2哀れ
「おや。こんなところに迷うとは不幸ですねぇ。」
黄昏時の神社。顎に骨が浮き出ている手を乗せ、前屈みで男を見つめる。獲物を見つけた目をしている。
「ここはどこだ!なんで……なんで誰もいねぇんだ!俺は神社の祭りにきていたはずだ!」
男は混乱している。息が荒い。
「まぁそんな声を荒げないで。この時間を楽しみましょう。」
橙色の太陽光が使いを包むが、冷たい。不気味だ。空気が二人の間で全く違う。
「楽しむって……!あんた誰だ!人間なのか!?」
「んん。面白い質問ですねぇ。」
使いの顔が真顔になる。その後すぐ、ニマッと男の方を向く。
「いいでしょう。その質問にお答えします。少しでも、貴方に生きていて欲しいですからねぇ。」
「は……。」
男の頭の中は謎でいっぱいだ。男の方へ一歩大きく近付く。
「私は人間ですよ。んふふ。そう見えませんよね。当たり前です。」
本当か?そんなはず……俺を揶揄っているのか?ふざけるな……
「人間なら助けてくれよ……。頼む……。娘と一緒に来ていたんだ。あいつ、まだ五つだ。俺がいなきゃ……あいつは……あいつは……。」
男は膝から崩れ落ちた。泣きじゃくっている。夕陽が男の涙を輝かせる。
(命乞いですか。面白い。)
「そうなんですねぇ。最後に思い寄せられて、よかったですねぇ。」
満面笑みでさらに男の距離を詰める。
「やめ……」
ガッ
煩く喚いていた男の音が、一つ消えた。
「おやおや。良いものを持ってらっしゃいますね。」
男の持っていたペンダントを夕陽にかざす。より一層橙色に光った。