エリート部隊
朝。
境界都市の掲示板が、いつもより騒がしかった。
紙が何枚も重ねて貼られている。
赤い封蝋。
行政印。
猫族が先に見つける。
「ぶりっじ!」
葵が近づく。
大きな文字。
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多種族混成対応部隊 発足のお知らせ
人間・エルフ・オーガ・猫族・天使、各勢力より選抜された人員による
都市間連携試験部隊を設立する。
目的:魔族対応およびインフラ復旧の迅速化。
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リオが静かに読む。
「……来たな」
葵は瞬きをする。
「来たって?」
「上が動いた」
周囲では傭兵たちが話している。
「混成だってさ」
「勇者とは別枠らしい」
「選抜だぞ、選抜」
「装備も出るって」
空気が少し浮き立つ。
猫族が首をかしげる。
「みんな、まね?」
葵は苦笑する。
「たぶんね」
ジーナが淡々と補足する。
「ブリッジの活動ログと相関性があります。
制度化までの所要期間、予測より短縮されています」
「早いね」
「成果が可視化されたためです」
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昼。
受付前。
葵たちは依頼の確認に来ていた。
いつもの事務員。
でも今日は、後ろに別の職員が立っている。
書類の厚みが違う。
事務員は少し言いづらそうに言った。
「……大型案件が出ています」
葵が顔を上げる。
「どんな?」
「北街道の崩落地帯。
魔獣複数。住民孤立」
リオが反応する。
「構造と戦闘、両方いる案件ですね」
事務員は頷く。
「はい。ただ……」
一瞬間。
「こちらは、新設混成部隊の初出動案件になります」
葵は黙る。
「ブリッジには、周辺の小規模復旧をお願いしたい」
つまり。
大きい仕事は、そっち。
葵はゆっくり頷いた。
「分かりました」
事務員はほっとした顔をする。
「助かります」
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宿への帰り道。
猫族が小さく言う。
「あっち、すごそう」
リオは歩きながら答える。
「実際すごいだろうな」
葵は地面を見る。
「俺たち、外された?」
リオは少し考える。
「優先順位の問題だ」
葵は小さく息を吐く。
「そっか」
セラが静かに言う。
「合理的判断です」
ジーナも続ける。
「現在のブリッジは、戦闘能力より環境対応に強みがあります」
「便利屋枠だね」
「表現としては近いです」
葵は苦笑した。
⸻
夕方。
酒場の壁に、新しい紙。
混成対応第一部隊 出動
構成員の名前。
肩書き。
装備一覧。
猫族の目が丸くなる。
「よろい、すごい」
リオは静かに読む。
「エルフの計算官……オーガの前衛……天使の指揮官」
葵は覗き込む。
「ちゃんと揃ってる」
「揃えたんだ」
「強そう」
リオは頷く。
「強い」
それだけ。
⸻
夜。
ブリッジの簡易宿。
猫族は疲れて寝ている。
セラは外。
リオは地図を畳む。
葵は椅子にもたれる。
「なんかさ」
リオが見る。
「うん」
「俺たち、追い抜かれた?」
リオは首を振る。
「違う」
「じゃあなに」
リオは少し考える。
「並ばれた」
葵は目を瞬く。
「それ、同じじゃない?」
リオは小さく笑う。
「違う。
向こうは“作られた混成”。
こっちは……」
言葉を探す。
「……成り行きだ」
葵は少し笑った。
「成り行き、強いよね」
ジーナが静かに言う。
「成り行きは予測困難です」
「だよね」
⸻
同時刻。
北街道。
新設混成部隊。
整った隊列。
完璧な装備。
エルフの計算官が指示を出す。
オーガが前に出る。
猫族が偵察。
天使が全体を統制。
魔獣の群れが現れる。
連携。
一糸乱れぬ動き。
強い。
短時間で殲滅。
住民救出。
被害軽微。
報告が即座に都市へ送られる。
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境界都市。
掲示板に貼り出される戦果。
人だかり。
歓声。
「すげえ」
「これが混成か」
誰かが言う。
「ブリッジより上じゃん」
葵は遠くからそれを見る。
猫族は読めない。
リオは視線を外す。
ジーナが小さく報告する。
「公式混成部隊、初戦成功です」
「そっか」
葵は頷く。
胸の奥が、少しだけ重い。
でも仕事は残っている。
明日は給水路。
その次は屋根。
葵は立ち上がる。
「よし。寝よう」
リオも頷く。
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光る戦果と、静かな復旧。
同じ“混成”。
でも、形は違う。
まだ誰も、それに名前をつけていない。




