無能のテスト対策3
僕たちは今、詩の家の前に来ていた。家が隣だけど、中に入ったことは数えるほどしかない。久しぶりなので緊張していた。
「お邪魔します」
「今は誰もいないわよ。両親は今日からテストが終わるまでは旅行よ」
「そ、そうなんだ」
少し安心した。もし詩の両親がいる中で、合宿なんてしてしまったらとんでもなく迷惑をかけることになるところだった。
「彼氏の旭が来るからって言ったら、急遽予定を組んでくれたの。『ハメは外してもいいけど、ゴムは外しちゃダメよ?』ってお母さんに言われたわ」
「待って。それ別の問題を引き起こしてない?」
「問題ないわ。旅行代は私が払っているもの。家計にはなんの影響もないわ」
「違う。そこじゃない」
(完全に外堀を埋められたじゃん)
「そういうのいいから早くやるわよ」
「…わかりました」
シェーラ先輩が急かしてくる。いつもなら下ネタをぶち込んでくるところなのに、今回は本気のシェーラ先輩だった。詩もそれを感じ取って敬語で話している。
シェーラ先輩だけではない。佳純先生も愛莉も真剣だった。ボケることができないくらいに僕は終わっているらしい。
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「ねぇ、旭君。勉強を始める前に聞いておきたいことがあるの。どうやってこの学校に入ったの?うちの学校に入ろうと思ったら結構大変だったと思うんだけど…」
「裏口入学ですよ。多分試験官を買収したんだと思います。」
「もしくはカンニングかな。お兄ちゃんが入ろうと思ったら、それしかないです」
「失礼すぎない?」
佳純先生が詩の部屋に入ると同時に聞いてきた。嘘は許さないという圧力を感じる。だけど、勉強なんてあのやり方以外知らない。
「マークをテキトーに書いたら当たりまくったんでしょうね。全部かき集めたら、8割くらいマークですし」
「信じられないけど、それ以外ありえないよね」
詩と佳純先生が疲れながら言ってきたが、一言言いたくなった。
「自分が知ってる単語が書いてあるものを選んだんだから勘じゃないよ。実力だよ」
「お兄ちゃん、黙って。それ以上口を開くと殴りたくなる」
「酷い…」
まぁ僕も受験の時は入れるなんて思わなかった。だけど、本番で手ごたえがあったのだ。そして、入れてしまったのだから僕の勉強法は間違っていなかったということになる。
(って言いたいけど何か言われそうだから黙っておこう)
すると、今度はシェーラ先輩が手を挙げて僕を見てきた。
「入学できたのはそれでいいけど、よく進級できたわね…」
(ああ、そのことか)
「シェーラ先輩、知らないんですか?赤点を一回、回避すれば、提出物をしっかり出して、生活態度がしっかりしていれば留年はしないんです」
「そんな底辺の戦いをしたことがないもの。というかその一回の回避をどうやったのよ」
「それは理解を「もういいわ」あっ、はい」
僕の言葉が終わると佳純先生がその説明をしてきた。
「うちの高校は一年生のテストはマークが主だからね。だけど、二年生から受験を意識して記述式の問題で大半を占めるようにするの。旭君が最初の実力テストで0点をとったのはそういうことね」
「アレ、本当に0点だったのね。てっきり、旭と一緒に居たかった≪暖炉の聖女≫の策略だと思ったわ」
「そんなことするかっての。ただ、うちのクラスの男子共がご褒美を欲しがるからね。だったら、1と0を加えて、≪冥府の日輪≫様とイチャイチャできるようにしただけだし」
「おかげで天国から地獄に叩き落されましたけどね」
最悪の実力テストだった。
「まとめるとこうだよね。お兄ちゃんはクソにクソを混ぜたような最悪の勉強をしてたんだけど、持ち前の運の良さでマークの択一で首の皮を繋いできて、心のどこかで勉強ができると思い込んでいた、と。その結果生まれたのは本気を出したら勉強できると思っている救いようのない馬鹿、ってところかな?」
「「「異議なし」」」
「愛莉ぃ、僕が何か悪いことをしたのか…?」
愛莉がさっきから僕に酷いことを言ってくるので悲しい。
「うちの学校の偏差値って低い生徒で偏差値65でしょ?この感じだとあっくんの偏差値は40もないわよね…?」
「学校の特異点っていう意味では流石≪冥府の日輪≫様だよ…」
「だけど、ダメダメなところが可愛いよね~」
「分かるわ。今だって私の≪冥府の日輪≫様の評価は爆上がりだもの」
≪境界を超える者≫が好き放題言ってくるが、言っていることはよくわかった。確かに記述になった瞬間に僕は一問も取れなくなった。分かっても、書けないみたいな場面ばかりだった。それはマークというギャンブルができなくなったからと言われればその通りだった。
「幸いなことに学業に関してはエキスパートの≪境界を超える者≫が集まったわ。全員で協力するから、旭は何があっても私たちの言うことを聞きなさい」
「はい…」
「これが勉強計画よ」
詩が僕に渡してきた勉強計画を見て顔が青くなった。一日のうちで勉強する時間は23時間30分だった。残りの30分はお風呂の時間だ。
「一分も時間を無駄にできないの。トイレ、食事、着替えのあらゆる場面で勉強してもらうわ。私の家から逃げようとしても逃げ道はすべて封鎖したから、逃げることはできないわよ?」
詩が本気になったらそれくらいはできるだろう。僕は逃げることを諦めて、覚悟を決めた。ただ、
「お風呂だけ時間をとったのはなんでなの?」
「限界を超えるには一度くらい休みが必要なのよ」
「なるほどね」
休憩が一度でもあると全然違う。
「さっ、時間は有限よ。最初は数学ね。私が見てるから三人は例の準備を」
「例の準備?」
「馬鹿旭に話してもしょうがないわ。気にせず始めなさい」
「はい…」
「お兄ちゃん頑張ってね!」
「≪冥府の日輪≫、健闘を祈ります」
「応援してるよ~」
三人の声援を受けて僕は勉強をスタートした。
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「私たちは覗きの準備だね!」
「≪死者の案内人≫、覗きなんてよくないよ。『垣間見』ね?」
「おっとうっかり」
変態共がお風呂の時間を旭に与えた理由は覗きのためだ。
「≪冥府の日輪≫の『聖剣』をついに見れるのね!」
「静かにしろよ、≪知恵の鉄女≫!上に聞こえるだろうが!」
「≪暖炉の聖女≫もうるさいよ!」
三人の興奮はピークに達していた。元々は混浴を狙っていたが、≪冥府の日輪≫との混浴の実現は不可能だと早々に気が付いた。
しかし、そこで折れないのが、変態、もとい、≪境界を超える者≫。
≪冥府の日輪≫の『聖剣』を見るために、変態共はその無駄に賢い頭脳を活かして、空前絶後の覗きを試みている。
「ここの壁をくりぬけば監視カメラを設置できるんじゃない?上から塗装すればカメラだとバレないと思うよ」
「いいね。後は床に穴を空けた方が『聖剣』を完璧に映せそうじゃない?」
「≪冥府の日輪≫の声でASMRを作りたいから、どこかに盗聴器を付けておきたいわ」
変態共の夜は長い。
『重要なお願い』
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