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勇者が世界を救ったあと、僕は国を作ることにした  作者: あおいにじ
第二章:観測される側の論理
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パーティ戦闘

外縁農業区画は、エルフ領の端にあった。


都市部と違い、木々の密度は低く、畑が整然と並んでいる。


空は広い。


風は強い。


働くエルフたちは静かで、動きは機械的だった。


リオは荷車を押していた。


配置換え初日。


誰も話しかけてこない。


それが普通。


葵は少し離れたところを歩いている。


セラは上空。


ジーナはいつも通り耳元。


「……なんか、空気重くない?」


ジーナが即答する。


「ここは成果再評価区画です。

心理的圧迫率は都市部より約18%高くなっています」


葵は苦笑する。


「数字で言われると余計重い」


リオがちらっと振り返る。


「慣れるよ」


「慣れたくないな」


リオは少しだけ笑った。



昼前。


畑の向こうで、空気が歪んだ。


セラが最初に反応する。


「魔族斥候」


次の瞬間、土の中から黒い影が三体這い出す。


細身。


速度型。


小隊規模。


エルフの農作業者たちが固まる。


誰も武器を持っていない。


都市部なら即時迎撃部隊が来る。


でもここは外縁。


対応が遅れる。


葵の心臓が跳ねる。


「……リオ!」


リオは一瞬、判断を迷う。


技術者だ。


戦闘要員じゃない。


でも畑の向こうには、働いているエルフがいる。


リオは歯を食いしばる。


「行く」


葵は頷く。


二人で駆け出す。


セラが上空から指示を飛ばす。


「正面二体、背後一体。

葵、左を」


葵は左へ走る。


足が重い。


でも前より速い。


ジーナが数値を出す。


「葵、現在3.1付近です」


「上がってる?」


「はい。戦闘状況による一時上昇ではなく、定着型です」


そんなことを聞いてる余裕はない。


魔族が跳ぶ。


葵は反射的に腕を振る。


空気が歪む。


魔族の動きが一瞬止まる。


完全な攻撃じゃない。


ただの“引っかかり”。


でも、その一瞬でリオが横から体当たりする。


魔族が地面に転がる。


リオは息を切らしながら、鍬を振り下ろす。


当たる。


浅い。


でも魔族は怯む。


もう一体が葵に飛びかかる。


葵は避けきれず、肩を掠められる。


痛み。


血。


ジーナが即座に警告する。


「葵、損傷軽度。継続可能」


葵は歯を食いしばる。


そのとき。


遠くから、甲高い声。


「アオイ!」


猫族。


あの村で見た顔。


追い出されたはずの村から、交易で来ていた個体たち。


三人。


石と短剣を持って駆けてくる。


一人が魔族の脚に飛びつく。


もう一人が目を狙う。


連携なんてない。


ただ必死。


セラが上から見ている。


「個体数増加。

局所均衡が変化」


ジーナが追随する。


「葵。現在3.4」


リオが叫ぶ。


「後ろ!」


葵が振り返り、最後の一体にぶつかる。


肩と肩がぶつかる。


倒れる。


その上に猫族が乗る。


もつれる。


誰かが石を投げる。


誰かが叫ぶ。


ぐちゃぐちゃ。


でも。


気づけば魔族は動かなくなっていた。


静寂。


畑に風が戻る。


全員、その場に座り込む。


息が荒い。


誰も勝った感じがしない。


ただ、生きている。



しばらくして。


エルフの迎撃部隊が到着する。


遅い。


現場を見て、少し驚いた顔をする。


「……対処済み?」


セラが淡々と答える。


「はい」


リオは地面を見つめている。


「俺、戦えないはずなんだけどな」


葵は笑う。


「俺も」


猫族の一人が耳を伏せながら言う。


「でも、なぜか勝った」


ジーナが小さく補足する。


「多極干渉が発生しています」


誰もその意味は分からない。


でも、何かが起きたのは分かる。



夕方。


応急処置を終え、畑の端で休んでいると、


リオがぽつりと言った。


「君たちといると、集中力が下がる」


葵は苦笑する。


「ごめん」


リオは首を振る。


「でも」


少し間。


「視野が広がる」


猫族が尻尾を揺らす。


「怖いけど、楽しい」


葵は空を見る。


勇者の光は今日は見えない。


でも代わりに、自分たちの足元が少しだけ強くなっている気がした。


ジーナが静かに告げる。


「現在、葵3.5前後。

リオは本来値より約0.6上昇。

猫族個体は感情耐性が顕著に改善しています」


葵は目を丸くする。


「え、みんな?」


「はい。全員です」


誰も“強くなろう”なんて思っていない。


ただ助けて、助けられて、


成り行きで一緒にいただけ。


でも。


この組み合わせだから、ここまで来た。


それだけは確かだった。



遠くの空。


かすかに白い閃光。


アルテリオは今日も何かを倒している。


こちらは畑で転げ回っている。


でも葵は思った。


もしかしたら。


こっちの方が、世界を変えるのかもしれない。


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