表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なろうラジオ大賞参加作品

天才に、手を届かせてみたいんだ

作者: 田尾風香

 キィン、と音を立てて、僕の持つ剣が弾かれた。そして、目の前に剣が突きつけられる。


「俺の勝ちだ、エスタ」

「……勝てないなぁ、アールには」


 剣が引かれて、僕は地面に座り込む。恨めしそうにアールを見上げたけど、当の本人は何てことない顔をしている。


「エスタだって十分強いさ。ただ俺の方が強いだけだ」

「それさ、腹が立つだけだって分かってる?」

「そうなのか……?」


 全然分かってない。アールは単に事実を言っているだけで、悪意がないのは分かるんだけどね。


 僕たちは当てのない放浪の旅をしている。僕とアールと、残り二人は女の子。

 女の子二人が水浴びしているから、それを待つ間に僕たちは手合わせを始めたんだけど、やっぱり僕じゃ手も足も出ない。


「どうする、これで終わりにしておくか?」


 アールの余裕の表情が悔しい。荒い呼吸をしている僕とは対照的に、息一つ乱してないんだから。


 分かっているんだ。アールは剣の天才だ。天才のくせして努力も怠らない。凡人の僕が、いくら努力したって追いつけっこない。


 それでも一度くらい、少しくらい、手を届かせてみたいって思うんだよ。


「もう一回。今度は精霊せいれいの力を使うよ」

「いいだろう、かかってこい」


 呼吸を整えつつ立ち上がる僕に、ニヤッと面白そうにアールが笑った。


 この世界には、精霊と呼ばれるものが存在している。水や風、土などの自然だったり、家や剣なんかの人が創ったものにも宿っている存在。

 普通の人には見えない精霊を、僕は見て言葉を聞いて、その力の一部を借りてふるう事ができる。


 精霊の力を剣で対処することなんかできないから、僕がその力を使えば、アールは躱すしかできない。……はずなのに、最近はちょっとした防御くらいなら、するようになってきた。


 アール自身は「やろうと思ったらできた」とか言ってるけど、僕には分かる。アールの剣に宿っている精霊が力を貸してるんだ。普通、見えないし聞こえない相手に、精霊が力を貸すことなんてないのに。


 本当に、天才っていうのは、どこかがおかしい。


風精霊ウェントス


 僕の呼びかけに、精霊の応える声が聞こえる。僕の周囲を、風が吹き荒れる。


 精霊の力を使ってさえ、アールに剣が届いたことはない。

 だから、今度こそ。


 何度思ったか覚えていないことを思いつつ、僕はアールにかかっていった。


ここに出てくるエスタは、自作品「不思議な不思議な出来事」の不思議な少年、詩の「月に願いを」の少年と同一人物です。名前が出てきたのは、この作品が初めてです。

この作品も含めた三作品とも場面がまったく違うので、話はまったく繋がっていません。


ラジオ大賞に投稿しているの、スピンオフばかりですね……。

お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