「アルテリオ、初陣」
出陣は即日だった。
魔族の先遣部隊が、王都郊外まで迫っていたからだ。
アルテリオは拒まなかった。
装備の説明を受け、剣を受け取り、防具を身につける。
訓練など不要。
身体が最初から動く。
仲間として同行するのは三人:
回復役のミア。
弓使いのカイル。
盾役のグロウ。
全員、歴戦。
でも誰よりも緊張していた。
城門が開く。
外は焼けた草原。
遠くに黒い影が蠢いている。
魔族兵。
異形の体。
歪んだ角。
赤い目。
数は百を超えていた。
普通なら撤退案件。
アルテリオは一歩前に出る。
剣を構え、深く息を吸う。
「みんな、後ろでいい」
ミアが叫ぶ。
「アル!? 単独は――」
アルテリオは振り返って微笑んだ。
「大丈夫。守るよ」
次の瞬間。
地面を蹴った。
速すぎて、仲間の視界から一瞬消える。
一体目。
横薙ぎ。
魔族の胴が裂ける。
二体目。
突き。
核を貫通。
三体目。
空中で回転しながら斬り落とす。
魔法も補助もいらない。
剣だけで、前線が崩壊していく。
魔族の反撃が入る。
黒い火球。
アルテリオは避けない。
直撃。
――だが倒れない。
世界補正が発動。
皮膚は焦げても、致命にはならない。
アルテリオは歯を食いしばり、踏み込む。
「終わらせる!」
剣が光る。
光波が走る。
十数体がまとめて吹き飛ぶ。
戦闘開始から、わずか三分。
魔族部隊は壊滅した。
静寂。
風だけが吹く。
仲間たちは立ち尽くしていた。
カイルが呟く。
「……一人で足りるじゃん」
グロウが苦笑する。
「俺たち、何しに来たんだ」
アルテリオは剣を下ろし、息を整えた。
そして仲間の方を向く。
「怪我してない?」
ミアが首を振る。
「あなたこそ……」
アルテリオは肩をすくめる。
「このくらい平気」
そして倒れた魔族を見つめる。
表情は変わらない。
憎しみも、快楽もない。
ただ、
「もう、誰も傷つかなくていい」
それだけ。
この瞬間、
世界は確信した。
この勇者は完璧だ、と。
⸻
その同時刻。
遠く離れた日本。
雷雨の夜。
一人の少年が、部屋で椅子に座っていた。
名前は葵。
耳元には、小さな妖精端末。
「jp-mu76、初期化を開始します」
淡々とした声。
外で雷が落ちる。
通信塔が光る。
世界のどこかで、勇者が召喚され、
同じ瞬間、
演算層がズレた。
白。
ノイズ。
座標消失。
誰にも観測されない落下。
――ここから、もう一本の物語が始まる。




