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勇者が世界を救ったあと、僕は国を作ることにした  作者: あおいにじ
第二章:観測される側の論理
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境界都市・旧居住区の火災

掲示板に〈ブリッジ〉の名が載ったのは、その翌日だった。


依頼書の下の方。


小さな紙。


「地下水路復旧・完了」


その横に、細い字で団名。


猫族が見つけて尻尾を揺らす。


「ぶりっじ!」


葵は少し照れる。


リオは何も言わないけど、視線が一瞬止まった。



午前中は細かい依頼が続いた。


荷運び。


屋根の補修。


壊れた扉の蝶番直し。


どれも戦闘とは程遠い。


でも人手は足りていない。


猫族が走り回り、


リオが構造を見て、


葵が木材を運び、


セラが上から監視する。


ジーナは葵の耳元で、


「この梁は横から支えると安定します」


「その木材、水に浸すと割れにくいです」


と小さく助言を続けていた。


誰かが指揮しているわけじゃない。


自然と役割が決まる。



昼前。


受付の事務員が葵を呼び止めた。


少し慌てた顔。


「……急ぎの案件があります」


「どんな?」


「旧居住区で火災。

集合住宅の二階に子どもが取り残されている可能性」


葵は即答した。


「行きます」



旧居住区は石造りの建物が密集している。


路地が細い。


黒い煙が上がっていた。


人だかり。


誰も中に入れずにいる。


セラがすぐ上空へ。


「二階奥。生命反応ひとつ」


猫族が耳を伏せる。


「なきごえ、きこえる」


葵は一歩踏み出す。


その瞬間、ジーナの声。


「葵、待ってください」


「なに?」


「煙の流れから見て、内部温度が急上昇しています。

このまま突入すると、天井付近で一気に燃焼が広がる可能性があります」


葵は足を止める。


「どうすればいい?」


「入口を一箇所だけ開けてください。

低い位置です。空気の流れを作ります」


葵は頷く。


猫族に合図。


猫族が低い壁の隙間をこじ開ける。


外気が流れ込み、煙の向きが変わる。


ジーナが続ける。


「今です。上ではなく床を見て進んでください」


葵は腰を落として入る。


煙で視界が白い。


喉が焼ける。


リオが後ろで壁を叩く。


「梁、まだ生きてる……でも奥は危ない」


セラが上から伝える。


「右に半歩。床が抜けています」


ジーナが補足。


「三歩先、温度が異常です。避けて」


葵は言われるまま進路を微調整する。


奥に行くと、通路が塞がっていた。


落ちた梁と板。


炎。


猫族が立ち止まる。


リオが歯を食いしばる。


「壊したら崩れる」


葵は壁に手をつく。


息が苦しい。


でも、なぜか思った。


“これ、壁じゃない”


理由は分からない。


ただそう感じた。


葵は殴らず、蹴らず、


両手で板を押した。


ぎし、と音。


固定されていた補強板が外れる。


奥に細い空間。


リオが一瞬目を見開く。


「そこ……元は避難通路だ」


誰も使ってなかった場所。


図面上だけ残っていた経路。


猫族が潜る。


「いた!」


子ども。


泣いている。


猫族が抱えて戻る。


ジーナが言う。


「戻りましょう。天井温度が限界です」


セラが上から風を送り、煙を散らす。


外へ。


母親が駆け寄る。


泣き声と、ありがとうが重なる。



葵は少し離れて壁にもたれた。


息が荒い。


リオが横に来る。


しばらく黙って呼吸を整える。


それからリオがぽつり。


「さっきのとこ」


葵が見る。


「あの板。

普通なら壊すか、諦める場所だった」


葵は首をかしげる。


「……押したら動いた」


リオは小さく笑う。


「そうだな」


少し間。


「でも、君は最初から“通れる”って顔してた」


葵は考える。


「え?……そうだったかな」


リオは肩をすくめる。


「気のせいかもしれない」



帰り道。


ジーナが控えめに言う。


「葵。先ほどの判断、統計的にはかなり珍しい経路選択でした」


「危なかった?」


「はい。でも最短でした」


「じゃあよかった」


ジーナは一瞬間を置く。


「ログに残します」


それ以上は言わない。



夜。


掲示板に新しい紙。


〈ブリッジ〉

旧居住区火災救助・完了。


団名が、少しだけ大きく書かれていた。


猫族が見上げる。


「ぶりっじ」


葵は照れたように頭を掻いた。


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