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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ギロチンカッター

作者: 聖殿 悪夢
掲載日:2025/11/03

マリーアントワネットに憧れた女の子。



この話はいつから始まったかと言うと、おおよそ2年前くらいからであって、最近とも言えるわけでもないが昔とまではいかないであろう。

なかなか上手く仕事が見つからない私は、適当に探して受かったアルバイトから帰る。

新卒と言っても、これ程上手く行かないとは。

友人のA花は、中卒、高卒認定を最近貰ったばかりだというのにもうそこそこ安定した職に着けているではないか。

世の中、不平等極まりないもので、私と言えばせっせと学生のうちからアルバイトと学問を両立させたというのに、とある事情によって全く台無しになった、また初め、スタートラインからやり直しだ。


そんなこんな、どうしようもない事を今まで幾何回したか分からない考えを今日もぐるぐると考え詰めながら、答えは【どうしようもない】と言った風で、ただの思考の無駄と時間の無駄と、肉体への疲労となった。

「あ、おかえりなさい」

無駄な思考しか出来ない、アルバイトで疲れきった私を迎えるのは同居人であり"婚約者"である男だ。

男は私の様子を見てとったように分かりきっているようだ。

「あぁ、ただいま。

今からご飯にしよう」

男を抱き抱えるなり、長方形のアンティーク調の白のテーブルが置いてあるところへと向かう。

狭い古いアパートなので、1kしかなく、直ぐに到着するなり私は男をテーブルの上に下ろす。

そして冷蔵庫、その隣にある棚から昨日の作り置きの福神漬けやら、レトルトカレーやなんやらを適当に取り出し、そのまま向かって今度は左にあるレンジにコンセントを刺した。

その間、なにやら男は色々と1人、私に向かって喋っている。

男はとても軽い…僅か5kgくらいしかないので、ご飯の量だって少なくて済む、が、昼間は生憎私がアルバイトの為、朝と晩2回に分けている。

その為、昼の分が夜にやってくる。

丁度成人女性…つまり私のような女性が食べる分で足りるわけだ。

なんせ生首なのだから、首から下は何にもない。【喋る生きた顔だけ人間】とでも言ったら分かりやすいだろうか?

んむ、あまり上手く言い表せていないな、兎にも角にも"首から下がない頭だけ"なのだ。

まだ30になったばかりで、顔は若々しく、首だけ人間というのが勿体ないくらいとても端正な顔立ちをしている。

「…ふむ、少し髪が伸びたかしら」

「くくってくれないと、昼間寝てる間、寝返りをうつと絡まってしまう。

だから、少し切ってほしい」

「はぁい。」

レンジから温まったカレーを取り出すと、それを彼の皿に入れ、スプーンで救い食べさせる。

右手に酒を持ちながら。

「少しやめたら?

いつも君は酒ばかり飲んでいるよね」

「あんまりお腹好かないからね。

しかも安いのだったら一食あたりよりも酒1缶のほうが安い!」

彼はやや呆れたようだ。

私は気にもとめずカレーを彼の口に運ぶ。

腸が無くてどうやって消化しているのだろう?

胃も無くて??

「ところで、見つかった?

職場は」

「いいや、全く。

1日潰してハローワークに行くのなら、パートを2個掛け持ちにしたほうがいいからね」

「ふぅん…」

食べ終わったのを見るや、彼の食器をフラフラと酔いが回った私が片付けた。

あまり"現実を見たくない"のか、ストレス発散か。

酒の役目は分からない。

しかしちゃんと分かることだってあるのだ、酒を飲めば福神漬けだけでも、少し食べたらお腹が満たされる。それは金銭的にもダイエットにも効果的。

「相変わらず妥協しないで、生活費を削ってまでも高いものばかり使うね。

流石お嬢様趣味」

そそくさと食事を終えた私たちは風呂場へと向かう、時間がないのだ。

時刻は9時を越すか越さないか。

男は勿論生首人間なので、誤って溺れないようにと桶に入れて、湯船に浸かる。

裸の付き合いも慣れようだ、今じゃ性欲なんぞないのである。

いや、仮に生首に性欲があったにしろ、首から下が無ければ処理など出来ないか。

ふと意地悪にからかって見たくなるが、時間がない。

湯船に浸かりながらも男は首がちょっきん、断片が丸見えだから変に長風呂をし、ふやかしでもしたらどうなるか知れやしない。

湯船に浸かりながらも、男が入った桶をバスタブの縁に置き、ささと髪や顔を洗う私。

そしてその間私は湯船に浸かりながらなのだから、十分に暖まれる。

効率的だろう。

シャンプーの薔薇の匂いがちゃんと風呂全体を包漂う。

彼の顔の手入れもちゃんとしつつ、洗顔もする。

「体がない分洗うのが楽」

2年前、高校を卒業する間近に知り合った彼、男は突然生首人間となった。

首から下をノコギリかチェンソーで生きたまま、麻酔もなしに切られたらしい。

(彼曰く、その首だけにさせた犯人は未だに見つからないらしい。)

