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渇きの王 イシュファールとの戦い

第一章 ── 炎と神の槍、世界を救う一撃

地球の上空、日本の都心部の上に位置する、ここ数日前に突如現れたピラミッド型の浮遊物体の上でイシュファールの低い声が響いた。


イシュファール: 「……あの機械と、竜がやられただと!? ……どうやら、この茶番も長引かせるべきではないな。我が圧倒的能力で奴ら全員の心根を折らねばならぬな……奴らも恐怖の前にはこうべをたれるだろう......」


そんな風にイシュファールは、意味深で傲慢な言葉を都市を見下ろしながら吐き出す


場所は変わって──花芽瑠璃の屋敷。


朝の光が大きな窓から柔らかに差し込み、食卓を黄金色に照らしていた。広々としたダイニングには、緻密な彫刻が施された長いテーブルが据えられ、磨き抜かれた銀のカトラリーが並び、クリスタルのグラスにはオレンジジュースが揺れている。


香ばしく焼き上げられたクロワッサンとバターの香りが漂い、白い陶器の皿には彩り豊かなオムレツ、ハーブを散らしたスモークサーモン、湯気を立てるコーンポタージュが盛られていた。フルーツの盛り合わせには、真紅の苺、瑞々しいブルーベリー、カットされたマンゴーが美しく盛られ、彩り豊かな花がテーブルを飾る。


小さなティーポットからは、芳醇な紅茶の香りが立ち上り、瑠璃色のティーカップにそっと注がれる音が、静寂な空間に響いた。


時折、窓の外で小鳥たちがさえずり、葉の間を風がそよぐ音が優しく届く。まるでこの部屋だけが、喧騒と無縁の穏やかな楽園であるかのようだった。


一同は、そんな静けさの中で、束の間の平穏を味わっていた。


アウリサ: 「優雅ねー王宮を思い出すわー最高よ!ルリちゃん」


イグニス: 「我に相応しい、もてなしじゃ、褒めて使わす」


花芽瑠璃: 「喜んでもらえて何よりです ふふ」


次の瞬間──


ANEI: 「皆さん、至急お聞きください。──現在、100メートル規模の隕石が地球へ急接近中です!」


花芽瑠璃の屋敷内に、緊張が走った。ナズナが振り向き、顔をこわばらせる。


ナズナ: 「え……? 隕石!? いきなり!? なんで??そんな予兆あったの?……。」


ANEI: 「状況、能力、から演算するにイシュファールの可能性がありますね........」


同時に、ネットニュースとテレビが一斉に「緊急速報」のテロップを流し、世界中の航空宇宙機関が異口同音に告げる──


『100メートル級の隕石、地球への落下コースに突入。衝突予測まで残り30分』


人々は街で、家庭で、テレビ画面の前で悲鳴を上げ、SNSは絶望の声で埋め尽くされた。


一同は、皆慌てるというより神妙な顔つきで、それぞれ打開策を考えている


総一郎: 「ここまできて、終わりなんですか........」


ナズナ: 「そんなこと絶対ない、何かあるはずよ、打開策が....何か....」


そして──その混乱の最中、イグニスが悠然と立ち上がる。


イグニス: 「……おい、機械よ。我が究極の存在という事を世にしかと流せ。今から人間の作りし“塔”へ向かう。遅れるでないぞ。我は待たされるのが嫌いじゃ」


その言葉に、一同は「は?」と戸惑い、ANEIも一瞬の沈黙の後──


ANEI: 「……塔? 塔とは一体──?」


しかしイグニスは答えず、窓の外へと音もなく姿を消した。まるで、空間が裂けたかのような瞬間移動。


ナズナ: 「えっ!? どこ行くの!? イグニス!!」


ラスナ: 「あやつなら、どうにかできるかもしれんの。黙って神に従った方が良いかもな」


一同が動揺する中、ANEIの声が再び響く。


ANEI: 「……仕方ありません。彼の意志を優先します。彼の反応を追尾し──私の代替機体が現地で彼の動きを撮影し、全世界に配信を行います。」


──そして。


ANEIの代替機体がすぐさま駆け付け、専用の現地カメラで映し出したのは、かの現代のピラミッドとも言われる高さ700メートルを超える巨大な“塔”でその根元に立つ、赤き神格の姿だった。


