わからないものははっきりさせたい
翌日。
搬送路崩落の件は、小さな騒ぎとして処理された。
被害軽微。
記録上は「局地的不安定化」。
誰も深く掘り下げない。
だが。
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昼過ぎ。
ブリッジの簡易宿。
木製の机。
乾ききらない作業着。
猫族は窓辺で丸くなっている。
リオは珍しく無言。
葵は道具の点検。
ジーナが静かに告げる。
「接近反応」
「依頼人?」
「いいえ」
短い間。
「エルフ行政直属識別信号」
空気がわずかに変わる。
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扉が叩かれる。
規則的。
躊躇のない音。
セラが先に視認する。
「……上位識別」
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入ってきたのは二名。
エルフ。
だが現場の個体ではない。
明らかに中枢系。
衣服も装備も簡素。
無駄がない。
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先頭のエルフが言う。
「葵」
呼び捨て。
確認ではない。
特定。
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葵は軽く手を上げた。
「はい」
相手は机を見る。
室内を見る。
猫族を見る。
一切の感情表出なし。
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「観測対象として正式指定された」
リオがわずかに眉を動かす。
葵は首をかしげる。
「観測?」
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「搬送路案件」
淡々と続ける。
「あなたの行動介入によって死傷率が低下した」
「いや……たまたま――」
「偶然は統計処理済み」
即座に遮られる。
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ジーナが静かに補足する。
「発話内容に虚偽成分なし」
便利な言葉。
だが空気は軽くならない。
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エルフは続ける。
「計測要請を行う」
葵が黙る。
リオが小さく息を吐く。
セラは動かない。
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「干渉特性の定量化」
「ステータス測定……みたいな?」
「類似概念」
微細な言い換え。
だが本質は同じ。
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葵は少しだけ視線を逸らした。
「断ったら?」
「自由」
即答。
「ただし」
短い間。
「未定義扱いが継続される」
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リオが小さく笑う。
「要するに不安要素」
否定はない。
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沈黙。
数秒。
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ジーナが静かに言う。
「葵」
「なに」
「この要請は合理的です」
「だろうね」
「拒否による環境悪化確率は上昇します」
これもまた合理。
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葵は頭を掻いた。
「計測って、何されるの」
「認知負荷試験」
「干渉反応試験」
「集団相互作用試験」
感情のない列挙。
妙に怖い。
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猫族が不安そうに聞く。
「いたい?」
エルフは一瞬だけ猫族を見る。
「物理的侵襲なし」
「たぶんって顔だな……」
葵が小さく呟く。
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しばらくの沈黙。
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葵は椅子から立ち上がった。
「……受けます」
リオが視線を上げる。
セラは何も言わない。
ジーナは淡々と記録。
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エルフは即座に頷いた。
「明朝」
それだけ言って去る。
余計な説明なし。
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扉が閉じる。
静寂。
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猫族がぽつり。
「なんかこわい」
葵は苦笑した。
「だね」
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リオが低く言う。
「計測されたら終わるかもしれないぞ」
「何が」
「未分化性」
静かな言葉。
かなり核心。
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葵は少しだけ考えてから答える。
「それでも」
短い間。
「ずっと未定義よりはマシかな」
正解ではない。
でも逃げでもない。
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ジーナが静かに補足する。
「計測はこの世界の基準で行われます」
「うん」
「あなたは測定困難領域に分類される可能性があります」
「便利な言葉だね」
だが今回は笑わない。
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夜。
風は穏やか。
霧もない。
異常もない。
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それでも、
誰も早く眠れなかった。




