すぐさま銀行内に突入すると、犯人達を捕縛しにかかる。
一人の男はそのまま数人の警官に取り押さえられ、能力を封じる効果のある手錠をかけられていた。
もう一人の男は少し抵抗を見せたものの(暴れていた)、すぐに取り押さえられることとなった。
そして、最後の一人は……。
「くそがああ、舐めるなよぉぉぉ!!! 圧縮!!」
幻覚の蟲に対して、自身の能力を発動していた。
警官達や人質達にとって幸運だったのは、彼の発動した能力の先には人は誰も居なかった事。
不幸だった事は、彼の放った能力はパトカーに当たり、その影に隠れていた同僚が巻き込まれた事だった。
パトカーはぐしゃぐしゃに押し潰されており、幻覚を見せていた能力者はその下敷きに。
(まさか――――これは“潰す”能力!?)
能力者は一人ではなかった。
グチャグチャになったパトカーを見て、呆然とする仁科。いや、仁科だけではない。
元々若い人材で構成されていた彼らは、犯人による能力でパトカーが潰されるのを見て、一瞬行動することをやめてしまう。
誰もがボーゼンとして、潰されたパトカーを見ていた。
その隙。
その一瞬が生んだ隙に。
幻覚から開放された男は玄関口まで走り、ひとりの少女の腕を掴んだ。
「おらああ!! こいつがどうなってもいいのかよ!!!」
そのままつかみあげ、こめかみに向かって拳銃を突きつけた。
「ひっ……!? い、いや……」
少女はそのまま恐怖の表情を浮かべ、自分の不幸を呪った。
何故銀行に来てしまったのか。何故強盗が入ってきたのか。何故自分が人質なのか。
余りにも理不尽な状況に少女の中の思考は停止し、パニックに陥る。叫ばなかったのは恐怖心に生存本能が勝ったからか。
「くっそ……」
仁科は唇を噛み締めた。
途中までは上手くいっていたのだ。途中までは問題なく作戦は機能していたのだ。
だが、能力者がもう一人いたというただそれだけの誤算で、こうして作戦は振り出しに戻ってしまった。いや、これは振り出しどころではない。
彼から見れば今の状況は仲間が捉えられ、警察にも囲まれているという事……。
おそらくだが、犯人だって冷静ではいられないだろう。いつあの拳銃が発泡されてもおかしくはない。
仁科の額に汗が伝った。
「おらおら!! てめぇら、そいつらから離れやがれ!!! じゃねぇと、コイツの頭を吹き飛ばすぞぉ!?」
無論、人質である限り殺してしまえば苦しくなるのは犯人自身である。
が、もしも人死を出してしまったとあれば、大問題だ。特に、人質になっているのは将来豊かな少女だ。死なせるわけにはいかない。
犯人二人を抑えていた警官達は立ち上がり、ゆっくりと後ろに後退する。
それを見て、ほくそ笑む男。
次なる指示を出そうとその口が開きかける。
だが、次の瞬間――――
「ぐがぁっ!?」
男の口から溢れたのは警官への脅しではなく、苦悶の声だった。
拳銃が地面に落ちると同時に、
『――!?』
誰もが息を呑み、動きを止めた。
男の手からはドクドクと血があふれ出ており、痛そうにもう片方の手で出血箇所を抑えていた。が、それで血が止まるはずも無く、指の間からは血がとめどなく流れている。
「――――ひっ」
その静止された空間で。
警察官すらも止まっていたその時間の中で、最初に動き始めたのは。
「きゃああああああああぁぁぁぁ」
人質となっていた少女だった。
「――――っ!! お前ら!! 犯人確保だ!!」
『――ハッ!!』
少女の悲鳴によって我を取り戻した警察官達は、すぐに呆然としていた犯人二人と、手を撃ち抜かれた男を捕縛する事に成功する。
こうしてこの微妙に人々を騒がせた銀行強盗達は逮捕されたのであった。
この時の被害はパトカー1台と、それに伴ってパトカーに潰されかけた警官一人が重傷。一般人に被害が出なかったのが幸いであった……。
「――これでいいのか?」
「はい、ごくろーさん。にしてもまー、よくこんな距離を当てられるな。ソレの射程って1000m位じゃなかったか?」
「ん? あぁ、まぁ基本射程はな」
いくら狙撃銃とは言っても、それでも射程というものは存在する。
狙撃銃の有効射程は基本的に100~600m。最も、弾丸自体は最大5kmくらいまで届くのだが、そこまで飛ばせば当然威力も命中率も下がる。
