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28話

 街から少し離れた一角に一軒の屋敷があった。

 爛は膝をまげて先に謝砂を地面に下ろした。

 ふわっと剣の上から降りると剣は鞘の中に納まる。

 木造で建てられていて華やかさはなくても趣のある落ち着いた屋敷は商人の別荘風という雰囲気だ。

 門には燕の家紋が描かれている。

 塀と同じように囲むように部屋があり中庭には紅葉の木があり小さな庭園もあり聞くと客室も三つあり十分広い。

 すでに桃柚苑と雪児に謝家の門弟たちが家の中で待っていた。

 門を開けて謝砂と桃爛が入ってくると門弟たちが出迎えにきた。

 顔や髪は風で乾いたが服は濡れたままでずっしりと重たく動きづらい。

 中衣は肌にへばりついて気持ち悪い。

「謝砂様たちは川遊びですか? ずぶ濡れですね。楽しそうでいいな」

「柚苑には楽しそうに見えるのか? 溺鬼に川の中に落とされたというのに」

「滅多に味わえない経験だ。謝砂は楽しく思え」

「爛様の服もじめっとしているので桃展たちも一緒に魚でも釣ったのかと思いました」

「桃展たちは溺鬼を釣っているとも言えるかな。撒き餌で捕らえるんだし」

「溺鬼って釣れるんですか!」

 雪児が話に食いついた。

「詳しくは桃展が帰ってから聞いてみて。どうしても顔に蜘蛛の巣がついたように思えてぞわぞわとするんだ」

 謝砂は頬を両手でおさえた。

「なにもついてませんよ。川に落ちたのなら全身洗ったと同じで取れてませんか?」

 雪児は謝砂に近寄ろうとしたが爛に後ろ衿を掴まれて引き戻された。

「謝砂から離れて。くっつくと服が湿気る」

「爛様も濡れてるじゃないですか!」

 同じように服がぬれていた爛の外衣に雪児がびっくりした。

「爛様も着替えてください」

「謝砂様、湯を沸かしてきます」

謝家の門弟が走っていくと謝砂に柚苑が話す。

「嶺家は外部の者が泊まれない家訓があるために謝家は嶺府近くの街に家があるんですね。理理殿の母君が里帰りしても泊まれるように謝家の前宗主が建てた家なんですね」

「前宗主の第二夫人が理理殿の母君だからな。理理殿の母君は正妻ではないし住まいはここで謝砂が別宅代わりに一人で住んでいた。謝家の自室よりもこの屋敷のほうがしっくりするらしい」

「爛様、隣に謝宗主ご本人がいるのに説明するのはなぜですか?」

「大人になると昔話をするんだ。謝砂は船から落ちるぐらいの間抜けだから説明するんだから気にしないで聞いてなさい」

 謝砂は爛の言葉が矢のように突き刺さって傷ついた。

(誤魔化すにしても間抜けって言わなくても他の表現はないのか)

 柚苑も雪児も納得して頷いていた。


 

「ご用意できました」

「爛は?」

「着替えるだけでいい。あとで片付けに行かなければならないから」

(片付けって嶺楊達だけじゃ終らないから手伝いにいくのか? やっぱり桃展と桃常が気になっていたんだな。爛の邪魔はしないでおこう)

「そう。じゃ先に入る」

 部屋の中に風呂桶が湯が溜められて用意されていた。

 靴を脱いで水を出し逆を向けて壁に立てかけた。

 外衣は脱いだが脱ぎにくい中衣は着たまま湯舟の中に入り湯につかりながら脱いだ。

 脱いだ服は置き場所に困ったが丸めてポンと床に置いた。

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