パーティ戦闘
外縁農業区画は、エルフ領の端にあった。
都市部と違い、木々の密度は低く、畑が整然と並んでいる。
空は広い。
風は強い。
働くエルフたちは静かで、動きは機械的だった。
リオは荷車を押していた。
配置換え初日。
誰も話しかけてこない。
それが普通。
葵は少し離れたところを歩いている。
セラは上空。
ジーナはいつも通り耳元。
「……なんか、空気重くない?」
ジーナが即答する。
「ここは成果再評価区画です。
心理的圧迫率は都市部より約18%高くなっています」
葵は苦笑する。
「数字で言われると余計重い」
リオがちらっと振り返る。
「慣れるよ」
「慣れたくないな」
リオは少しだけ笑った。
⸻
昼前。
畑の向こうで、空気が歪んだ。
セラが最初に反応する。
「魔族斥候」
次の瞬間、土の中から黒い影が三体這い出す。
細身。
速度型。
小隊規模。
エルフの農作業者たちが固まる。
誰も武器を持っていない。
都市部なら即時迎撃部隊が来る。
でもここは外縁。
対応が遅れる。
葵の心臓が跳ねる。
「……リオ!」
リオは一瞬、判断を迷う。
技術者だ。
戦闘要員じゃない。
でも畑の向こうには、働いているエルフがいる。
リオは歯を食いしばる。
「行く」
葵は頷く。
二人で駆け出す。
セラが上空から指示を飛ばす。
「正面二体、背後一体。
葵、左を」
葵は左へ走る。
足が重い。
でも前より速い。
ジーナが数値を出す。
「葵、現在3.1付近です」
「上がってる?」
「はい。戦闘状況による一時上昇ではなく、定着型です」
そんなことを聞いてる余裕はない。
魔族が跳ぶ。
葵は反射的に腕を振る。
空気が歪む。
魔族の動きが一瞬止まる。
完全な攻撃じゃない。
ただの“引っかかり”。
でも、その一瞬でリオが横から体当たりする。
魔族が地面に転がる。
リオは息を切らしながら、鍬を振り下ろす。
当たる。
浅い。
でも魔族は怯む。
もう一体が葵に飛びかかる。
葵は避けきれず、肩を掠められる。
痛み。
血。
ジーナが即座に警告する。
「葵、損傷軽度。継続可能」
葵は歯を食いしばる。
そのとき。
遠くから、甲高い声。
「アオイ!」
猫族。
あの村で見た顔。
追い出されたはずの村から、交易で来ていた個体たち。
三人。
石と短剣を持って駆けてくる。
一人が魔族の脚に飛びつく。
もう一人が目を狙う。
連携なんてない。
ただ必死。
セラが上から見ている。
「個体数増加。
局所均衡が変化」
ジーナが追随する。
「葵。現在3.4」
リオが叫ぶ。
「後ろ!」
葵が振り返り、最後の一体にぶつかる。
肩と肩がぶつかる。
倒れる。
その上に猫族が乗る。
もつれる。
誰かが石を投げる。
誰かが叫ぶ。
ぐちゃぐちゃ。
でも。
気づけば魔族は動かなくなっていた。
静寂。
畑に風が戻る。
全員、その場に座り込む。
息が荒い。
誰も勝った感じがしない。
ただ、生きている。
⸻
しばらくして。
エルフの迎撃部隊が到着する。
遅い。
現場を見て、少し驚いた顔をする。
「……対処済み?」
セラが淡々と答える。
「はい」
リオは地面を見つめている。
「俺、戦えないはずなんだけどな」
葵は笑う。
「俺も」
猫族の一人が耳を伏せながら言う。
「でも、なぜか勝った」
ジーナが小さく補足する。
「多極干渉が発生しています」
誰もその意味は分からない。
でも、何かが起きたのは分かる。
⸻
夕方。
応急処置を終え、畑の端で休んでいると、
リオがぽつりと言った。
「君たちといると、集中力が下がる」
葵は苦笑する。
「ごめん」
リオは首を振る。
「でも」
少し間。
「視野が広がる」
猫族が尻尾を揺らす。
「怖いけど、楽しい」
葵は空を見る。
勇者の光は今日は見えない。
でも代わりに、自分たちの足元が少しだけ強くなっている気がした。
ジーナが静かに告げる。
「現在、葵3.5前後。
リオは本来値より約0.6上昇。
猫族個体は感情耐性が顕著に改善しています」
葵は目を丸くする。
「え、みんな?」
「はい。全員です」
誰も“強くなろう”なんて思っていない。
ただ助けて、助けられて、
成り行きで一緒にいただけ。
でも。
この組み合わせだから、ここまで来た。
それだけは確かだった。
⸻
遠くの空。
かすかに白い閃光。
アルテリオは今日も何かを倒している。
こちらは畑で転げ回っている。
でも葵は思った。
もしかしたら。
こっちの方が、世界を変えるのかもしれない。