顔だけが取り柄の人間だもんだから、かえって生首人間になったのは良かったのかも。

そうすればまだペットのように、或いは人形のように私の思うままだ。

「なら、YouTubeでも見よう。

テレビはあまり好きじゃないし。」

風呂を出たら、髪を乾かしながら2人で動画を見たりしたりする。

いつの間にかブームのさった、昔人気だったYouTuberを、全盛期の動画を、忘れた頃にまた、気の向くままに見る。

逆に彼はテレビがみたいようだが、テレビに掛ける費用などないし、全ての決定権は私にあり。

「次、給料日なったらこれを買おう」

もう1つある私のスマホで、アンティーク調の家具や雑貨、更に貴族趣味な服を見たりする。

「あぁ、安心してね。

身体がない貴方には何かアクセサリーを買ってあげる、無論趣味の良い奴だけれど」

ぼろアパートの中は、かえって高級感がある。

アンティーク調の家具で全て包まれている。

外見は良くて、中身の悪い男。

外見が悪くて、中身は良い男。

後者は、ちゃんと芸術性がある。

「もうそろそろ寝なよ。

明日も朝から仕事あるんでしょう」

「あはは、うん、でも無理してでも今は遊んでいたい」

無邪気に笑った。

桃色のクラシカルな形をしたフレームのベッドに、私は彼を胸辺りに持って横たわりながら、ただずっと笑っている。

昼間、朝の間は私は"一般人"で良いのだ。

社会の奴隷で居てもいい、夜にいつか遥か昔に消えたお嬢様でいれば、なんでも良い。

綺麗な贅沢な生活は直ぐに終わる。

かのマリー・アントワ・ネットだって最後はギロチンにかけられた。

儚いし、私はこの貴族的な生活を続けていたいし落ちぶれたくはないのだが、運命は残酷なのが当たり前で、何時しか華やか時間は急に打ち切られる。

あ、マリーアントワネットで思い出した。

「ギロチン、ギロチンだ!」

あははとまた大きく涙を零しながら笑い転げる私。

その反動で彼は私の肘がぶつかったらしい。

「痛い…」

「ごめんねぇ」

少々話が脱線した。

否、話は運命的に戻ってきた。

生と死は直結している、レールは途切れず、円になっており始まりも無ければ終わりもない、無限ループである。

彼でさえ、かつて人間らしい生活を出来るのは夜の間、私といる時でしかない。

後はただ、昼と朝はただの生首。

1人では生活も出来ない生首。

「今日は、何を話す?」

「えぇと、何を話そうとしたんだっけ」

彼も彼なりに生首だけであれ、私を愛しているのだろう。

忙しない1日の中で貴重な夢のような時間に、私とする会話をなにやら練っているらしい。

「じゃあ、今度の紅茶、キャンディにしない?」

「キャンディ?初めて聞いた、何それ?」

男は急に顔に微笑みを浮かべながら、優しい口調で続ける。

「ギロチン…

マリーアントワネットが愛飲したっていう有名な紅茶だよ。

他の貴族からも人気が高かったんだって、当時は」

私は急に真面目な顔になる、話に興味が湧いたようだ、詳しく、と続きを胸の中にいる生首の彼に要求する。

「君にはキャンディが必要だよ。

高貴な君には、ね。

まだ僕の口座に金は残っていたろう?

それで明日にでも買っておいで。」

「ふぅん…調べても、あんまり出てこないけれど、キャンディなんて紅茶が、好まれていたなんて…

そんな高貴な…

お菓子みたい。」

生首男は優しく笑った。

私は正直、あまり納得がいかない。

そんな紅茶の種類はほとんど全て調べ尽くしたハズ、そんなものを見逃すはずはない、と。

「君は外見だけを見て中身をなかなか見ないんだよ。

この前新しく買った椅子だって、確かに見た目も売り文句も言いけれど、世界史をもっと深く探れば、あれよりも僕が勧めた椅子の方が本場のヨーロッパではそれこそ昔貴族達の屋敷で使われていた椅子なんだよ、ね?」

中身なんて、正直どうだっていい。

外見さえ良ければ、いくらでも"擬態"出来るのだから。

庶民にだってそれはぱっと分かる。

然し、男は続けて言う。

「兎に角、君にはキャンディを飲まなくちゃ。

僕は飲むもの、買うもの、その他色んなものを与えるだけだよ…」

私が生活費を全て払っているのに?と疑問を持つ。

与えるとはどれのことだろう?

身体がないのに。

「そうそう、この前僕にくれた花、あのアイビーね。

また今度花交換をしようよ」

ベッドの真向かいの窓あたりに飾っている少し部屋の雰囲気に似合わないアイビーを目で指して彼は言う。

「君はアイビーを僕に頂戴ね。

僕は立浪草を送るから」

何時しか彼の方が、落ち着いてはいるものの、少々夢見がちな調子になってきた。

「うん、いつもそればかりね。

いいけれど」

「ピンクのエゾギクのほうが良かったら、それでも。」

「なら、ピンクのほうがいいや。

ピンクは好きだし」

「なら、そうしよう。

やっぱり君にはキャンディが似合うよ

キャンディをあげる。」

そう?ありがとう、と分からないなりに返事をする私は流石に彼の長ったらしい話題に飽きてしまい、彼の頭を思いっきり抱きしめて、半ば強制的に次の話題に移った。


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