橋
掲示板の前は、人が多かった。
依頼書の紙をめくる音。
金属の鳴る音。
傭兵たちの低い声。
葵は一枚ずつ見ていく。
魔獣討伐。
護衛。
輸送。
どれも人数指定がある。
「三名以上の戦闘経験者」
「人間限定」
「正規登録団のみ」
リオが小声で言う。
「弾かれてる」
葵は苦笑する。
「だね」
猫族が首をかしげる。
「おしごと、ない?」
セラは黙って立っている。
天使がいる時点で、視線が集まる。
受付台へ行く。
人間の女性。
事務員。
葵が聞く。
「あの、小さい依頼とかありますか」
事務員は書類をめくる。
葵たちを見る。
人間。エルフ。猫族。天使。
一瞬、表情が固まる。
「……混成ですか」
「はい」
「登録団名は?」
葵は言葉に詰まる。
「まだ、ないです」
事務員は小さく息を吐く。
「正式団でない混成は、危険区域の依頼は出せません」
「危険じゃないやつでいいです」
少し間。
事務員は端末を操作する。
「地下水路の確認があります」
葵が顔を上げる。
「確認?」
「旧区画の排水路。最近、水位が上がってる」
リオが反応する。
「構造劣化?」
「たぶん」
事務員は続ける。
「魔獣反応も出てる。
戦闘目的じゃないので、報酬は安い」
葵は頷く。
「それでお願いします」
事務員は少し意外そうに見る。
「……本当に?」
「はい」
書類が出てくる。
仮登録。
無所属。
期限付き。
⸻
地下水路入口。
石造りの古い構造。
湿った空気。
猫族が鼻を動かす。
「せまい」
リオは壁を触る。
「補強入ってないな」
セラが上から覗く。
「奥に生命反応二」
葵は深呼吸する。
「行こう」
⸻
中は暗い。
水が足首まで来る。
猫族が先行。
細い脇道を確認。
リオは天井を見る。
「ここ、落ちる」
葵は木材を当てる。
応急支柱。
セラが位置を指示。
ジーナが距離を計測。
奥で魔獣。
中型一体。
動きが速い。
葵が前に出る。
魔物に向かって腕を振る。
引っかかる。理屈はわからないがなんとなくコツが掴めてきている気がする
猫族が側面。
リオが支柱を叩き込む。
天井がずれる。
魔獣の動きが止まる。
一瞬。
それで十分。
魔物を倒した。
⸻
作業は続く。
詰まりの除去。
割れた石の固定。
水位が下がる。
町の下水が流れ始める。
外に出たとき、夕方だった。
依頼主の初老の男性が頭を下げる。
「助かりました」
葵は首を振る。
「みんなでやっただけです」
男は葵たちを見る。
濡れた猫族。
泥だらけのリオ。
静かな天使。
息を整える葵。
「……あんたたち、なんて呼べばいい?」
葵は一瞬、言葉に詰まる。
猫族が先に言う。
「ぶりっじ!」
葵が見る。
「え?」
猫族は尻尾を振る。
「はし!」
リオが小さく笑う。
「最初に直したの、橋だったな」
セラが頷く。
「論理的です」
ジーナが即座に反応する。
「登録します。団名:ブリッジ」
葵は慌てる。
「え、今?」
「はい。今です」
男は少し笑う。
「ブリッジか。悪くない」
夕暮れの風が吹く。
葵は仲間を見る。
誰も反対していない。
だから頷いた。
「……ブリッジで」




