デジタル神様
小寺春樹一家は仕事の都合でこの静寂な地方都市に引っ越してきた。
以前暮らしていた場所とはあまり離れていないので、妻である私とプログラマーの長男翔太と次女で大学生の茉莉も一緒だ。一番年上に長女の美奈がいるが四年前に嫁いでここにはいない。
お正月、小寺家四人で初詣したとき、この地域を守っている神社について面白い噂を聞いた。
この神社は、願い事を叶えてくれる強力な神様がいらっしゃるそうだ。
一般的な御祈祷とは別に、神殿奥にデジタル神様がいらっしゃって願いを叶えてくださるらしい。
デジタル神様は、神殿備え付けのパソコンやスマホ内にいらっしゃって、その電子機器を通じて、個人が願い事を記入しデジタル神様あてに送信するだけでいいらしい。御祈祷の費用である初穂料も五万円するらしいが電子決済だ。
そうするとデジタル神様が御祈祷し続けてくださるらしく、早い場合は一か月、遅くても半年以内には願いを叶えてくださるらしい。一年たっても願いが叶わないこともあるらしいが、それはそれで仕方がない。
噂は単なる噂として聞き流していたが、一年近く住んでいるうちに、このデジタル神様に安産祈願や子授け祈願をして子宝に恵まれた人が本当にたくさんいるらしいと聞いた。
長女の美奈は結婚して五年近く経ってもまだ子どもが出来ない。
デジタル神様に子授け祈願をしてもらってはどうだろうと私と夫が話していると、翔太は、
「そんなことできるわけないだろう、願いが叶った人はたまたまタイミングがあっただけじゃないか。パソコンがどうやって願いを叶えてくれるんだよ。プログラムなんてソースコードを一文字間違えるだけでもうまく走らないのに、願いを書くだけで子どもができるなんてありえないよ」
と言う。
確かに願いを書いて送信するだけで、願いが叶うなんてことはありえないかもしれない。私もそう思っていた。が、それを言うなら一般的な御祈祷も同じではないか。
当人の長女はのんびりしているが、なんとしても、私は孫がほしい。
デジタル神様だろうが何だろうが、願いを叶えてくれるかもしれないのならどんなことでも試してみるつもりだ。
お正月、家族そろって神社に初詣する際に、デジタル神様に長女の子授け祈願をすることにした。長女は婚家でお正月を過ごすので、私たちと一緒にお参りはできないが、
「子授け祈願よろしくお願いします」
と言ってきた。
デジタル神様のいらっしゃるパソコンの前に夫、私、長男、次女の四人が座り、夫が恭しくキーボードで願い事を打った。
「小寺春樹の一家がここに揃いました。五年前に結婚した長女・美奈にどうぞ子どもを授けてください。よろしくお願いいたします」
反対していた翔太も一緒に四人頭をたれ、指定された金額をピロローンと電子決済した。
その後、三か月経っても半年経っても、美奈からうれしい報告はなかった。
あきらめていたころ、次女の茉莉の様子がおかしいことに気が付いた。
微妙に太ってきている。ここしばらく外泊が続いていたが…。
問い詰めると、泣きながら、結婚できない人との子どもがおなかに宿っていると白状した。
なぜ茉莉が……?
はっと気が付いた。
お参りしたとき、デジタル神様の前にいたのは茉莉。この地域に引っ越してきた時、もうすでに美奈は小寺一家の中にはいなかった。デジタル神様は茉莉を長女だと認識したのだ。
まさか、本当にデジタル神様が子どもを授けてくださるとは……。ただ、パソコンを通じての願い事(命令)が適切でなかったからこんなことに……。
ごめんね、美奈、茉莉。
本当にごめんなさい。




