今のパーティ
夜。
エルフ領の外縁、森と草原の境目。
焚き火は小さい。
炎が強すぎると、追手に気づかれるかもしれない。
誰もそう言ってないけど、自然とそうなった。
葵は石の上に腰を下ろし、靴紐を結び直す。
指先が少し震えている。
疲れだけじゃない。
猫族の三人は毛布を分け合って丸くなっていた。
耳が垂れている。
誰も喋らない。
リオは少し離れたところで、地図を見ている。
エルフの簡易端末。
でも進路は表示されていない。
もう“所属”がないから。
葵は喉を鳴らしてから声をかけた。
「……リオ」
リオは顔を上げる。
「なに?」
「戻らなくて、いいの?」
リオは少し考える。
それから首を横に振った。
「戻っても、配置換えは解除されない。
たぶん次は、もっと外だ」
葵は視線を落とす。
「俺のせい?」
リオは即答しない。
焚き火の音だけが鳴る。
しばらくして、リオは言った。
「半分は」
葵の胸が少し締まる。
リオは続ける。
「でも、半分は俺」
「……どういうこと?」
リオは端末を閉じる。
「君がいなくても、俺はいずれ弾かれてた」
葵は眉をひそめる。
「なんで」
リオは苦笑する。
「効率が落ちてたから」
それだけ。
エルフらしい理由。
葵は言葉に詰まる。
猫族の一人が小さく言った。
「わたしたちも……」
葵がそちらを見る。
猫族の少女が尻尾を抱いている。
「村に戻れない。
エルフと一緒に魔族と戦ったって、もう伝わってる」
葵は息を飲む。
「そんな……」
猫族の少女は無理に笑う。
「だいじょうぶ。交易の時から、覚悟はしてた」
覚悟。
その言葉が重い。
葵は膝の上で手を握りしめた。
ジーナが小さく報告する。
「葵。感情負荷が上昇しています」
葵は深呼吸する。
「……ごめん」
誰に言ってるのか分からない。
リオは首を振る。
「謝る必要はない」
猫族も首を振る。
「アオイ、やさしかった」
それが、余計につらい。
⸻
少しして、セラが戻ってくる。
空から静かに降りる。
「周囲に追跡反応なし」
葵は頷く。
「ありがとう」
セラは一瞬だけ、葵を見る。
「あなたは後悔していますか」
唐突な問い。
葵はすぐに答えられない。
焚き火を見る。
揺れる炎。
「……してる」
セラは静かに続ける。
「それでも、同じ行動を取りますか」
葵は少し考える。
村の顔。
畑。
魔族。
猫族の手。
リオの背中。
「……たぶん」
セラはそれ以上何も言わない。
ただ、記録する。
⸻
夜が深まる。
順番に横になる。
見張りはセラ。
葵は地面に寝転び、空を見る。
星は多い。
日本よりずっと多い。
ジーナが耳元で囁く。
「葵。現在総合干渉値、約19.4」
「また上がってる?」
「はい。
主に社会適応と感情耐性です」
葵は小さく笑う。
「戦ってないのに」
「交流による変化です」
葵は目を閉じる。
身体は疲れている。
頭も重い。
でも、不思議と眠れる。
隣では猫族が小さく寝息を立てている。
少し離れたところで、リオが静かに横になっている。
セラの羽音が、かすかに聞こえる。
葵は思った。
ここにいる誰も、強くなろうとしていない。
ただ一緒にいるだけ。
それなのに、何かが少しずつ変わっている。
その感覚だけを抱えたまま、葵は眠りに落ちた。




