オーガいれば最強じゃね?
境界都市の空気が変わったのは、公式混成部隊の二戦目の翌日だった。
掲示板に貼られた戦果報告。
魔獣群殲滅。
北街道復旧。
住民救出。
どれも派手。
どれも分かりやすい。
酒場では誰かが言う。
「やっぱオーガ入ると違うな」
別の誰か。
「正面から押せる」
「細けぇこと考えなくていい」
その言葉が、町に広がっていく。
⸻
午後。
資材市場。
瓦礫の山の横で、葵たちは木材を選んでいた。
猫族が板を叩いて音を確かめる。
リオは繊維の走りを見る。
そのとき、後ろから低い声。
「お前らがブリッジか」
振り返る。
背の高いオーガ。
年は四十前後。
左肩に古い傷。
鎧は簡素。
でも立ち姿が安定している。
「俺はガルド」
短く名乗る。
「公式混成には選ばれなかった」
理由は言わない。
でも分かる。
年齢か、過去の負傷か。
「仕事、探してる」
葵は一瞬戸惑う。
リオが前に出る。
「うちは、正面突破しない」
ガルドは頷く。
「知ってる。
橋直してたのも見た」
猫族を見る。
セラを見る。
葵を見る。
「それでも、俺は前に立てる」
葵は少し迷ってから言う。
「……一件だけ、一緒にやってみませんか」
ガルドは静かに頭を下げた。
⸻
依頼は魔獣巣穴。
郊外の丘陵地。
中規模。
地形は脆い。
普段なら慎重に行く案件。
でも今回はオーガがいる。
現地。
猫族が偵察。
「さんたい」
リオが地面を触る。
「下、水走ってる。崩れるぞ」
ガルドは前に出る。
「なら、早く終わらせよう」
止める間もなく踏み込む。
正面から。
魔獣が出る。
ガルドが受け止める。
拳一発。
吹き飛ぶ。
二体目。
同じ。
強い。
圧倒的。
葵は後ろで立ち尽くす。
ノイズを入れる間もない。
猫族も回り込む必要がない。
リオが叫ぶ。
「待て!地盤が――」
遅い。
ガルドの踏み込みで、地面が割れる。
低い音。
次の瞬間、斜面が崩れる。
巣穴ごと滑落。
魔獣は潰れる。
戦闘は終わる。
でも地面も終わる。
土砂が流れ、下の畑に押し寄せる。
水脈が露出。
泥水が広がる。
静寂。
⸻
夕方。
被害確認。
畑三枚流失。
用水路破断。
住民は呆然。
依頼は達成。
魔獣は全滅。
でも町が壊れた。
猫族の尻尾が下がる。
リオは地図を見つめたまま動かない。
葵は住民に頭を下げ続ける。
ガルドは少し離れて立っている。
近づくと、低い声。
「俺は、ちゃんと仕事をした」
葵は頷く。
「……はい」
ガルドは続ける。
「でも、お前らのやり方じゃなかったな」
しばらく沈黙。
風が吹く。
「俺は前に出たい」
⸻
帰り道。
誰も喋らない。
ジーナが静かに報告する。
「葵。今回の案件、短期成功率98%。
長期環境損失、推定47%」
葵は小さく息を吐く。
「それ、失敗だよね」
「ブリッジ基準では、はい」
ガルドはそれを聞いて立ち止まる。
振り返らずに言う。
「俺は別を探す」
リオが顔を上げる。
「ガルド」
ガルドは少しだけ振り向く。
「お前らは、殴る部隊じゃないのかもな」
それだけ言って歩き出す。
背中はまっすぐだった。
夜。
簡易宿。
猫族は丸くなっている。
リオは地図を畳む。
葵は壁にもたれる。
セラは外。
しばらく誰も喋らない。
ジーナが小さく言う。
「葵。今回の案件、短期成功率98%。
長期環境損失、推定47%」
葵は天井を見る。
「……ごめん」
誰に向けた言葉か分からない。
ジーナは続ける。
「記録しました」
それだけ。
リオが静かに言う。
「ガルドは悪くない」
葵は頷く。
「分かってる」
でも拳は握られている。
猫族が寝返りを打つ。
小さく鳴く。
葵はその音を聞きながら言う。
「……俺さ」
リオが見る。
「今日、楽になると思った」
間。
「強い人が前に立ってくれて」
「俺、後ろで考えられるって」
言葉が途切れる。
「それで……町、壊れた」
誰も返事をしない。
ジーナが控えめに補足する。
「戦闘の短縮と環境維持は、統計上トレードオフです」
葵は苦笑。
「トレードオフか」
少し黙ってから、ぽつり。
「じゃあさ……」
声は弱い。
「俺たちは、時間かけてゆっくり進むのが合ってるのかもね」
リオは何も言わず、頷いた。
猫族は寝息を立てている。
セラは外で風に揺れている。
ジーナはその言葉を、静かにログに残した。