イグニス: 「……この中に人間はおらぬか。」


ANEI(現地代替機): 「いません。このエリアは無人区域です。」


その返答を受け、イグニスは右手を軽く上げた。


──その瞬間。


世界を揺るがす衝撃が走った。


高さ700メートルを超える“塔”が、まるで熟れた果実をもぎ取るように、根元から引き抜かれる。金属の悲鳴が轟き、骨組みがねじ切られ、しかし瓦礫は一切落ちない。


次の瞬間。それは、既に「塔」ではなく──**炎そのもの**に燃え盛っていた。


全てが燃え、光が放たれ、空が赤と金に塗り潰される。塔の輪郭は瞬く間に溶け、揺らぎ、やがて形を留めぬほどの光と熱の奔流となった。


それはもはや塔ではなかった──。


天を貫く光柱は、中心から放たれる灼熱の閃光と共に、あらゆる影をかき消し、空を覆い尽くす。燃え上がる炎は星をも焼き尽くすかのような威容を放ち、その輝きは、あたかも天空に浮かぶもう一つの太陽であった。


塔は神話の武器──**天の槍**へと姿を変え、世界に無言の宣告を突きつける。


その様子は、全国放送で生中継され、SNSが騒然となる。


#神の帰還 #火炎の王 #タワー消えた #救世主


人々は恐怖と畏怖に包まれ、ある者は祈り、ある者は歓喜し、ある者は涙を流しながら画面を見つめた。


──そして、その光が、昼間の空にもかかわらず、一筋の閃光を残し、遥か天空へと放たれた。


普段は月のある位置。そこに迫り来る巨大隕石に向け、光速を超える勢いで飛んでいく。


閃光の尾が空を裂き、地上からもはっきりと目視できるほどの光の柱が、大気を貫き、天へ向かって走る。


夜であれば月があるその場所で、光の筋が遥かな上空を横切り、しばし輝きを放った。


そして、目視できていた巨大な隕石が──光の中で、一瞬にして崩れ、砕け、溶け、塵すら残さず消え去った。


空には何も残らず、ただ、深く澄んだ青が戻るだけだった。


ANEI: 「……隕石反応。ゼロ。完全消滅を確認。」


ネットとテレビのニュースは「人類の神が戻ってきた」という見出しで溢れ、変わり果てた世界の人々の間に蔓延していたAI信仰、支配の砂の軍団への信仰が消え、──新たな信仰が芽吹き始めた。