特に、1kmー2kmを越すと、弾丸は相手に致命傷を与えることができなくなってしまう。普通は。
「当てるのはそんなに難しくないぞ? 蛍……あ、いや、サードに作って貰った弾道計算用のアプリが非常に役立っている」
「おぉ、そりゃ“サード”も報われるってもんだな。あいつ確か“ナイン”に惚れてただろ? お礼にって事で軽く抱いてやったらどーだ?」
「抱いて……って、そういう意味だよな……。俺はアイツの気持ちを受け取るつもりは今の所無いぞ」
鹿目 蛍、通称“サード”。
情報関連のデータを扱うのに長けており、ソフトウェア開発が好きなちょっと変わった女の子。
そのコンピュータ技能は世界中のハッカーを奮い立たせた程……というのは本人談。事実かどうかは弥生には判断がつかなかった。
そんな彼女が作ったのが「弥生専用(ここ大事)弾道計算アプリ」であった。
このアプリはその名の通り狙撃銃の弾道の計算をしてくれるアプリである。現在地点から発射された場合、風や重力、湿度などを計算して着弾地点を割り出してくれる優れものである。誤差は大体3㎜程度らしい。
これによって弥生は狙った場所に当てる事ができる(とは言っても、これをここまで使いこなせるのは弥生だからとしか言えない。一般人ではここまで使いこなせるようなアプリではない)。
これを使用すれば例え5kmだろうと10kmだろうと弥生は相手の息の根を一発で止めることができる。
通常、そこまで行けば威力は無くなってしまう上に、弾丸は届かないのだが、弥生は自身の“能力”によってそれを可能にしていた。
「さて……、作戦は終了したんだ。片付けていいか?」
「おぅ。さっさと片付けてずらかろーぜ」
「……了解」
ドラグノフをギターケースの中に仕舞い、ナンバー形式の鍵を閉める。
通常、このような鍵はギターケースには付いていないが、中身が中身だけに特別に施されていた。
「――――よっと――」
「大丈夫か?」
狙撃銃をしまったギターケースを肩に背負うと、よろっと弥生は一瞬フラついてしまう。
ここはビルの屋上だ。ちょっと足を滑らせただけで死ねる。
弥生は軽く冷や汗を垂らしながら、眉間を揉む。少しだけ目と頭に痛みが走る。
「大丈夫だ……いつもの薬の副作用なものだ」
「……、だからあの薬は使うなって言ってるんだよ……」
「そういうわけにもいかんだろう」
「………………」
弥生は赤くなった目から溢れる涙を拭うと、隼人に向かって、
「俺には狙撃手としての能力が欠けている……それを補うにはアレを飲むしかないんだ」
そうハッキリと伝えた。
その言葉に隼人は苦々しい顔をしながら、
「そうは言ってもな……」
弥生の体の心配をする。
弥生の飲んでいる薬は確かに狙撃手には必要な物だろう。それは隼人にだって分かっている。
が、同時に副作用も二人にはすでに周知の事実であった。
薬の副作用は確実に弥生を蝕んでいる。彼の目が今赤いのだって薬の副作用の一つだし、頭痛がするのだって薬の副作用だ。
そう、ソレは。
麻薬のような薬だ。
「それで? 事後報告はどうすればいいんだ?」
弥生の質問で隼人はハッとした。
どうやら自分は弥生の身体の心配をしすぎているかもしれないと隼人は自らを客観的に見てそう判断した。
どうせ自分たちは消耗品。愛着が湧けば別れが悲しくなるだけか……。
隼人は首を振ると、いつもどおりのニヤリとした笑みを浮かべた。
「事後報告はどうせ“シックス”がやってくれるだろうぜ」
「彼も来ているのか……」
「一応補佐にな。まぁ、“ナイン”が居る限りはアイツに出番が回ってくるとは思ってねーけど」
「じゃあ、今日は解散か?」
弥生の疑問に、隼人は、
「昼飯まだだったろ? 一緒に食いにいかねーか?」
昼食のお誘いをかけた。
「……まぁ、いいだろう。どうせ薬が抜けるまではこのままだし、偶にはパーッと遊ぶのもいいかもしれないな」
「オマエのその薬飲んだときの変貌はどうにかならねーのかね――――」
「バカを言うな。これも薬の副作用みたいなものだと――――」
来た時と同じように屋上を飛び出す二人。
そんな二人を、
―― 一匹の烏はジッと見つめていた ――
おかしい……。話が全く進んでない気が……。
08/09 セリフを一部変更致しました。