やりがい
朝。
境界都市の掲示板に、人だかりができていた。
新しい依頼書が貼られる。
その中に、小さく〈ブリッジ〉の文字。
猫族が一番に見つける。
「ぶりっじ!」
葵は近づいて読む。
旧居住区・給水管補修。
南門倉庫・倒壊防止作業。
戦闘じゃない。
でも町にとっては重要。
受付の事務員が声をかけてくる。
「……あなたたちですよね」
葵が頷く。
「昨日の火災の」
事務員は少し迷ってから言う。
「同じ依頼主から、続きが来てます」
リオが一歩前に出る。
「構造系ですか」
「はい」
それだけで話が通じる。
⸻
午前中は給水管。
地下に潜る。
猫族が先行。
リオが配管の歪みを読む。
葵が支柱を運ぶ。
セラが上から振動を監視。
ジーナが耳元で告げる。
「この継ぎ目、内圧が上がっています。
外側から締めると破裂します」
「じゃあ?」
「一度水を抜いてください」
葵が栓を回す。
水が止まる。
補修。
再開。
うまくいく。
作業員が目を丸くする。
「そんなやり方、知らなかった」
葵は笑う。
「俺も今知りました」
ジーナ経由。
⸻
昼。
倉庫。
梁が傾いている。
正規の工務隊は順番待ちで三日後。
でも今にも落ちそう。
依頼主が困った顔。
リオが即答する。
「今日いけます」
猫族が資材を運ぶ。
葵が仮支柱を組む。
セラが上空から微調整。
ジーナが角度を指示。
誰も大声を出さない。
でも動きは早い。
夕方には応急補強完了。
拍手。
依頼主が頭を下げる。
「助かりました。
あんたたち、本当に“橋”みたいだ」
葵は少し照れる。
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宿に戻ると、知らない人が待っていた。
革鎧の男。
傭兵。
昨日の人とは別。
「ブリッジさん?」
葵は頷く。
「北区の排水路、見てもらえないか」
続けて別の人。
「うちの家、床が沈んでて」
さらに。
「魔獣の足跡が畑に」
一気に三件。
葵は目を丸くする。
リオが小声で言う。
「……来たな」
「なにが」
「仕事が」
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夜。
簡易食堂。
パンとスープ。
猫族は疲れて丸くなっている。
セラは外。
リオが地図を広げる。
「このまま全部受けたら、体がもたない」
葵は頷く。
「優先順位決めよう」
ジーナが静かに補足する。
「インフラ系を先に。
放置すると被害が拡大します」
「了解」
初めて、ちゃんと“選ぶ”。
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同時刻。
人間側行政区。
簡易会議室。
数人の担当官。
壁の地図。
赤い印。
「最近、境界都市で小規模復旧が急増しています」
「誰が?」
「混成旅団。名はブリッジ」
エルフの代表が資料を見る。
「天使同行?」
「はい」
一瞬の沈黙。
「勇者とは別系統ですね」
「ええ。戦果は小さいですが、影響範囲が広い」
誰かが言う。
「再現できませんか」
別の誰か。
「検討中です」
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さらに遠く。
魔族領。
黒い会議室。
斥候報告。
「境界都市周辺で活動する混成集団。
名はブリッジ」
幹部の一人が低く言う。
「勇者ではない?」
「違います」
「戦闘能力は?」
「低い。ただし……」
斥候は少し言葉を選ぶ。
「局所的に戦況と環境が変化します」
静寂。
黒衣の幹部が指を組む。
「……記録対象に入れろ」
「優先度は?」
「中。まだ脅威ではない」
だが、名は刻まれた。
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夜風。
境界都市の外れ。
葵は屋根の上で空を見る。
星が多い。
ジーナが小さく言う。
「葵。現在総合干渉値、約23.4」
「少しずつだね」
「はい」
下では猫族が寝息を立てている。
リオは地図を畳んだ。
セラは空に溶ける。
葵は深く息を吸う。
明日はまた仕事。
それでいい。




