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勇者が世界を救ったあと、僕は国を作ることにした  作者: あおいにじ
第二章:観測される側の論理
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勇者様

白い光が、山脈の向こうから走った。


雲が割れ、空気が震える。


アルテリオは着地と同時に剣を振り抜いた。


一閃。


魔族の前衛部隊が、音もなく崩れる。


土煙が遅れて立ち上る。


「……終わり」


彼の声は静かだった。


周囲に残るのは焦げた地面と、倒れ伏した影だけ。


ミアが駆け寄る。


「アル、大丈夫?」


「問題ない」


カイルが遠距離から索敵を続ける。


「残敵なし。半径二百」


グロウは盾を下ろし、息を整える。


誰も怪我をしていない。


いつものこと。


勇者アルテリオの戦いは、短く、正確で、被害が出ない。



野営地。


簡易結界の内側。


ミアが回復魔法を流し、形式的に全員の状態を整える。


必要はない。


でも“やること”だからやる。


ミアはアルテリオを見る。


いつも通り。


呼吸も乱れていない。


汗もほとんどかいていない。


「ねえ、アル」


「?」


「今日の村、子ども多かったね」


アルテリオは少し考える。


「避難が遅れていた。判断が甘い」


ミアは一瞬黙る。


「……助けられてよかった」


アルテリオは頷く。


「次の戦線に備えよう」


それで話は終わる。



夜。


カイルが地図を広げる。


「次は南東。補給拠点に魔族反応」


アルテリオは即答する。


「向かう」


グロウが言う。


「住民の退避は?」


アルテリオは少しだけ間を置く。


「間に合わない可能性が高い。

先に敵を叩く」


グロウは何も言わない。


それが最善手だから。


ミアは唇を噛む。


でも反論しない。


誰も反論しない。


ここでは、アルテリオの判断が“正解”になる。



翌朝。


人間側前線指令所。


簡易の通信水晶が光る。


「勇者隊、魔族第七拠点を制圧」


報告が流れる。


指令官が頷く。


「被害は?」


「建物半壊二、住民負傷五。死者なし」


「上出来だ」


壁の地図に、新しい印がつく。


勇者が通った線。


一直線。


迷いがない。



同じ頃。


境界都市。


ブリッジは給水管の二本目を直していた。


泥だらけ。


猫族は濡れたまま。


リオは配管の奥を覗き込んでいる。


葵はレンチを回す。


ジーナが言う。


「締めすぎです。あと半回転戻してください」


「了解」


水が流れる。


漏れない。


作業員が笑う。


「助かるよ」


葵は小さく頷く。


報告書は小さい。


戦果にもならない。


地図に線は引かれない。



昼。


境界都市の酒場。


壁の掲示板に、勇者の戦果が貼られている。


大きな文字。


「魔族第七拠点、勇者隊が制圧」


周囲がどよめく。


誰かが言う。


「さすが勇者だ」


別の誰か。


「やっぱ違うな」


葵はそれを横目で見る。


猫族は読めない。


リオは一瞬だけ視線を向けて、すぐ戻す。


セラは外。


ジーナが小さく言う。


「戦闘効率、非常に高いです」


「そりゃそうだよね」


葵はスープを飲む。


温い。



夜。


アルテリオの野営地。


静か。


星が多い。


ミアが焚き火のそばに座る。


アルテリオは剣の手入れ。


ミアがぽつり。


「アルってさ」


「?」


「疲れない?」


アルテリオは首を振る。


「使命がある」


それだけ。


ミアは笑う。


「そっか」


でもその笑いは、少しだけ弱い。



同時刻。


境界都市の外れ。


ブリッジの簡易宿。


猫族はもう寝ている。


リオは地図を畳む。


葵は窓から外を見る。


遠くで雷鳴。


勇者の戦いだと、誰かが言っていた。


ジーナが報告する。


「葵。現在総合干渉値、約24.1」


「上がってる?」


「はい。主に社会接触と共鳴補正です」


葵は小さく息を吐く。


「向こうは世界を救ってて、

こっちは水道直してるだけだね」


リオが静かに言う。


「どっちも必要だ」


葵は少し笑う。


「うん」


それ以上は言わない。



空の上では、光が走る。

地上では、水が流れる。


まだ、交わらない。


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