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28.5話仙獣契約 星星

 謝砂の筆は筆菅ひっかんに金の蜘蛛巣の模様が入り上部には蜘蛛の姿が小さく金色に箔押しのように入った。

 触れると『星星』と文字が刻まれていた。

「精妖じゃなくて呼び名があったのか。星星せいせい?」

 呼ぶと筆の蜘蛛の箔押し部分が光った。

「謝砂と契約して名前がついたんだ。霊力で魂が結ばれたからだよ」

「契約って何を契約したの? 解約はできるよね?」

「仙獣契約。または霊獣契約は一定の霊力がないと契約はできない。一度結んだ契約は血の盟約であり霊獣は主から霊力で修錬をし霊丹を練ることで仙と同等の力を得ることができる。霊獣になるのに自分から申し出ることは前例が少ないから解約は分からない」

「でも霊獣じゃないと契約できないよな」

「精妖でも人を殺したことがなければ可能だ。精妖は魂の霊体にもなれるから仙噐と一体化もできたんだろう」

「殺してないのは事実だったのか。霊獣って虎とか蛇とか龍とかだと思ってた」

「蜘蛛を従える宗主は謝砂が初めてだ」

「お兄様!」

「爛様!」

 姜と柳花が駆け付けてきた。姜の後ろから飛んでくる謝家の門弟たちも遠くに見えた。白い燕の家紋が描かれた枹を纏っている。

 姜は燕が飛ぶ姿の刺繍がされた外衣を風になびかせていた。

「姜です!」

(後片付けは考えなくて済んだ。何も考えたくない)

 謝砂は姜の姿にほっとしたのかふわふわとした感覚に爛に持たれ目を閉じた。

「おつかれさま謝砂」

 耳元で囁かれた声は心地よくてすぐに眠りに落ちた。






 吊り橋は丸三日間燃え続けた。

 火は水をかけても消えずに支柱まで焼き尽くした。

 煙は生臭く魚を焼いているような匂いは町中に広がった。

 橋だけが跡形もなく燃えて消えた。

 焼けた灰は飛ばずに消えて行く。

 爛は謝砂が眠っている間、隣の卓で報告書をまとめていた。

 邪気の痕跡を調べると吊り橋が古くなり邪気が溜まり妖怪になる手前で起きたことだった。

 蜘蛛の精妖は吊り橋の邪気を吸っていたが人の魂を吸っていたのは吊り橋だった。

 幻影など溺鬼など吊り橋の手助けはして甘い汁を吸っていたが殺しはしていない。

「星星出てこれるだろう。手当をするから本来の姿で出てきなさい」

 卓に置かれていた謝砂の筆がカタカタと音を立てた。

 白い煙が渦を巻くと白い蜘蛛の姿で爛の前に出てきた。白い毛並みに血が滲んでいた。

「この姿でいい? 女の姿よりも蜘蛛の姿をいう殿方は初めてよ」

 星星を卓において黙ったまま爛は傷口に薬を塗り包帯を巻いた。

「ありがとう。謝砂は人の姿を望むのに」

「私はそれが気に入らない。早く治したいなら謝砂が目を覚ますまでこの姿でいること」

 爛は星星を抱えて眠ってる謝砂の上に乗せた。




 謝砂が目を覚ましたのは火が消えた後すぐのことだった。

(いつもの香りだ。はぁ。この柑橘系の香りはすっとして落ち着く)

 高級そうな白いベアロ地の半円のクッションがちょうどお腹の上に置かれている。

(腹を冷やすなって意味? 重石をおかなくても布団めくらないよ)

 ぬいぐるみに見えたのはくりっとした黒い目がついていたからだ。

 身を起こして見ると包帯が斜めにぐるっと巻かれている。

「ぬいぐるみ?」

 そのまま軽く持ち上げると六本の足がぶらんと出た。

「あれ? 目が覚めたのね」

「蜘蛛。蜘蛛だ。ぎゃぁぁ!」

 謝砂は思いっきり叫びながら両手を放す。布団の上にぽすんっと蜘蛛が落ちた。

「きゃっ!」

 枕を床に退けて布団を蹴って遠ざけながら下がった。

 寝台の木枠にドンと背骨を打ち付け転がるように床に落ちた。

「いたっ」

「大丈夫?」

 カサカサと布団の上を移動する音が聞えると蜘蛛が見下ろしてきた。

 さっきから女の人の声が聞えるが部屋には誰もいない。

 立ち上がりとりあえず見えないように布団の上の大きな蜘蛛を風呂敷のように包んだ。

 ぎゅっと結んでそのまま寝台の床に打ち付ける。

「ぎゃっ! やめっ、やめて」

「やめては自分が言いたい。なんの恨みがあるんだよ」

 問答無用でバンバンと打ち付けて脳震盪を起こさせようと頑張った。

「どうした! 何かあったのか? 星星に任せたのに」 

 謝砂の叫び声に慌てて爛が駆け付けてきた。

「謝砂何をしているんだ? 起きてすぐ激しい運動はしないほうがいい」

「爛! あれ! 蜘蛛! 部屋から追い出して。お願いだ」

 謝砂が爛に投げると風呂敷の結び目が解けて中のクッションのような蜘蛛だけが手元に納まった。

 爛は目を丸くして謝砂を心配してるのか笑ってるのか分からない。

 爛は謝砂が言った通りに部屋から出した。

「あれが星星だ。もう人の姿に戻っていいぞ。後で話すから待っていてくれ」

「うぅ。目が回ったわ」

 部屋の外からもさっきと同じ女性の声がした。

(声の正体は星星だったのか。よかった。部屋を移動する必要はないみたいだ)

 髪がぼさぼさに振り乱して打ち付けてる姿を思い出しては爛は大笑いしている。

「振り乱して何事かと思った。こっちにおいで髪を結ってやるよ」

 爛に髪を結ってもらいながら眠っていた間の出来事を話してもらった。

「星星入ってきていいよ」

 星星が女の姿になって部屋に入ってきて謝砂に説明をした。

 星星の説明した内容は謝家に調べて爛がまとめた報告と同じだった。

 溺鬼や狂屍したものを吊るしていたのは人々を救っていたようにも思える。

 吊り橋の上で魂を喰われてすでに死んでいた屍だけを吊るしていたという。

「嘘はついてない。問題ないし条件は一つだけ」

「なんでも聞くわ」

「虫が怖いから心臓が慣れるまではとにかく人の姿でいてくれ。あとは好きにしてくれればいい」

「それだけ? 守るわ」

「契約してしまったし、これからよろしく星星」

 謝砂は嶺家で蜘蛛宗主とも呼ばれるようになった。

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