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音無詩

詩が邪悪な笑顔を浮かべながら≪冥府の花嫁(ペルセポネ)≫だと正体を明かしてきた。まさか僕の信者がこんなに身近にいると誰が想像できるだろうか。


僕は配信を切って、詩と向かい合っている。詳細を聞くためだ。


「当初の予定だと『聖剣』を抜いたダメダメ旭を甲斐甲斐しく世話してあげる幼馴染ポジションでだんだん私のことを好きにさせようと思ったけど、嘘を付かない優しい人が好きなんて言われたら隠し事なんてよくないわよね」

「どっちみち『聖剣』を抜いたあの日にバッドエンドに直行だったわけね」


こんな目に遭うんだったら『聖剣』なんて抜かないでカツアゲされたまんまの方が良かったかもしれない。


「ツンデレは夫婦の間でしか通じないわよ?まぁ事実婚している私には通じちゃうんだけど」

「信者なら僕の話を額面通りに受け取ってほしい」


詩ってこんなに危ない女の子だったのかと少し幻滅している。実際は優等生の皮を被った危ない女の子だったんだな。


「ダメな女にしたのは旭、いえ、≪冥府の日輪(ラストサン)≫様でしょ?しっかり、責任を取ってほしいわ」

「何言ってんの?」


少しジト目で声を低くしてツッコミを入れた。しかし、詩はぞくぞくと身体を震わして、頬を紅潮させた。


「≪冥府の日輪(ラストサン)≫様のお声をこんな傍で聞けるなんてぇ…もっと叱ってくださいませんか?」


ヤンデレとは会話が通じない人間であり、偏愛故に行動が予期できない人間のことを言う。これ以上詩と会話をしていたら頭がおかしくなりそうだったので、聞くところだけ聞こう。


「なんで僕の正体に気が付いた?」


一番気になるところを直球で聞いた。


「中二の8/9の午後7時5分に窓を開けていたら、旭の声が聞こえてきたの。気になって屋根を伝って耳をすましたら、≪冥府の日輪(ラストサン)≫様をご降臨させていたじゃない。その時に旭の真の正体が≪冥府の日輪(ラストサン)≫様だと知ったのよ」

「そこまでは聞いてないし、普通に怖いわ」


僕のことをそんなに前から知っていたということか。≪冥府の花嫁()≫にはずっと支えられていた。彼女がいなかったら途中で心が折れてしまうというようなことがあったかもしれない。そこは感謝したいけど、正体がヤンデレ系だと分かると言うのが憚られる。


「ふふ、言わなくても気持ちは伝わってきているわよ?お礼は処女貫通でいいわ」

「そんな馬鹿なお礼があるか。もっとまともなやつにしてくれよ…」

「残念…それなら保留するわ」

「はいはい」


詩は≪境界を超える者(クロスオーバー)≫だった。当たり前のように僕の思考を読み取り、そして、願望を満たそうとする。真面目な顔で言ってくる詩に疲れてしまった。


もう帰ってほしいが、まだ聞きたいことはある。


「スパチャのお金はどうやって工面したの?」


スパチャは一枚一万以上する。それなのに、あんなに僕に貢げるってことは相応の何かをしているはずだ。


「それなら簡単よ。私、投資で人生を何周もできるくらい稼いでいるから」

「マジか…」


危ないことをして稼いでいるわけではなかったので安心半面凄いなという気持ちでいっぱいだった。すると、詩はハッと気が付いたように声をあげた。


「あっ、もしかして≪冥府の日輪(ラストサン)≫様は寝取られ属性持ちだったのかしら!?だとしたら健全にお金を稼いでごめんなさい。今からパパ活して、チャラ男に『うぇーい≪冥府の日輪(ラストサン)≫様見てるぅ?お前の嫁さんは俺と楽しいことしてるぜ~』って動画を撮ってくるわ!」

「僕をド変態に堕とすな!マジで滅ぼすぞ!?」


後、彼女でもない。妄想するにしてももう少しノーマルなやつにしろ。


「はぁ…それじゃあなんで今まで行動を起こさなかったんだ?中二の頃から知ってたならいくらでも僕と関わる機会はあったでしょ?」

「そんなの言わなくても分かるでしょ。恥ずかしかったからよ…」

「そ、そうなんだ」


おや?さっきまでのアブノーマルな行動から普通の恋する乙女みたいにもじもじしていた。ヤンデレから乙女へのギャップ萌えで少し当てられてしまう。


「だから、私は旭の部屋に耳を当てて≪冥府の日輪(ラストサン)≫様の声を聞いたり、旭が学校に行く時間と合わせて、世間話(愛を確認し合う)ことしかできなかったの」

「前言撤回だよ」


全部台無しだ。やっぱりヤバイ奴はヤバイ。もうストーカーと一緒なんよ。


「もうこれがラストの質問。なんで僕を、その、「好きになったのかの理由ね?」そう…」


現実世界の僕は何もかもがダメ人間だ。勉強だって死ぬほど勉強したおかげで、恥ずかしくない高校を名乗れるけど、今ではドベの方だ。スポーツは昔からてんでダメ。ちびで顔も不細工な僕になんで近づこうと思うのだろうか。