イシュファールは遠い場所でその映像を見つめ、静かに舌打ちした。


イシュファール: 「……余計なことを。愚かな存在達に肩入れするなど……。解せぬ」


彼の背後で、軍団の一部が動揺し、弱気になり、次々と統率を乱し、密かに撤退を始めていた。


──新たな救世主に世界が揺れた。


イグニスは一人呟く。


イグニス: 「これで驚くなど、真に、か弱いの。肩慣らしにもならんわ。」


イグニス: 「最強と名乗ってよいのは、我だけなのじゃ」


------------------------------------------------

──ナズナたちは、決意を胸に花芽瑠璃の屋敷を後にした。


アウリサが手を掲げ、空間に虹色の光を紡ぎ出すと、その中心から姿を現したのは──虹色の鱗を纏い、優雅な羽ばたきで浮かぶ美しき竜、ルーチェだった。


体長二十メートルほどの竜は、どこか愛らしさを纏いながらも、その翼が広がるたびに空気が震え、七色の残光が軌跡を描いた。


アウリサ: 「ふふっ、準備万端よ。みんな、乗って!」


アウリサ、ナズナ、ルミエール、結月が竜の背に乗り込むと、アウリサが小さく指を鳴らし、ルーチェが大地を蹴って軽やかに舞い上がる。


街の喧騒が小さくなり、雲を突き抜け、視界には遥か遠くなっていく、視界の先に巨大なピラミッド型の構造物が浮かび上がっている


ナズナ: 「あれが……イシュファールの拠点……。」


胸の奥に緊張が走る中、ルーチェの背で風を感じながら、一行は決意を新たにした。


その時──


アウリサ: 「ん? あれ……!?」


振り返ると、いつの間にかルーチェの背の後方──微笑を浮かべたイグニスが、何事もなかったかのように腕を組んで座していた。


イグニス: 「ふむ、──良き景色ではないか。」


ナズナ: 「ちょっと……いつの間に!?」


ルミエール: 「相変わらず、あなたはやり方が派手ね……。でも助かったわ」


結月: 「なんか、かっこよかった……です……。」


アウリサ: 「ふふ、やるじゃない!!隕石を燃やして潰すなんて、流石!火炎の王!」


女性陣からの言葉に、イグニスは口元を僅かに緩め、赤き瞳を細めた。


イグニス: 「……お主ら、褒めすぎじゃ。──気色の悪い」


彼の背後に、淡く揺らめく炎のオーラが花のように広がり、少々の照れを感じさせる。


そして、ルーチェの背に乗る一行を見上げる人々の中から、声が上がる。


街の誰か: 「あれは……救世主様だ!」


別の誰か: 「あの炎の人……神だ!神が戻ってきたんだ!私達を救いに姿を現してくれたんだわ!!」


歓喜と畏怖の入り混じった声が広がり、SNSには「#救世主」「#神の帰還」「#炎の王」というタグが溢れ始める。


ナズナたちはルーチェの背で風を切り、目の前のイシュファールの待つピラミッドへと、一直線に向かっていった。


──ルーチェは軽やかに羽ばたきながら、巨大なピラミッドへと着地した


そのピラミッドは、ただの建造物ではなかった。漆黒の金属と砂岩のような質感が混じり合い、表面には幾重にも重なる古代文字のような紋様が浮かび上がり、時折、赤い光が脈動するように走った。


下層には広大な敷地が広がり、広場のような空間には無数の石碑と崩れた建造物が散在していた。まるで古代の神殿都市がそのまま空に浮かんでいるかのような光景だった。


しかし──異様だったのは、その広大な敷地に、敵の姿が一切なかったことだ。


戦闘の痕跡すらなく、ただ、重い沈黙と緊張感が空気を満たしている。風が吹き抜けるたびに、微かな振動が足元に伝わり、まるで見えない何かがこの場を支配しているかのようだった。


