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勇者が世界を救ったあと、僕は国を作ることにした  作者: あおいにじ
第二章:観測される側の論理
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適性測定

森が変わった。


猫人の領域を抜けたあたりから、木々の間隔が均一になり始める。


枝の伸び方も、葉の重なり方も、どこか計算されている。


足元の土ですら踏み心地が揃っている。


葵は無意識に背筋を伸ばした。


「なんか……空気が違う」


ジーナが即座に応答する。


「ここから先はエルフ領です。

環境最適化率は約92%」


「92%って……」


「自然と人工の中間、といったところです」


横で浮いているセラが補足する。


「この国では、入域時に全来訪者の適性測定を行います」


葵は足を止める。


「適性?」


「能力、思考傾向、干渉強度。

役割を決めるためです」


葵は小さく息を吐く。


「また評価か」



ほどなく、森の奥に透明な壁が見えてきた。


門はない。


代わりに、淡く光る膜のような結界が張られている。


その前に、細身のエルフが二人立っていた。


表情は薄い。


感情が読めない。


一人が淡々と告げる。


「通過前に測定を行います」


葵は頷いた。


結界に一歩踏み出す。


瞬間、耳鳴り。


視界が白くなる。


頭の奥を冷たい指で撫でられたような感覚。


ジーナの声が重なる。


「解析中」


数秒。


空中に半透明の光が走る。


エルフ側の装置が反応し、数値列が流れる。


エルフの一人が読み上げる。


「総合干渉強度……2.7から2.9の間」


葵は思わず聞き返す。


「それって、高いの?」


エルフは事務的に答える。


「参考値を示します」


指先を軽く動かすと、簡易グラフが空中に浮かんだ。


「この世界の一般成人個体は、おおむね0.9から1.1です」


葵の喉が鳴る。


「……俺、ほぼ三倍?」


ジーナが補足する。


「はい。平均的な人間と比較して、およそ2.8倍の局所影響力があります」


葵は苦笑する。


「そりゃ、村に大きすぎるわけだ」


セラが静かに言う。


「あなたはもう“一般人”ではありません」


その言葉は、慰めでも脅しでもなかった。


ただの事実。



エルフは続ける。


「ただし」


一瞬、間。


「この数値帯は不安定です」


葵は眉をひそめる。


「不安定?」


「3未満で2を超える個体は稀です。

多くは精神負荷、判断遅延、感情摩耗を伴います」


ジーナがすぐに同意する。


「葵。

最近、意思決定速度が約12%低下しています」


葵は言葉に詰まる。


確かに。


猫人の村でも、迷う時間が増えていた。


すぐに動けなくなっていた。


エルフは淡々と締める。


「力が増えるほど、思考は重くなります。

それがこの世界の常です」


葵は深く息を吸った。


「……勇者は?」


エルフは少しだけ視線を動かす。


「例外です」


短く、それだけ。


セラが補足する。


「勇者アルテリオは世界補正下にあります。

負荷は発生しません」


葵は空を見上げた。


やっぱり別枠。



測定が終わり、通行許可が出る。


エルフの一人が付け加える。


「あなたは“多領域型”。

この国では配置先が存在しません」


葵は苦笑する。


「知ってた」


エルフは首を傾げる。


「それでも、通過は許可します」


理由は言わない。


エルフだから。



結界を抜けたあと。


葵は少しふらついた。


頭が重い。


視界の端がにじむ。


ジーナが即座に警告する。


「葵。精神摩耗が上昇しています。

休息を推奨します」


葵は歩きながら言う。


「2.8って、そんな大した数字じゃない気がしてたけど」


セラが静かに答える。


「一般個体の三倍は、社会構造を歪めるには十分です」


葵は苦笑した。


「そりゃ、追い出されるわ」


でも。


同時に、分かった。


自分はもう、普通の人の世界には戻れない。


強くなったわけじゃない。


“影響が大きくなった”。


それだけ。



遠くで、また勇者の光。


ジーナが淡々と報告する。


「勇者アルテリオの現在推定出力は、葵基準で約180前後です」


葵は肩をすくめる。


「差、開いてるな」


セラは静かに言う。


「あなたは追いつく必要はありません」


葵は小さく笑った。


「追いつける気もしないよ」


三人は、整然としたエルフの森を歩いていく。


葵の足取りは少し重い。


でも確実に、前より遠くまで歩けるようになっていた。

強くなると選択肢が増えるんじゃない

背負うものが増えていくんだ

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