ブイチューバ―がいい例だ。中の人がバレた瞬間に幻滅するなんてことはざらにある。


何が言いたいかというと、≪冥府の日輪(ラストサン)≫を好きになる理由はあっても僕を好きになる理由はないということだ。幻滅しないでこうして姿を見せているのが不思議でならない。


「そんなの簡単よ。旭は配信で悩みを抱えた人たちを救ってあげてきたじゃない」

「…それは≪冥府の日輪(ラストサン)≫という仮面を使っていたからだよ」


山井旭としては何もできない。だから、虚構のキャラをつくりあげたんだ。しかし、詩は首を振るだけだった。


「ただの厨二配信だったら痛いで片付けられるわ。だけど、≪冥府の日輪()≫は悩める信者達を本気で手助けしようと思ってやっているでしょ?」

「いや…」

「『いや』じゃないの。じゃなかったら、≪境界を超える者(クロスオーバー)≫を筆頭に百万人の信者を抱えられるわけがないの。信者筆頭の≪冥府の花嫁(ペルセポネ)≫の私が言うんだから自信を持ちなさい」

「うん…」


こういう時に≪冥府の花嫁(ペルセポネ)≫の名前を出すのはズルい。信じるしかなくなるじゃないか…


詩はそのまま言葉をつづけた。


「さて、これで私の気持ちは分かってもらえたかしら?見知らぬAに対して本気で向き合い、そして、解決してしまう≪冥府の日輪()≫に憧憬と共に好意を持つのは普通のことだと思わないかしら?」

「さぁ…」

「照れてる≪冥府の日輪(ラストサン)≫様かわよす」

「台無しだよ…まぁでもありがとう」


僕という人間に価値はないと思っていたけど、身近に見ていてくれている人がいた。それは自分は自分のままでいいと認められた瞬間だった。


僕がお礼を言うと、詩は一瞬目を見開いた。そして、髪を指で髪をいじり始めた。


「不意打ちはズルいわ…これはこのままベッドに押し倒され「帰れ」」


残念な美少女は結局最後まで残念だった。


━━━


「さっきのって、特進の音無詩だよね…?」


宮下あかねは≪冥府の日輪(ラストサン)≫の配信を見ながら、途中で乱入してきた詩について考えていた。詩は山学院高校の二年生でトップの成績を誇る。直接話したことはないが、有名人なので見知っていた。


詩が≪境界を超える者(クロスオーバー)≫筆頭である≪冥府の花嫁(ペルセポネ)≫であるという事実は驚きはしたが、問題はそこではない。


あかねも≪冥府の日輪(ラストサン)≫の信者だ。バイトはもちろん、レンタル彼女など、法律に抵触しそうなことをしてまでも赤札のスパチャを投げるほどの重度の信者だ。しかし、≪境界を超える者(クロスオーバー)≫の仲間入りはしていない。


冥府の日輪(ラストサン)≫の厨二発言を理解できなかったからだ。しかし、努力と甲斐があってついに、≪境界を超える者(クロスオーバー)≫に仲間入りできそうになっている。そんな中で≪冥府の日輪(ラストサン)≫が≪冥府の花嫁(ペルセポネ)≫と共演し、そして、彼女発言をした。


冥府の日輪(ラストサン)≫は迷惑そうな声音だったが、≪冥府の花嫁(ペルセポネ)≫に家を抑えられているのは大きなリードを許してしまっている。


けれど、あかねはあまり焦った様子はない。


「音無詩と仲良くなって≪冥府の日輪(ラストサン)≫様の住んでいる場所を知ればいいだけだけどね。後は簡単に堕とせるだろうしね~」


ただ、あかねは一抹の不安があった。それは≪冥府の日輪(ラストサン)≫の声だ。詩が現れた時に、素の声を出していたのだが、アレはあかねに屈辱を与えたクラスメイトと似ている声だった。


『僕が≪冥府の日輪(ラストサン)≫だよ?』


散々、あかねに嘘を吐き続けたあの憎きクラスメイト。しかし、どうしてもあの忌々しいクラスメイトを忘れられなかった。


「ああもう!あんなカスのことなんて考えてもしょうがない!明日になればバイトの給料が入るし、今月こそは≪境界を超える者(クロスオーバー)≫になろう!」


数日後、あかねは悪夢を見ることになる。

『重要なお願い』

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