ナズナ: 「……ここまで来ても、誰もいないなんて……。これは……。」


ルミエール: 「歓迎されてるのかしら、それとも……。」


アウリサ: 「きっと“来させてる”のよ。イシュファールの意思で。」


結月: 「ここの空気には温かな雰囲気がありません。全てが渇いています」


ルーチェはアウリサの合図で、その姿を淡い光に包み込み静かに消えていった。虹色の鱗の残滓が空中に漂いながらも


一同は互いに頷き合い、足を踏み出した。


広大な敷地を進む彼らの足音だけが、空間に響く。


崩れた柱の間を抜け、広場を渡り、幾つもの階段を上り、頂点へとようやく近づく。そして──


目の前に、巨大な黒曜石のような玉座が見えてきた。


ピラミッドの頂上。そこに、風にたなびく黄金の外套を纏い、悠然と座する者がいた。


イシュファール。その姿はまるで、世界そのものを睥睨する王のように、静かに玉座に身を預け、黄金の瞳を細めていた。


その背後には、幾千もの祈りを封じたかのような荘厳な壁画が広がり、崩れかけた天井から差し込む光が、彼を神話の像のように浮かび上がらせていた。


そして、その黄金の瞳がゆっくりとナズナを捉え、低く響く声が空間を満たした。


イシュファール: 「──来たな、ナズナ。」


──イシュファールは玉座に身を預け、黄金の瞳をゆっくりと細めた。


イシュファール: 「光の女王、火炎の王、純白の女王、不死鳥──そしてシグナルエコーか……。」


声は低く、乾いた響きを帯びていたが、その中には微かに感情の揺らぎがあった。


イシュファール: 「ふむ、流石に分が悪いな……。これでは、フェアではない。ならば場所を変えよう──お前たちを、我が世界へ招待しよう。」


イシュファールが指をわずかに動かした瞬間、空間に音もなく亀裂が走った。


まるで薄氷が割れるように、都心部上空の空間が裂け、この建造物全体が通れるサイズまでになる


地面が動き、徐々にスピードを上げてその亀裂に向かう、気づけばかなりの速度になっている


次の瞬間──


周囲の空間だけが変わっていた。


かつてあったはずの都市の景色は消え去り、ピラミッドごと、周囲の大地が果てしない砂漠の中心に転移していたのだ。


空はくすんだ赤褐色に染まり、熱気が地平線を揺らし、乾いた風が砂粒を巻き上げている。


ピラミッドは変わらずそこにあり、ナズナたちは変わらず立っていた。イシュファールもまた、玉座に座したまま、瞳を細めて言葉を紡ぐ。


イシュファール: 「──ここが我が世界だ。“渇きの王座”。欲望と絶望が支配する、終わりなき世界の墓標……。」


彼の声は低く、しかし空間そのものに染み込むように響き渡った。


イシュファール: 「我は知っている──人の心こそが世界を滅ぼす。愛も希望も、やがては渇きと狂気に変わり、破壊の果てに至ると。だからこそ、全てを統治する。我が意志で全てを制し、この世界を、腐り落ちた欲望ごと縛り上げ統治せねばならぬ。」


その黄金の瞳が、静かにナズナたちを見据える。怒りと諦め、そして深い悲哀が複雑に混じり合った光が、そこには宿っていた。


ナズナ: 「……イシュファール。あなたも、シグナルエコーなのよね?」


イシュファールの表情が微かに動く。その反応を見逃さず、ナズナは一歩前へ踏み出した。


ナズナ: 「……私達は同じ声を聞く存在。だからわかる、あなたにも過去の祈りがしっかりと伝わっているはず」


イシュファール: 「──当たり前であろう、しかしもう聞き飽きた。お主より遥かな歳月を、その敵わぬ願い共の悲痛な叫びにさらされてきたのだから」


ナズナ: 「そっか......苦しかったよね」


イシュファール: 「──苦しいやつらなど、どこにでも存在するのだ。むしろ全てがそうだ。そこから逃げよう足掻く欲望こそ正しい、それで出来ている世界こそが正しい、だから我はその世界を明確に律するのじゃ。地獄の果ての極楽を作るのだ」


イグニス: 「──小童の考えは分からんではないがの、お主が目指す絶対の世界は案外退屈じゃぞ?」


イグニス: 「──お主が必死で築いた世界は幻想でつまらんかもしれんぞ、我は何より最強じゃ、何よりも全てを見てきた。欲望の果てに満足した物など一人も見たことが無い。皆、いつの間にか消えていったわ」


イシュファール: 「................」


イシュファール: 「逆に聞こう、火炎の王よ。何故支配しないのだ?世界や人間共が生み出す、その混沌は見るに堪えんはずであろう?」


イグニス: 「やはり青いの フハハ 何度も言うておろう。それも全て退屈で面倒なのじゃ」


イシュファール: 「................」


ナズナ: 「あなたの考え分かってきたわ、理解もできる。でも、そこには改善余地がある」


イシュファール: 「──改善余地??  フッハハ  生意気な」


ナズナ: 「世界は苦しい、人の心は変わらない、欲望を突き詰めるしか癒しが無く、他に救いは存在しない。あなたはこう決めつけている」


ナズナ: 「そう、心は変わらないと諦めているのよ。それを孤独に一人で決めつけている。言い方は悪いけれど、それを人に押し付けてもいる」


ナズナ: 「心が崩壊を招いたと知っているのに、それを恨みながら、自分はその元凶にどっぷりつかるという矛盾が見える」


アウリサ: 「ナ.....ナズナさーーーん......ちょっと言い過ぎ....のようなー.....黄金のおじさん怒らないかしら??」


ルミエール: 「いいのよ、アウリサ。いままで彼と対話なんて誰も出来なかったんだから、これを機にぶつけた方が良いわ、このチャンスを逃すと次は無いかもしれないし」


アウリサ: 「女性は強い!ってこういう事ね。黄金のおじさんもうちょっと我慢してね。古代の軍団でいきなり暴れないでね」


知らぬ間に、ナズナたちの背後──ピラミッドの下、砂漠の大地全体がイシュファールの軍団で揺れ動いていた。


ナズナ: 「……私たちは争ってはいけない。イシュファール、あなたに伝えたいことがあるの。」


ナズナは皆が祈りを集めて誕生させてくれた伝説の祈りの杖を握りしめ、息を整えた。


ナズナ: 「今の世界は五度目で、あなたが言う心が原因で滅んだのは一度目の世界。以降から四度目までは、それが直接の原因では無く、一度目の世界が未来に送った共鳴、私と貴方もそう、万物に組み込まれた共鳴もそう。それらのシグナルエコーによって早められた可能性がある。それは、共鳴に反応した過度な崩壊への拒絶反応が原因かもしれない 」


