第1話 転生先は勇者の息子でした
僕は滝に飛び込み、記載通りに泣く。
えんえんと。
恥ずかしいかって?
まさかぁ。魔王になるためならプライドは全無視。
冷たくない……
滝の中は驚くほど温かい。
というか可笑しい。ここはどこだろうか?
先ほどまで滝にいたはずなのに天井があり、地面は柔らかい。
それに、口に水が入って息ができない。
水なのかこれは?
僕は白くて生温い液体を吐き出す。
ペッペッーー
(不味い……)
「あれれ?口に合わなかったかしら……」
声がする方を見上げると女性と目が合う。
ここまでくれば何となく状況は理解できる。
転生……
これは走馬灯の一種なのだろうか?
もしくは夢を見ているのか?
だが、その幻も隣に立つ父親であろう人物の一言で覚める。
「アンナ、きっとこの子は俺の跡を継ぐ立派な勇者になるさ」
勇者………………?
勇者ってあの勇者か?
魔王の宿敵……
嫌だ!
嫌だ嫌だ!
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!
僕は生まれたばかりなのに地面を這いずり暴れ回り、無駄な抵抗をする。
あってはならないこんな事。
どうしてこうなるんだ……。
前世では嘘もつかなかったし、人助けもした。
いや、それがダメだったのか!?
僕はどうしてもこの事実を認めることが出来なかった。
◇◆◇◆◇
転生から10年が経った。
最初は現実を受け入れることがとてもできなかった。
いっぱい泣いたし、もう一回転生してやろうとも考えた。
でも、僕はこの異世界で生きている。
それは単ひとえにこの福音書のおかげだろう。
偶然父親の書斎で見つけたこの本は、前世の友人に紹介された
『魔王体験記』のサイトがそのまま書いてあったのだ。
だが、1ページ以外は白紙だった。
でも、それでいい。
この本は記述され続けている。
必要な時に僕の取るべき行動が文字になって現れる。
いつ見ても不思議な本だ。
僕が寝ている間に誰かが書いているのだろうか?
そして僕に示された最後の導きは
『魔王修行を継続しつつ、時を待て』
だった。
それから更新は止まっている。もう3年近くも。
「ねえ、ルークさっきから何読んでるの?」
俺は隣に座り、興味深々で本を眺める少女に視線を向ける。
彼女の名前はアリス・シャーロット。
まあ、この世界でできた幼馴染って所だ。
最初は彼女を魔王の召使いにできないか検討していたが、今では僕が彼女に振り回される事の方が多い。
「アリス、これは魔王の福音書なんだ」
「ふくいんしょ?」
アリスは首を傾げ、分かりやすい説明を求めてくる。
「残念だけどアリス、これ以上は教えられないよ。この本は僕以外が触ると太陽が目を焼き潰してしまうんだ!」
「そうなの! ルークはすごいんだね」
反応がいいからついつい揶揄ってしまう。
ちなみに、ルークという名は僕のこっちでの名前。
意味は光を導く者。
まったくネーミングセンスが感じられない。
前世でも雄正と、英雄の「雄」と正義の「正」という、ダブルコンボの名前。
もっとこうハデスとかサタンとかそういうのを期待していたのだが……
まあ、後々勝手に改名すればいいだけの話だ。




