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勇者が世界を救ったあと、僕は国を作ることにした  作者: あおいにじ
第二章:観測される側の論理
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人とエルフの境界都市

石壁が見えたのは、昼を少し過ぎた頃だった。


草原の向こうに、低く長い城壁。


装飾は少ない。


実用一点張りの街。


境界都市。


人間とエルフの勢力が交わる場所で、物流と情報が集まる中継点。


門の前には行列。


商人の荷車、傭兵の一団、旅人。


葵たちも最後尾に並ぶ。


猫族は少し落ち着かない様子で耳を動かしている。


リオは周囲を観察。


セラは上空。


ジーナが小声で言う。


「葵。人流密度が上昇しています。注意してください」


「スリ?」


「その可能性もあります」


葵はリュックの紐を握り直した。



門番は二人。


片方は人間、片方はエルフ。


交互に確認している。


順番が来る。


人間の門番が葵を見る。


「旅団名は?」


葵は一瞬固まる。


「……え?」


門番は眉をひそめる。


「団名。ないなら“無所属”で通すが」


葵は振り返る。


リオと目が合う。


リオが一拍置いて言った。


「無所属で」


門番は頷き、札に印をつける。


「滞在期限は七日。延長は申請しろ」


通される。


石畳の中に入ると、空気が変わった。


人の匂い。


鉄の匂い。


香辛料の匂い。


音が多い。


猫族がきょろきょろしている。


「ひと、いっぱい」


葵は小さく笑う。


「ね」



中央通り。


露店が並び、叫び声が飛び交う。


「乾燥肉!」「地図売り!」「護符あります!」


傭兵らしき集団が歩いていく。


鎧の擦れる音。


リオが葵に言う。


「ここで情報集めよう」


「うん」


まずは宿。


安めの共同宿に部屋を取る。


二段ベッド。


狭い。


でも屋根がある。


猫族は上段を取り合っている。



夕方。


掲示板の前。


依頼書がびっしり貼られている。


魔獣討伐、護衛、修繕、調査。


葵は一枚一枚眺める。


リオが指を差す。


「この辺、北街道関連が多い」


「橋の町と同じ?」


「たぶん繋がってる」


セラが静かに言う。


「物流が詰まっています。複数地点で」


葵は紙を見つめる。


魔獣。


盗賊。


小規模魔族。


全部、勇者が動くほどじゃない。


でも放置すると町が弱るやつ。


そのとき、背後から声。


「……あんたたち」


振り返ると、人間の男。


軽装の傭兵。


年は三十前後。


「最近、変な混成の旅団がいるって聞いた」


葵は瞬きをする。


「変な?」


男は肩をすくめる。


「人間にエルフに猫族に天使。

橋直したり、魔獣追い払ったりしてるらしい」


リオと視線が合う。


男は続ける。


「もしかして、それ?」


葵は一瞬迷ってから言う。


「……たぶん」


男は笑った。


「噂って早いな」


それだけ言って去っていく。


猫族が小声で言う。


「もうバレてる」


葵は頭を掻く。


「有名になりたいわけじゃないんだけど」


ジーナが淡々と補足する。


「行動ログが点から線に変わりつつあります」


「線?」


「複数地域で同一構成の集団が確認されています」


葵はため息。


「足跡つきすぎだね」



夜。


宿の食堂。


薄いスープ。


固いパン。


でも町の明かりが窓から入る。


リオが言う。


「しばらくここで小さい依頼を受けよう」


葵は頷く。


「うん」


猫族も頷く。


セラは外。


ジーナが報告する。


「葵。現在総合干渉値、約22.0」


「じわじわだね」


「はい。急激な変化は見られません」


葵はパンをちぎりながら言う。


「ねえ、俺たちってさ」


リオが見る。


「なに」


「名前ないと不便だよね」


リオは少し考える。


「……確かに」


猫族が首をかしげる。


「なまえ?」


葵は笑う。


「そのうち決めよう」


今はまだ、決めきれない。



外では人の声。


馬のいななき。


遠くで鍛冶の音。


葵は椅子にもたれる。


ここも、長くはいられない気がする。


でも今日は、屋根があって、食べ物があって、仲間がいる。


それで十分だった。


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