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勇者が世界を救ったあと、僕は国を作ることにした  作者: あおいにじ
第二章:観測される側の論理
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村での思い出

朝の町は、思っていたより賑やかだった。


宿の裏手でパンを焼く匂いが漂い、通りでは子どもが桶を蹴って遊んでいる。


葵は井戸の水で顔を洗った。


冷たい。


目が覚める。


猫族の三人はすでに起きていて、魚屋の前で干物を指さしながら何か相談している。


尻尾が楽しそうに揺れていた。


リオは宿の壁にもたれて、簡易端末で橋の耐荷重を再計算している。


セラは屋根の上。


ジーナが耳元で言う。


「葵。現在総合干渉値、約21.3」


「朝から数字出るんだ」


「睡眠中にも内部再構築が進行しています」


葵は小さく息を吐いた。



朝食後、町の人たちが橋を見に集まってきた。


荷車を押して試す。


きしむ音。


でも折れない。


誰かが拍手する。


それが連鎖して、小さな拍手の輪になる。


葵は照れて頭を下げた。


「応急処置です」


「それでも助かったよ」


農家の女性がそう言って、籠いっぱいの根菜を差し出してくる。


「え、いいんですか」


「橋がなきゃ腐るだけだ」


受け取るしかなかった。


猫族が嬉しそうに匂いを嗅ぐ。



昼前。


リオは倉庫の棚を直していた。


歪んでいた柱を補強し、落ちかけていた梁を固定する。


町の若者が横で見ている。


「それ、どうやるんですか」


「ここに力が集中するから、斜めに一本入れる」


若者は真似する。


最初は失敗。


二回目で形になる。


「できた」


リオは小さく頷く。


それだけ。


でも若者の顔は明るい。



猫族は子どもたちと遊んでいた。


追いかけっこ。


猫族の反射が速すぎて、子どもたちは全然捕まえられない。


でも途中から猫族がわざと転ぶ。


子どもたちが歓声を上げる。


葵はそれを見て、思わず笑った。



午後。


町外れの畑。


葵は鍬を借りて、雑草を抜いていた。


慣れない動き。


腰が痛い。


隣で老夫婦が作業している。


「旅の人かい」


「はい」


「天使なんて初めて見たよ」


セラが少し頭を下げる。


老婦人が目を丸くする。


「礼儀正しいねえ」


葵は苦笑する。



夕方。


みんなで簡単な炊き出し。


根菜のスープ。


固いパン。


でも量がある。


猫族が夢中で食べる。


リオは静かに咀嚼している。


セラは横で見ているだけ。


町の人たちが自然に混ざってくる。


誰も「勇者」なんて言わない。


ただ一緒に食べる。


葵はその空気が、少し好きだった。



夜。


宿の前で、店主が葵に声をかける。


「……あんたたち」


葵が振り返る。


「よかったら、ここにいないか」


唐突だった。


「仕事ならある。

畑も倉庫も人手が足りん」


猫族が顔を上げる。


リオもこちらを見る。


葵の胸が少し締まる。


ここなら眠れる。


ご飯もある。


誰も追い出さない。


でも。


葵はゆっくり首を振った。


「……ごめんなさい」


店主は眉をひそめる。


「なぜだ」


葵は言葉を探す。


うまい理由が出てこない。


少し考えてから言った。


「たぶん、俺たちがいると、ここも危なくなる」


店主は黙る。


焚き火の音だけ。


しばらくして、ため息。


「そうか」


それ以上は言わなかった。


別れ際、パンを包んで渡してくれる。


葵は深く頭を下げた。



町を出るとき。


子どもが走ってきて猫族に飛びつく。


「また来てね」


猫族は耳を伏せながら笑う。


「うん」


約束じゃない返事。



丘の上。


振り返ると、小さな町が見える。


煙がまっすぐ上がっている。


葵はリュックを背負い直す。


猫族が並ぶ。


リオが歩き出す。


セラが空へ上がる。


ジーナが静かに告げる。


「進路、南。問題ありません」


葵は頷く。


風が吹く。


草が揺れる。


葵は前を向いて歩く。


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