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勇者が世界を救ったあと、僕は国を作ることにした  作者: あおいにじ
第二章:観測される側の論理
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計算できない集団

エルフ中枢演算塔。


都市の最奥、白い樹木を模した高層建築の内部で、無数の光線が交差していた。


天井から床まで張り巡らされた思考回路。


数百の予測モデルが同時に回り続けている。


中央制御室。


透明な卓の前に、上位エルフたちが立っていた。


彼らの視線は、空中に浮かぶ戦術再現ログに集中している。


外縁農業区画、魔族斥候遭遇記録。


通常なら、被害ゼロで終わる小規模案件。


だが再現映像は違っていた。


エルフ迎撃部隊が到着する前に、


非戦闘要員を含む即席集団が魔族を排除している。


しかも――


「……おかしい」


ひとりが呟く。


別のエルフが即座に応答する。


「はい。確率収束が破綻しています」


再生を止める。


フレーム単位で巻き戻す。


個体の動線。


反応速度。


衝突角度。


全て解析済み。


なのに結果が一致しない。


「この配置で勝率は14%。

それが実際は100%」


「偶然では説明不能」


「複数因子の同時乱れ」


上位エルフが指先を動かす。


新たなレイヤーが重なる。


感情変動ログ。


行動遅延ログ。


空間干渉ログ。


そこに、微細な揺らぎが映る。


ノイズ。


一瞬だけ。


「発生源は?」


即座に抽出。


一点に収束する。


映像の中央。


黒髪の少年。


葵。


「……来訪者」


上位エルフのひとりが低く言う。


「単体出力は低い。

しかし周辺の判断精度が落ちている」


別の者が続ける。


「彼を中心に、局所的に未来分岐が増加しています」


「演算不能域」


沈黙。


しばらくして、結論が出る。


「この集団は、計算できない」


それはエルフにとって、最大級の異常宣言だった。



同じ頃。


外縁区画の簡易休憩所。


葵は木製ベンチに座っていた。


肩に包帯。


猫族の一人が薬草を塗っている。


「ちょっと染みるよ」


「どうぞ」


リオは壁にもたれて水を飲んでいた。


顔色が悪い。


「大丈夫?」


葵が聞くと、リオは軽く頷く。


「少し集中しすぎた」


ジーナが淡々と補足する。


「リオ。認知処理過負荷が検出されています」


リオは苦笑する。


「エルフの悪い癖だ」


猫族が尻尾を揺らす。


「でも勝てた」


「勝った感じしないけどね」


葵は空を見上げる。


今日は勇者の光は見えない。


代わりに、雲が低い。


セラが静かに降りてくる。


「葵」


「なに?」


「エルフ上層が、あなたたちを再評価対象に指定しました」


葵は眉をひそめる。


「再評価?」


「はい。

現在のままでは、あなた方は“未定義存在”です」


リオが小さく笑う。


「要するに、邪魔」


セラは否定しない。


「排除か、分離か、再配置」


三択。


葵は頭を掻いた。


「いきなり重いな」


ジーナが小声で告げる。


「葵。あなたの存在によって、国家予測モデルに平均3.6%の誤差が生じています」


「3.6って、大したことある?」


「エルフ基準では、致命的です」


葵は息を吐く。


「……そっか」


リオは地面を見つめる。


「俺たち、まだ何もしてないのに」


葵はしばらく黙ってから言う。


「してないから、だと思う」


リオが顔を上げる。


「?」


葵は苦笑する。


「ちゃんとした役割がない集団って、怖いんだよ」


誰も反論できなかった。



その夜。


エルフ中枢から正式通知が届く。


簡潔な文面。


“来訪集団は、明朝までに都市部より離脱せよ”


理由は書かれていない。


セラが静かに言う。


「これは温情です」


葵は立ち上がる。


「追い出されるの、二回目か」


猫族が耳を伏せる。


リオは目を閉じる。


ジーナが淡々と記録する。


「葵。現在総合干渉値、約19。

戦闘単独能力は依然低水準」


葵は苦笑した。


「でも、みんなといると勝てるんだよな」


ジーナは少し間を置いて答える。


「はい。

それが異常です」


夜風が冷たかった。


葵は荷物を背負い直す。


猫族は小さく身を寄せ合っている。


リオは何も言わず、地面を見ていた。


ジーナが淡々と告げる。


「移動を推奨します」


葵は頷く。


歩き出しながら、ふと思う。


今日は、やけに長い一日だった。


それだけ。


遠くで雷鳴。


勇者は今日もどこかで戦っている。


葵は、ただ歩く。


理由も目的も決めないまま。



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