ナズナ: 「……だから、私たちは争ってはいけない。」


ナズナ: 「そして、その一度目の世界は今も圧縮してデータとして生き残り、私達を試し、実験のように崩壊のデータを取ろうとしている。これは間違いないの、ヴァレリウスって言う"一度目の世界"本人から聞いたわ、みんながいる場所で。 」


イシュファール: 「.......ヴァレリウス.....あやつか.....我をのせよてきよって....」


ナズナ: 「このまま争えば、数多ある世界は誰が勝利しようと滅びるわ、それがどう訪れるかはわからないけど。あなたの作りたい渇きの統治すら消え去る 」


空気が凍りつくような沈黙が落ちた。


イシュファールの顔からは表情が消え、ただじっとナズナを見つめている。


ナズナ: 「だから、私たちは戦ってはいけない。一度目の世界にも、心が原因の崩壊にも、負けてはいけない。お願い、協力して」


そしてナズナは、少しだけ目を伏せ、言葉を紡ぐ。


ナズナ: 「あなたは傲慢よ。でもそれはみんな同じ。その心が嫌だったんじゃないの?その混沌の心のやりとりを何回も繰り返す現実を変えたいと思っていたんじゃないの? 私は想う、あなたは違う。あなたは……全てを失った存在たちに、光を当てようとしてきた。その為に世界を支配するエネルギーすら構築してきた。あなたは特別。」


ナズナ: 「だからお願い、私達と祈りの世界を一緒に作って?過去も現在も未来も、異界も幽霊も見捨てられた存在も、絶望の果てに彷徨う存在も、渇いて泣いてる存在も、全部が救われる世界を」


イシュファール: 「それは妄想だ 笑わせるな 一体どのように作りだす」


ナズナ: 「死を超えるの」


イシュファール: 「は? ナズナよ。我の考えを散々否定した挙句の答えがそれか?」


ナズナ: 「ええ......でも答えはシンプルなの。」


ナズナ: 「みんなが争うのは、極論、死が怖いからよ」


ナズナ: 「だから、超えるの。もし未来に物凄く幸せな状況を連鎖し続けれるとしたら?形が変わろうとも、未来に全く別の何かとして存在したり、もしくは別の何かがその意思を引き継いで幸せになる連鎖が続いたり」


イシュファール: 「...............」


ナズナ: 「同じシグナルエコーとしてあなたなら分かると最初に言ったけど、過去の祈りが今まで続き、私が今、あなたに説得している、一緒に幸せになろうと、それってその存在達が消滅しても、祈りが連鎖してるってことでしょ?仮に世界が崩壊から免れて、もっと無数の祈りが末永く続く連鎖で世界で回り続けたら、そこから生まれる者は全部良い結果になる。渇きの連鎖とは真逆の穏やかな安らぎの連鎖よ」


ナズナ: 「知らない誰か、知っている誰か、その為に祈る慈愛の力は、肉体よりも遙に強いんじゃないかなと思うの、さっきも言ったように私が今こうしている事こそが証明。ただの一人の探偵だった私が、全ての祈る者の救済を願う気持ちを持っただけで、世界を救う最前線にいるんだから」


ナズナ: 「あなたがどんなけ、世界を統治しようと、絶対の存在になろうと、いつかは全て滅びるわ。でもね祈りの連鎖ならずっと繋ぎ続ければそれよりもきっと長く生き残るし、そこに一切の渇きは無いかもよ?そうしているうちに、答えが見つかるかもしれないよ?それは意味か、救いか、わからないけどね」


