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勇者が世界を救ったあと、僕は国を作ることにした  作者: あおいにじ
第二章:観測される側の論理
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オーガいれば最強じゃね?

境界都市の空気が変わったのは、公式混成部隊の二戦目の翌日だった。


掲示板に貼られた戦果報告。


魔獣群殲滅。

北街道復旧。

住民救出。


どれも派手。


どれも分かりやすい。


酒場では誰かが言う。


「やっぱオーガ入ると違うな」


別の誰か。


「正面から押せる」


「細けぇこと考えなくていい」


その言葉が、町に広がっていく。



午後。


資材市場。


瓦礫の山の横で、葵たちは木材を選んでいた。


猫族が板を叩いて音を確かめる。


リオは繊維の走りを見る。


そのとき、後ろから低い声。


「お前らがブリッジか」


振り返る。


背の高いオーガ。


年は四十前後。


左肩に古い傷。


鎧は簡素。


でも立ち姿が安定している。


「俺はガルド」


短く名乗る。


「公式混成には選ばれなかった」


理由は言わない。


でも分かる。


年齢か、過去の負傷か。


「仕事、探してる」


葵は一瞬戸惑う。


リオが前に出る。


「うちは、正面突破しない」


ガルドは頷く。


「知ってる。

橋直してたのも見た」


猫族を見る。


セラを見る。


葵を見る。


「それでも、俺は前に立てる」


葵は少し迷ってから言う。


「……一件だけ、一緒にやってみませんか」


ガルドは静かに頭を下げた。



依頼は魔獣巣穴。


郊外の丘陵地。


中規模。


地形は脆い。


普段なら慎重に行く案件。


でも今回はオーガがいる。


現地。


猫族が偵察。


「さんたい」


リオが地面を触る。


「下、水走ってる。崩れるぞ」


ガルドは前に出る。


「なら、早く終わらせよう」


止める間もなく踏み込む。


正面から。


魔獣が出る。


ガルドが受け止める。


拳一発。


吹き飛ぶ。


二体目。


同じ。


強い。


圧倒的。


葵は後ろで立ち尽くす。


ノイズを入れる間もない。


猫族も回り込む必要がない。


リオが叫ぶ。


「待て!地盤が――」


遅い。


ガルドの踏み込みで、地面が割れる。


低い音。


次の瞬間、斜面が崩れる。


巣穴ごと滑落。


魔獣は潰れる。


戦闘は終わる。


でも地面も終わる。


土砂が流れ、下の畑に押し寄せる。


水脈が露出。


泥水が広がる。


静寂。



夕方。


被害確認。


畑三枚流失。


用水路破断。


住民は呆然。


依頼は達成。


魔獣は全滅。


でも町が壊れた。


猫族の尻尾が下がる。


リオは地図を見つめたまま動かない。


葵は住民に頭を下げ続ける。


ガルドは少し離れて立っている。


近づくと、低い声。


「俺は、ちゃんと仕事をした」


葵は頷く。


「……はい」


ガルドは続ける。


「でも、お前らのやり方じゃなかったな」


しばらく沈黙。


風が吹く。


「俺は前に出たい」



帰り道。


誰も喋らない。


ジーナが静かに報告する。


「葵。今回の案件、短期成功率98%。

長期環境損失、推定47%」


葵は小さく息を吐く。


「それ、失敗だよね」


「ブリッジ基準では、はい」


ガルドはそれを聞いて立ち止まる。


振り返らずに言う。


「俺は別を探す」


リオが顔を上げる。


「ガルド」


ガルドは少しだけ振り向く。


「お前らは、殴る部隊じゃないのかもな」


それだけ言って歩き出す。


背中はまっすぐだった。


夜。


簡易宿。


猫族は丸くなっている。


リオは地図を畳む。


葵は壁にもたれる。


セラは外。


しばらく誰も喋らない。


ジーナが小さく言う。


「葵。今回の案件、短期成功率98%。

長期環境損失、推定47%」


葵は天井を見る。


「……ごめん」


誰に向けた言葉か分からない。


ジーナは続ける。


「記録しました」


それだけ。


リオが静かに言う。


「ガルドは悪くない」


葵は頷く。


「分かってる」


でも拳は握られている。


猫族が寝返りを打つ。


小さく鳴く。


葵はその音を聞きながら言う。


「……俺さ」


リオが見る。


「今日、楽になると思った」


間。


「強い人が前に立ってくれて」


「俺、後ろで考えられるって」


言葉が途切れる。


「それで……町、壊れた」


誰も返事をしない。


ジーナが控えめに補足する。


「戦闘の短縮と環境維持は、統計上トレードオフです」


葵は苦笑。


「トレードオフか」


少し黙ってから、ぽつり。


「じゃあさ……」


声は弱い。


「俺たちは、時間かけてゆっくり進むのが合ってるのかもね」


リオは何も言わず、頷いた。


猫族は寝息を立てている。


セラは外で風に揺れている。


ジーナはその言葉を、静かにログに残した。




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