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勇者が世界を救ったあと、僕は国を作ることにした  作者: あおいにじ
第二章:観測される側の論理
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人間の街

朝は霧が深かった。


草原の低い位置に白い靄が溜まり、足元がぼやけて見える。


葵は猫族より少し遅れて起きた。


身体が重い。


昨日よりも、ほんの少し。


リオはすでに荷物をまとめている。


猫族の三人は焚き火の跡を片付けていた。


セラは上空で周囲を観測。


ジーナが耳元で告げる。


「葵。現在総合干渉値、約19.8」


「また増えてる?」


「はい。主に社会適応と認知処理です」


葵は伸びをしながら立ち上がる。


「戦ってないのにね」


「移動と環境変化も学習に含まれます」


葵は苦笑した。



道らしい道はない。


ただ、踏み固められた草の筋が遠くまで続いている。


交易路。


猫族の一人が言う。


「この先に、人間の町がある」


葵は頷く。


「今日はそこで休もう」


誰も反対しない。


目的地は“休める場所”。


それだけ。



昼過ぎ。


小さな人間の町が見えてくる。


石造りの家が並び、木の柵に囲まれている。


門番が二人。


槍を持っているが、構えは甘い。


戦場慣れしていない。


葵が手を上げる。


「旅人です。休める場所ありますか」


門番は猫族と天使を見て一瞬戸惑う。


でも、葵を見る。


人間。


それだけで警戒が半分になる。


「宿は一軒だけだ」


町に入る。


通りは短い。


商店は三軒。


酒場と宿が一緒になった建物が中央にある。


葵たちは部屋を二つ借りた。


猫族は一部屋。


葵とリオ。


セラは外。


天使に寝床は要らない。



宿の食堂。


簡素な木の机。


スープと硬いパン。


でも温かい。


猫族が尻尾を揺らす。


「ひさしぶりの町ごはん」


葵は笑う。


「だね」


リオはスープを一口飲んでから言った。


「ここ、物流が止まってる」


「分かるの?」


「粉の質が悪い。

たぶん北の街道が死んでる」


葵は眉をひそめる。


「魔族?」


「か、盗賊」


その会話を聞いていた店主が顔を上げる。


「……北の橋が壊れたままでな」


葵は思わず聞く。


「直せないんですか」


店主は肩をすくめる。


「人手がない。

それに、魔族が出るって噂もある」


葵は黙る。


リオも黙る。


猫族も黙る。


セラが静かに言う。


「修復すれば、この町の物資流入率は約42%改善します」


店主は目を丸くする。


「……天使?」


セラは頷く。


場が静まる。


葵は頭を掻いた。


「えっと。今日は休むつもりだったんだけど」


リオが小さく笑う。


「だね」


でも誰も、もう“何もしない”とは言わなかった。



夕方。


北の橋。


木製。


半壊。


川は浅い。


でも荷車は通れない。


周囲には倒木。


修理は素人仕事。


リオが橋を見て、息を吐く。


「構造自体は単純だ」


猫族が石を運び始める。


葵は倒木を引きずる。


セラは上から監視。


ジーナが淡々と補助する。


「荷重配分を調整してください」


「そこ、あと二十センチ」


誰も指揮していない。


でも動きは噛み合っていく。


途中、魔獣が一体出た。


小型。


葵が前に出る。


腕を振る。


引っかかる。


猫族が飛びつく。


リオが木材で殴る。


終わり。


誰も歓声を上げない。


また作業に戻る。


日が沈む頃、橋は一応通れる形になった。


完璧じゃない。


でも、荷車は渡れる。


町の人が遠巻きに見ている。


誰かが拍手する。


それが少しずつ広がる。


葵は照れたように頭を下げた。


「応急処置です」



夜。


宿に戻る途中。


ジーナが報告する。


「葵。現在総合干渉値、約21.1」


「結構いったね」


「はい。主に社会適応と共鳴補正です」


葵は歩きながら言う。


「俺、なんかしてる?」


ジーナは少し間を置く。


「あなたは場に存在しています」


「それだけ?」


「はい」


葵は苦笑した。



遠くで雷鳴。


勇者の光は見えない。


でも町の明かりが、少し増えている。


葵はそれを見ながら歩く。


今日は、ちゃんと眠れそうだ。


それだけで、少し肩の力が抜けた。

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