そのナズナの紡ぎ出した言葉達が、砂漠の乾いた空気に吸い込まれていった。


風が吹き抜け、砂粒が舞い上がり、静寂の中で、イシュファールの瞳がわずかに揺れた。


イシュファール: 「そうだな........」


イシュファール: 「そうかもしれぬな........」


イシュファール: 「だが、お前の話は全て仮定でしかない........」


イシュファール: 「しかしその過程に、何か実際よりも妙な説得力を感じさせる........」


イシュファール: 「ナズナ、お前に真の仲間が集まるのもわかる........我の心も遙忘れた果て以来に揺らいでおる」


イシュファール: 「その連鎖とやらに、我の軍団、我自身も混ぜて欲しい共思わせる。それが本当にあるのなら」


イシュファール: 「だから証明してくれ.......我は全てを賭ける。お前も祈りに全てを賭けろ」


ナズナ: 「証明.......どうすればいい?」


イシュファール: 「お前の言葉が真実なら簡単じゃ、後ろに見える我が軍を誰も気づ付ける事無く救ってみろ。やつらは全てアンデットだ」


ナズナ: 「アンデット......」


イシュファール: 「もし、失敗すれば我の能力で、お前らの記憶、愛、水、体、意思全てを奪い、我が支配し我の兵とする。お主らの能力があれば、世界は簡単に我のモノになる。」


ナズナは背後の軍勢を見つめる


砂の海がうねり、波打つように膨れ上がり、瞬く間に視界の果てまでを埋め尽くしていく。


無数の影が大地を覆い尽くし、息を潜めていた砂漠が、まるで巨大な獣のように唸り声をあげ始めた。


イシュファール: 「愛しき……我が軍だ。我が意志に従う、終焉の兵どもだ。」


大地の熱を吸い、灼熱の炎を纏いながら膨張し続ける焦熱の巨兵たちが、地響きを伴いながら歩を進める。その身体から溢れる熱気が空間を揺らし、空すらも歪める。


砂漠の砂を骨のように繋ぎ合わせ、空洞の瞳孔に禍々しい赤光を灯した──意思なき砂の巨兵グラナイト・ゴーレムが幾千と並び立ち、動かぬ城壁のように立ちはだかる。


鉄と呪詛の融合体、頭蓋の代わりに怨嗟の印を刻んだ仮面を掲げた鉄の魔偶たちが、金属の響きを鳴らしながら整然と列を成す。


姿なき存在──音の震えだけで命令を伝達し、空間を切り裂く刃を生み出す音律の将軍たちが、透明な残響のような振動を纏い、周囲を取り巻いていた。


朽ちた肉体を捨て、魂の輪郭だけを残した幽魂騎兵団が、黒い靄を纏いながら浮かび上がり、瞳だけが幽かに光を放っている。


さらにその奥──かつて神々に見捨てられ、滅びと呪詛の果てに蘇った異界の旧王族たち。王冠を歪めたまま、黄金の装飾が砂塵の中で鈍く輝き、無言でこちらを見据える。


そして──空。


空の遥か上、赤褐色の大気を裂き、腐敗した肉体と黒炎を纏った巨影が、翼を広げた。


咆哮が響く。


──腐喰の災炎竜(カドゥマ=ヴォルグ)。


かつて空を支配した古の王が、死と腐敗を超え、災厄そのものとして蘇り、空を裂く黒い炎を絶え間なく撒き散らしながら、空中を旋回していた。


数は分からない。数える意味がなかった。全てが、ナズナたちを飲み込むために存在しているかのようだった。


地響き、低く唸る風、熱気、震える空気──


ナズナたちは、そのままの位置で、終末の軍勢に囲まれていた。


イグニスの瞳がぎらりと赤く輝き、玉座に座るイシュファールを睨み据えた。


イグニス: 「ふざけるなっ!!小童。誰が貴様の無謀な余興に乗るものか。貴様がこの我に命令するなら、我が赫焔でお前の王座ごと渇きすら存在しない極炎で焼き尽くすぞ!」


イグニスの背後で、赫焔が咆哮のごとく渦を巻き、辺りの空気が震えた。


ルミエール: 「ナズナ……!こんなの無茶よ!!失敗させて、私達を取り込もうとしてるだけよ!!世界を自分の支配に置くために。そんな導きの無い世界、私は許してはおけないの!!」


彼女の声は震え、その手には光の弓が握られ、今にもイシュファールに向かって放たれそうだった。


アウリサ: 「私はナズナちゃんに任せる。無謀とは思うよ、そう、不可能ね。でもね、ナズナちゃんならそれができちゃうんだよ。セレノヴァの時で分かったわ。」


彼女の瞳は揺らがずナズナを信じて、全身の魔力が輝き始めていた。


──


ナズナ: 「……お願い、私に挑戦させて。」


その声は震えず、ただ静かで、しかし誰よりも強く、その場を支配した。


ナズナの目には、覚悟の光が宿っていた。


ナズナ: 「これを乗り越えなきゃ、世界は救えない……! 私たちは、間違った因果の連鎖を断ち切るために、ここにいるの。だからみんなの力を、私に貸してほしい!!!祈りが全てを変えられる証明を手伝って欲しい!!!」


