≪冥府から覗く瞳≫=カンニング
野々村先生から情報を引き出した詩と家に帰ると、既に≪境界を超える者≫は全員揃っていた。
「待たせたわね」
「遅かったわね。はっ!ピッタリ二時間遅れてきたということは○○○で休憩してきたんじゃないでしょうね!?」
「≪知恵の鉄女≫なら、もう少し頭のいいことをいってほしいな」
「冗談ですよ、≪冥府の日輪≫。帰り道の多目的トイレで多目的なことをしていたのでしょう?」
「何が変わったのか教えてくれ…」
そろそろ≪知恵の鉄女≫の名前を改変した方がいいような気がしてきた。詩に負けず劣らずの天才だから、知恵の女神の名前を与えていたけど、これじゃあただの変態だ。そろそろ神罰が下っても文句は言えない。
「えへへ、お兄ちゃん」
「お、どうしたの、愛莉?」
愛莉が胡坐の上に座ってきた。一瞬だけ警戒したけど、愛莉の笑顔を見ていたら変なことを考えるのは無粋だと思った。
「テストはどうだったの?」
「まぁまぁうまくいったよ。明日は愛莉に教えてもらった社会だから、頑張るよ」
「うん!頑張ってね!」
うちの妹マジで天使。
「…そのドヤ顔をやめてもらえるかしら、≪死者の案内人≫」
「なんのこと~?」
詩が愛莉を睨んでいる。なんでだかわからないけど、そういうのは良くない。≪死者の案内人≫じゃないときの愛莉は僕の可愛い妹なんだから、僕は愛莉を庇う。
「おおおおおお兄さま!?股間の○○○を私に押し付けすぎですぅ!○○○をご所望なら今から休憩しましょう!」
「邪魔だ≪死者の案内人≫」
変態には用はない。ペイっと投げる。
「もう!今はそんなことをしている場合じゃないでしょ!国語と社会が残ってるんだからさっさと終わらせるよ!」
流石、ノーマル佳純先生。弛緩した空気が一瞬で引き締まった。
「ありがとうございます。佳純先生」
「『好きです?佳純先生』!?そんな…いきなりすぎるよ~。式は明日のテストが終わるまで待ってね?初夜はスーパースイートホテルで…」
「そんなこと一言も言ってないです」
「テストが終わったら結婚したいなんて、そんなのドラマの世界だけだよ?全く≪冥府の日輪≫様ったら…」
「愛莉、最後の確認を頼む」
「はいよ~」
僕は佳純先生を無視して勉強を始めた。
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「疲れた…」
最後の確認を終えた。これで二日目もなんとかなるだろう。時刻は夜の20時。テストまで半日近く残っている。
「お疲れ様。それじゃあ≪冥府から覗く瞳≫を始めるわよ」
≪冥府から覗く瞳≫…つまりはカンニングだ。天才たちがどうシュミレーションしても英語が赤点になると、僕に言ってきたので、正攻法じゃ無理なのだろう。ただ、
「ねぇ詩。まだ時間があるから英語の勉強をして赤点回避ってできないのかな?」
一応なんとかならないのか聞いてみた。
「無理ね。ここからどんなに頑張っても10点がいいところよ。だからこそ尋常じゃない手段が必要になってくるのよ」
「分かったよ…」
協力してもらっている身だ。もう何も言うまい。
「計画は前も言った通り、英語の時間だけ保健室に行ってもらうわ。私も○産って言って教室から抜けるからそこで落ちあいましょ」
「誤解を招くから体調不良って言ってくれ」
保健室でテストをやるというのは確定のようだ。四人とも変態で天才だから穴はないのだろう。
「英語の時間の試験官は私だから安心してね?」
「あ、はい」
佳純先生が英語の時間の試験官なら、保健室に行くのは問題ないだろう。
「でも、どうやってカンニングするの?詩の答案を見せてもらうとかそういうこと?」
「ええ。基本的にはその線で行くわ。私の回答を見せれば基本的に間違うことはないわ」
詩の回答にいちゃもんをつける気は全くない。
「だけど、監視してる保健室の先生がいるよ?それはどうなの?」
「耄碌したおじいちゃんだからバレることはないわ。私がその程度の隙を付けないと思ってるのかしら?」
「…いや、そうは思わない」
詩は天才だ。だから、どんなことがあってもなんとかしてしまう天才性がある。だけど、一抹の不安がある。
「決まりね。そして、旭にできることは終わったわ。今日は家に帰って寝なさい」
「え?」
まさかここで睡眠の許可が出るとは思わなかったので阿呆面をかましてしまっているだろう。
「旭にできることはもうないの。だから、明日のテストでケアレスミスをしないように寝なさい」
「わ、分かった」
有無を言わせない声音で言われてしまったので、僕は黙って言うことを聞くことにした。
そして、寝ていいと言われるとどっと疲れが押し寄せてきた。僕はフラフラしながら、詩の部屋から屋根伝いに自分の部屋に戻ってベッドに倒れ込んだ。
英単語くらいは覚えた方がいいんじゃないかと寝る前に考えたけど、それより早く意識が落ちる方が早かった。
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「総仕上げね。≪境界を超える者≫の名を冠する私たちが≪冥府の日輪≫様に恥をかかせるなんて許されないわ?」
私の言葉に≪境界を超える者≫は全員、本気の顔になった。
「≪冥府の花嫁≫に言われなくても分かってるよ。時間がないんだからさっさと動くよ」
「ええ」
ガシャン!
私が机の上に置いてあった鞄を地面に置くと、無骨な音が響いた。
「道具はすべてここに揃ってるわ。時間は残り半日かしらね。迅速に、かつ、正確に行きましょう、ね?」
コクンと頷いた≪境界を超える者≫達は各々、役割を果たすのに必要なものを持って、動いていった。
『重要なお願い』
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