捻くれクリボッチの独り言
「あー……外行きたくねえ……」
俺は今、前代未聞の食糧難に直面していた。
冷蔵庫の中はすっからかん。いつも常備してるはずのカップ麺も無い。つまり、今日の飯を買いに行かなければいけない。
ウー○ーイーツという手もあるが、アレは無駄に金が掛かるから使いたくない。
いつもだったら素直にコンビニに行くところだが、今日はどうしても外に出たくない理由があった。
それは、今日という日付だ。
——12月24日。所謂、クリスマスイブってやつだ。
俺は筋金入りのクリスマスアンチだ。今年も安定のクリボッチ。21歳、彼女いない暦=年齢のフリーターに、出会いなんかある訳が無い。
だからこそ、街中がリア充で賑わうクリスマスが大嫌いだ。そんな日に外に出れば、ありとあらゆるリア充を目の当たりにして、俺のメンタルは確実に削られる。
去年は某フライドチキンのチェーン店でバイトしてたが、クリスマスは地獄だった。休めねえし、クソ忙しいし、スタッフは全員ピリピリしてる。おまけに、買いに来るのはカップルか子供連ればかり。
――つまり、リア充のオンパレードって訳だ。
リア充が大嫌いな俺は、正直ゲロが出そうだった。チキンを渡す度に、心の中で「油摂りすぎてメタボになりやがれ!!」って叫んで耐えていたが……もう二度と働くもんかと思って、結局飛んじまった。
だから今は、違う店でバイトしてる。
……そもそも、日本はキリスト教の国でもないだろ。仏教と神道が大半じゃねえか。
それなのに、イエスの誕生日を祝うわけでもなく、恋人がいないと人権が無くなる日みたいになりやがって。どうせクリスマスやるなら、ちゃんと本来の教義守れよ、コンチクショー。
俺は布団にダイブし、スマホを手に取った。無意識のうちにXを開いてしまうのは、もう完全にクセだ。
《クリスマス、クソスマス、糞済ます。》
……我ながら、しょーもない。
そう思いながら、そのまま投稿した。
すると、さっそくリプが来た。ユウトだ。
《お前、それ毎年言ってるじゃねえかw》
「……ふっ」
ユウトは、俺の数少ない親友だ。ヤツも、俺と同じフリーターだ。
《おーユウト。お前もクリボッチか》
《当たり前だろ。彼女なんかできるわけねーだろ》
そのリプを見て、少し安心した。だが、問題は次のリプだった。
《でもまあ、今年はど○ぶつの森やってるから、そこそこ充実してるぞ》
《……は?》
《クリスマスイベントがあってさ。住民にプレゼント配るんだ》
リプには、ゲームのスクショが添えらえていた。ユウトのアバターが笑顔でサンタの恰好をしている。
ユウトは、次から次へとスクショを送って来た。
「……っ!」
気付いたら、俺はスマホをぶん投げていた。……まさか、リア充どころかユウトにまでキレてしまう日が来るとは。
ユウトは、ただ趣味を楽しんでいるだけだ。
それ“だけ”なのに、趣味の無い俺には、少しだけ眩しく見えてしまった。
羨ましかった。
そして、そんな自分が惨めだった。
何より、ど○森に負けた気がして情けなかった。
「……しゃーねーな、買い出し行くか」
俺は渋々コートを羽織り、家を出た。
外に出ると、雨が降っていた。最寄りのファ◯マまで、徒歩10分。
……地味に遠い。変な立地だよな。
街はやっぱり、リア充で賑わっていた。カップルに限っては、相合傘なんかしてやがる。
家出た時は「クリスマスなのに雨wざまあwww」って思ったのに、これじゃあ完全に逆効果じゃねえか。
……にしても、多いな。カップル。バカップル。
だから外に出たくなかったんだよ。
この中には、こんな俺を見て優越感に浸ってるヤツもいるかもしれない。
まあ、それ自体は別にいい。
だが、そういうヤツに限って、本当は一人でいることにビビってるんじゃないか?世間体を気にして、無理に彼氏彼女を作って、“クリボッチじゃない自分”に酔ってるだけなんじゃねえのか?と思ってしまう。
……もっとも、こんなこと言ってる時点で、所詮はクリボッチの負け惜しみなんだけど。
「……バルス」
俺はリア充を横目に、誰にも聞かれないように呟いた。
ファ◯マに着くと、早速夕飯を選んだ。
まずはおにぎり。シャケにしよう。どっかの偉いヤツも、「クリスマスにはシャケを食え」って言ってたし。
それとファ◯チキ。俺の大好物だ。シャケを食おうが、これだけは外せない。
レジに並ぶと、店員は俺と同じくらいの年の男だった。感情を殺した顔で、淡々とレジを打っている。
……それだけなのに、なぜか去年の自分を重ねてしまった。
「ありがとうございました」
無機質な声が飛んでくる。
「……お疲れさん」
クリスマスはリア充が騒いでる日だが、こういう働いてるヤツらのおかげで成り立っている。だからこそ、縁の下で支えてるヤツの存在を忘れちゃいけないと思う。
誰かと一緒にいるヤツ。
働いているヤツ。
そして、俺みたいにボッチで捻くれてるヤツ。
クリスマスは“格差”をこれでもかと見せつけてくるクソみたいな日だが、同時に、頑張ってる人間への感謝を思い出させる日でもある。
そして、明日は俺が働く番だ。
本当、生き辛い世の中だよな。
そんな狂った“聖夜”とやらに、クリボッチの俺から——乾杯。
……来年は、もうちょっとマシなクリスマスになってますように。