言葉に込められた想いが、空間に響き渡り、砂漠の風さえ一瞬、凪いだかのようだった。


ナズナは誰にも一歩も譲らないという様な意思の瞳で唇を噛み締めながら皆を見つめる


イグニスは歯噛みしながら吠えた。


イグニス: 「……貴様、本当にどうしようもない女じゃな。強情過ぎて呆れる。全く世話が焼ける。知らんぞ、どうなっても。後で助けて欲しいなどとほざくなよ?」


ルミエールは瞳を閉じ、深く息を吐き、そして静かに光の剣を構えた。


ルミエール: 「ホント強情。でも、そこまで祈りを信じられる気持ちは、光の女王として嫉妬に値するわ」


アウリサは満面の笑みで言った。


アウリサ: 「後の事は、知らない!!私も全力でいくからね!!!ナズナちゃん絶対頼むわよ!!!」


結月もまた、小さな手を強く握りしめ、祈るように呟いた。


結月: 「ナズナさんの祈り痺れます!!!ふふ お供させてください!!!」


ナズナ: 「みんな!!!ありがとう!!!強情でごめんね。絶対上手くやるから!!!」


奇跡の浄化──祈りの連鎖と共に

砂漠を埋め尽くす終末の軍勢。それに向かって、ナズナは祈りの杖を高く掲げ、体から荒ぶる魔力溢れせながら叫んだ。


ナズナ: 「──この世界の果てまで祈りを届ける!!」


その声が引き金となり、仲間たちが次々に力を解放する。


アウリサ: 「世界が終わる? ふざけないで!!せっかく楽しくなってきたんだから!! この手で未来を一緒に繋ご!ナズナちゃん!!!」

空間が裂け、アウリサの背後に輝く魔法陣が幾重にも広がり、虹色の光線がナズナの杖へと流れ込む。

ルミエール: 「ナズナ、あなたを信じてるんだから、きっと答えてよね!! 光よ、彼女に何者にも負けぬ導きを──光の女王の名のもとにっ!!」

ルミエールの全身から放たれる閃光が、無数の羽根のように舞い上がり、祈りの杖に降り注ぐ。

結月: 「ナズナさん……私、全てを賭けます! 消えそうな心の灯火でも、全部救ってあげてください!」

結月の両手から流れる淡い光が、涙と共に杖へと注がれ、まるで命の輝きそのものが流れ込むようだった。

イグニス: 「フン……くだらん戦いじゃが、そなたの意地を見せてみろ、強情なじゃじゃ馬巫女!!! 我が赫焔、全てを焼き尽くす力、巫女の願いの炎と変われ!!!」

イグニスの背後に巨大な炎の輪が出現し、紅蓮の焔が柱となって祈りの杖へと突き刺さる。

杖が震え、地響きが鳴り響き、空間そのものが振動する。ナズナの髪が光の風に煽られ、瞳は黄金に輝き、祈りの杖の宝珠が灼けつくような光を放つ。


ナズナ: 「黄昏に沈む全ての声よ──絶望に沈む魂の慟哭よ──この痛みも、悲しみも、全て私が引き受ける!!!」


全員: 「──我らの祈りをッ!!!」


ナズナ: 「我が命に宿る白き光、この胸に燃ゆる覚悟の炎──全てを超え、全てを抱き、世界の理を貫け! 慈愛の焔よ、希望の光となりて放たれよ──ルミナフレア・アウリアッッッ!!!」


光が爆発的に膨れ上がり、ピラミッドの頂から放たれた一条の光柱が、天と地を貫いた。


その瞬間──。


砂漠全体が、眩い祈りの光に包まれた。


焦熱の巨兵たちは呻きながらも苦しみを手放し、その熱が花の香りを纏った光に溶け、優しく霧散していく。グラナイト・ゴーレムは崩れながらも砕ける音を残さず、ただ淡い砂粒となって風に溶け、金色の粒子となって消えていった。鉄の魔偶は金属の軋みを止め、重たい鎧を外されたかのように静かに崩れ、歪んだ仮面が笑ったように空へと溶けた、音律の将軍たちは穏やかな残響を最後の音として紡ぎ、その波紋が消えると共に音も姿も消え去った。


