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勇者が世界を救ったあと、僕は国を作ることにした  作者: あおいにじ
第二章:観測される側の論理
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わからないものははっきりさせたい

翌日。


搬送路崩落の件は、小さな騒ぎとして処理された。


被害軽微。


記録上は「局地的不安定化」。


誰も深く掘り下げない。


だが。



昼過ぎ。


ブリッジの簡易宿。


木製の机。


乾ききらない作業着。


猫族は窓辺で丸くなっている。


リオは珍しく無言。


葵は道具の点検。


ジーナが静かに告げる。


「接近反応」


「依頼人?」


「いいえ」


短い間。


「エルフ行政直属識別信号」


空気がわずかに変わる。



扉が叩かれる。


規則的。


躊躇のない音。


セラが先に視認する。


「……上位識別」



入ってきたのは二名。


エルフ。


だが現場の個体ではない。


明らかに中枢系。


衣服も装備も簡素。


無駄がない。



先頭のエルフが言う。


「葵」


呼び捨て。


確認ではない。


特定。



葵は軽く手を上げた。


「はい」


相手は机を見る。


室内を見る。


猫族を見る。


一切の感情表出なし。



「観測対象として正式指定された」


リオがわずかに眉を動かす。


葵は首をかしげる。


「観測?」



「搬送路案件」


淡々と続ける。


「あなたの行動介入によって死傷率が低下した」


「いや……たまたま――」


「偶然は統計処理済み」


即座に遮られる。



ジーナが静かに補足する。


「発話内容に虚偽成分なし」


便利な言葉。


だが空気は軽くならない。



エルフは続ける。


「計測要請を行う」


葵が黙る。


リオが小さく息を吐く。


セラは動かない。



「干渉特性の定量化」


「ステータス測定……みたいな?」


「類似概念」


微細な言い換え。


だが本質は同じ。



葵は少しだけ視線を逸らした。


「断ったら?」


「自由」


即答。


「ただし」


短い間。


「未定義扱いが継続される」



リオが小さく笑う。


「要するに不安要素」


否定はない。



沈黙。


数秒。



ジーナが静かに言う。


「葵」


「なに」


「この要請は合理的です」


「だろうね」


「拒否による環境悪化確率は上昇します」


これもまた合理。



葵は頭を掻いた。


「計測って、何されるの」


「認知負荷試験」


「干渉反応試験」


「集団相互作用試験」


感情のない列挙。


妙に怖い。



猫族が不安そうに聞く。


「いたい?」


エルフは一瞬だけ猫族を見る。


「物理的侵襲なし」


「たぶんって顔だな……」


葵が小さく呟く。



しばらくの沈黙。



葵は椅子から立ち上がった。


「……受けます」


リオが視線を上げる。


セラは何も言わない。


ジーナは淡々と記録。



エルフは即座に頷いた。


「明朝」


それだけ言って去る。


余計な説明なし。



扉が閉じる。


静寂。



猫族がぽつり。


「なんかこわい」


葵は苦笑した。


「だね」



リオが低く言う。


「計測されたら終わるかもしれないぞ」


「何が」


「未分化性」


静かな言葉。


かなり核心。



葵は少しだけ考えてから答える。


「それでも」


短い間。


「ずっと未定義よりはマシかな」


正解ではない。


でも逃げでもない。



ジーナが静かに補足する。


「計測はこの世界の基準で行われます」


「うん」


「あなたは測定困難領域に分類される可能性があります」


「便利な言葉だね」


だが今回は笑わない。



夜。


風は穏やか。


霧もない。


異常もない。



それでも、


誰も早く眠れなかった。


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