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勇者が世界を救ったあと、僕は国を作ることにした  作者: あおいにじ
第二章:観測される側の論理
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効率の国 エルフリオ

森を抜けた先に現れたのは、白と緑で統一された都市だった。


建物は低く、横に長い。

尖った装飾はなく、曲線が多い。

どこを見ても“無駄がない”。


道は広く、歩く人の流れは一定。

誰も立ち止まらない。

誰も雑談しない。


葵は、無意識に歩調を合わせていた。


「……静かだね」


ジーナが答える。


「この都市では、移動効率と作業効率が最優先です。

会話は必要最小限に制限されています」


セラが補足する。


「感情交換は生産性を下げる、という思想です」


葵は小さく息を吐いた。


「なるほど。分かりやすい」


分かりやすいけど、息が詰まる。



中央広場。


巨大な透明板が宙に浮いている。


そこには、無数の名前と数値。


成果率。

稼働時間。

再配置候補。


エルフたちが通りすがりに一瞬だけ視線を向け、自分の項目を確認しては歩き去る。


葵は立ち止まった。


「……あれ、なに」


ジーナが答える。


「成果掲示板です。

個体ごとの貢献度がリアルタイムで反映されます」


葵は目を細める。


「ランキングみたいな?」


「近いです」


セラが静かに言う。


「ここでは、価値は可視化されます」


葵は板を見上げる。


上位は同じ名前ばかり。


効率10の人たち。


下位には、見覚えのない名前が並んでいる。


数字が赤い。


葵は思わず呟いた。


「……赤いの、やばそう」


ジーナが淡々と返す。


「はい。再配置対象、または降格候補です」


「降格?」


「役割変更。

場合によっては、国外移送です」


葵は喉が鳴る。


「クビ?」


セラは首を横に振る。


「“不要”ではありません。

“最適でない”だけです」


言い方が、冷たい。



そのとき。


広場の端で、小さな騒ぎが起きた。


エルフが数人集まっている。


中心にいるのは、銀髪の細身のエルフ。


目の下に薄いクマ。


服は作業用で、少し汚れている。


彼は腕に端末を装着され、数値を確認されていた。


管理官らしきエルフが淡々と告げる。


「リオ。あなたの本日の成果率は基準値を下回りました」


銀髪のエルフ――リオは静かに頷く。


「承知しています」


「原因」


リオは少し間を置いてから答えた。


「作業ラインBで、体調不良の個体がいました。

交代要請が間に合わず、私が補助に入りました」


管理官は即答する。


「非効率です」


「はい」


「あなたは技術者です。

補助は下位工程の役割です」


「分かっています」


管理官は端末を操作する。


「よって、リオ。

あなたは明日付で配置変更です」


リオは表情を変えない。


「どこへ」


「外縁農業区画。

再評価は三十日後」


それは事実上の降格だった。


技術中枢から、末端へ。


葵は思わず声を出していた。


「ちょっと待って」


場の視線が一斉に葵に向く。


空気が凍る。


管理官が淡々と問う。


「あなたは?」


葵は一瞬言葉に詰まる。


ジーナが耳元で囁く。


「葵。あなたは来訪者です。

発言権はありません」


でも、葵は止まらなかった。


「今の人、悪いことしてないよね?」


管理官は瞬きもしない。


「悪いかどうかは評価対象ではありません」


「じゃあ、なんで」


「最適でないからです」


葵は歯を噛みしめる。


「人を助けただけじゃん」


管理官は少し首を傾げる。


「だからです」


意味が分からない、という顔。


「あなた方は、感情を基準に配置を決めるのですか?」


葵は言葉に詰まる。


正解がない。


セラが一歩前に出る。


「彼は観測対象です。

過剰な刺激は避けてください」


管理官はセラを見る。


天使。


それだけで、これ以上は踏み込まない。


「手続きは完了しています」


リオは葵の方を見た。


少し困ったように笑う。


「ありがとう。でも大丈夫」


葵は思わず言う。


「大丈夫じゃないでしょ」


リオは肩をすくめる。


「ここでは普通」


その一言が、重かった。



人が散っていく。


広場はまた、いつもの静けさに戻る。


リオは葵の前に立つ。


「君、外から来た人?」


葵は頷く。


「うん。葵」


「リオ」


短い自己紹介。


リオは葵を見て、少し首を傾げた。


「君、変な感じがする」


葵は苦笑する。


「よく言われる」


ジーナが補足する。


「リオ。

葵の現在推定干渉強度は2.8前後です」


リオは目を見開いた。


「……それは、かなり高い」


葵は肩をすくめる。


「らしい」


リオはしばらく考え込み、それから言った。


「それなら、なおさら分かると思う」


「なにが?」


リオは静かに答える。


「強くなるほど、選べなくなる」


葵の胸が、少しだけ締めつけられた。


リオは続ける。


「ここでは、選ばない人間は価値が下がる」


葵はゆっくり息を吸う。


「でも、君は選んだ」


リオは小さく笑った。


「切れなかっただけ」


それは誇りでも反抗でもなかった。


ただの事実。


その瞬間、葵は直感した。


この人は、ここに長くはいられない。


そしてたぶん――


自分と同じ側に来る。



遠くで、また白い閃光。


ジーナが報告する。


「勇者アルテリオの推定出力、葵基準で約210前後に上昇」


葵は空を見上げる。


「……どんどん行くね」


リオはその光を見て呟いた。


「完璧な人だ」


葵は答える。


「うん。完璧だと思う」


でもその完璧さが、ここにはない。


エルフの都市にも。


猫人の村にも。


そしてたぶん、自分の進む先にも。


三人――いや、四人になるかもしれない影が、

効率の街路を静かに歩き出した。


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