幽魂騎兵団は淡い光を纏いながら、瞳に浮かぶわずかな涙の輝きを残し、輪郭を失い、揺らめく光の霧へと変わり、静かに空へ溶けていった。旧王族たちは崩れ落ちることなく、威厳ある微笑を浮かべ、頭を垂れ、煌めく光の粒となって天へ昇り、祈りの風に運ばれた。


──そして。


天空を旋回していた腐喰の災炎竜(カドゥマ=ヴォルグ)は、黒炎を静かに消しながら、その身を光の粒子に変えていった。大きな瞳には涙が溢れ、それが雫となって光の中へと溶け、翼が羽ばたく度に、黒き鱗は光の羽へと変わり、柔らかな笑みを湛えながら、音もなく天へと還っていった。


兵たちは皆、苦しみから解き放たれ、穏やかな安堵の表情を残して──誰一人残ることなく、安らぎの光に還った。


砂漠全体に広がった浄化の波は、嵐のような破壊の余韻を一切残さず、全てを静かに、優しく包み込み、浄め、消し去っていった。


そして──。


ピラミッドの下、見渡す限りの砂漠だった大地が、次々と鮮やかな緑に覆われていく。荒れ果てた砂は肥沃な土へと変わり、そこから芽吹いた草花が次々と広がり、花々が咲き誇り、木々が枝葉を広げ、色とりどりの果実が実り始めた。葉の間から水が滲み出し、小川となって流れ、滝が生まれ、湖が広がり、命の楽園が溢れだした。


風は温かく、優しく吹き渡り、命の香りを運びながら、大地全体が息づくように震えていた。


ナズナたちは、ピラミッドの頂上からその光景を見下ろしていた。広がる奇跡の景色を見つめ、誰もが言葉を失い、ただ静かに息を飲んだ。


ナズナ: 「……ありがとう、みんな。これが、祈りの力……やっぱり世界は変えられる」


アウリサ: 「……すごい……これが、ナズナちゃん……いえ、みんなの祈りの力……!」


ルミエール: 「これこそ……光ね……!全てが賛美の声をあげているのが聴こえるわ」


結月: 「全てが生きづいてる……渇いたみんなも、幸せそうに光になっていってたよ……!」


イグニス: 「フハハハ! ……お主、真に面白い女じゃ。これで終わりではないぞ!ナズナ。まだまだ続くぞ、この物語は──!」


ナズナたちは、大地に広がる花畑の中で、息を整え、深く静かな祈りを胸に抱いた。


ナズナ: 「どう?イシュファール??」


ナズナはイシュファールをじっと見つめる


イシュファールはその光景に見惚れ、その瞳に、確かに一滴の雫が滲んでいた。


イシュファール: 「我の完敗じゃな..........」


イシュファール: 「なんと美しい景色だ..........」


イシュファール: 「我の兵も何処かで見れればよいな..........」


ナズナ: 「きっと、いつか何処かで見れるよ。祈りの連鎖が続く限り」


イシュファール: 「そうだな..........」


イシュファール: 「シグナルエコー......いや....声を発する者よ」


イシュファール: 「協力しよう」


ナズナ: 「ありがとう。みんな救うから しっかり見ててね。」


イシュファールは深い沈黙の中で、砂漠を見渡していたが──やがて、ゆっくりと立ち上がった。


イシュファール: 「そろそろ帰るがよい──お前たちの世界へ。」


彼は右手を軽く掲げ、指を鳴らした。


──その瞬間、空間が再び裂けた。


ピラミッドの前の空間が大きく裂けて、その入り口に光が渦巻いている。


ピラミッドは徐々に加速しその中へと進んでいく


次の瞬間──


眩い光が弾け、目を開けると、ナズナたちは最初と同じように日本の都心部の上空、夜空の下に立っていた。


見慣れた街の明かりと、いつもの空気があった。


ナズナは胸に手を当て、祈りの杖を強く握りしめた。


ナズナ: 「……戻ってきたよ。」


仲間たちはそれぞれに空を見上げ、深い息を吐き、ゆっくりと笑みを浮かべた。

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