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勇者が世界を救ったあと、僕は国を作ることにした  作者: あおいにじ
第二章:観測される側の論理
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直感

数日後。


霧は消え、乾いた風が戻っていた。


低地集落の応急補修は安定。


ブリッジは次の小規模依頼へ向かっていた。


山裾の搬送路。


岩肌を削って作られた簡易通路。


人と荷車がすれ違う程度の幅。



猫族が先行していた。


軽く跳ねながら進む。


「だいじょうぶ」


リオは壁面を見る。


「……いや」


足を止める。


「ここ、削れ方が浅い」


セラが風を送る。


「音、戻りが変」


ジーナが淡々と報告。


「崩落確率、低」


葵は足を止めた。


妙な感覚。


胸の奥がざわつく。


いつもの“違和感”。



葵は壁面を見る。


特に異常はない。


亀裂もない。


水も染みていない。


それでも。


「……少し離れよう」


小さく言う。


猫族が首をかしげる。


「え?」


リオも違和感を覚える。


「理由は」


葵は困ったように答えた。


「なんとなく」



数秒の沈黙。


だが全員が動いた。


これまでの経験がある。


理屈は後回し。


通路から離れる。



何も起きない。


風だけが吹く。


崩れない。


揺れない。


猫族が小さく呟く。


「なにもない」


リオが壁面を見る。


「……安定している」


ジーナ。


「現時点での変化なし」


空気が少しだけ緩む。



葵は眉をひそめた。


違和感は消えない。


だが事実として異常はない。


自分の感覚が外れた?


そんな思考がよぎった瞬間。



遠くから振動。


低い衝撃音。


全員が顔を上げる。


通路ではない。


さらに先。


別の斜面。



煙が上がる。


人の叫び声。


猫族が反応する。


「むこう!」



崩れたのは通路ではなかった。


搬送路の先端。


荷車集積所。


ちょうど人が集まる場所。


岩盤の層が剥離し、上から落ちた。


偶然ではない。


だが予兆は薄い。



リオが息を呑む。


「……連動崩落」


ジーナ。


「振動伝播による遠隔不安定化」


葵は立ち尽くす。


自分が感じた違和感。


場所は違っていた。



セラが即座に飛び上がる。


「救助優先!」


猫族が跳ぶ。


リオも走る。


葵は一瞬遅れて駆け出した。



現場。


荷車は潰れ、


人が瓦礫に埋もれている。


大規模ではない。


だが間に合う時間が短い。



葵は必死に岩をどかす。


重い。


オーガほどの力はない。


猫族ほどの速さもない。


それでも手を動かす。



ジーナが静かに言う。


「葵」


「なに」


「あなたの違和感検知は誤作動ではありません」


「……え?」


「検知対象が広域だっただけです」



意味を理解する余裕はない。


ただ、


目の前の石を動かす。


声を探す。


呼吸音を拾う。



しばらくして、


最後のひとりが引き上げられる。


重傷者なし。


かすり傷と打撲だけ。


奇跡的な結果だった。



夕暮れ。


疲労で座り込む一同。


猫族が言う。


「こんどは、ちがったね」


葵は苦笑する。


「……うん」


リオが静かに補足する。


「違っていない」


葵を見る。


「範囲が違っただけだ」



葵は空を見上げた。


理解できない感覚。


制御もできない。


当たるとも限らない。


でも無視もできない。



ジーナが淡々と記録する。


「干渉感覚の空間誤差を確認」


便利な言葉。


だが今回は、


少しだけ重く聞こえた。


風が吹く。


搬送路は静かに残っている。


誰もその因果を深く考えない。


ただ、


今日も生き延びた。



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