27話7
謝砂は街のはずれにひっそりとある義荘という場所に案内された。
門の敷居が他の屋敷に比べても高く足をうんしょっとあげて引っかからないよう跨いだ。
建物の中は紙でつくられた馬や人の姿をした紙人形が並んでいる。
(なんていうか不気味だ。夜じゃなくてよかった)
「水鬼を出します」
謝家の門弟が荷車にのせて運んできた捆仙網で一塊に捕えた水鬼だ。
謝砂は見ないようにぎゅっと目を閉じた。
仙剣で網だけを斬り水鬼が出されると鼓膜をやられそうな黒板を爪でひっかいたときのようなぞわっとするぐらいの甲高い声で叫んだ。
「謝砂殿!」
門弟が叫ぶと謝砂は目を開けた。
突然くわっと目を開けて謝砂をめがけ鋭く尖った歯で噛みつこうと一鬼が飛んできた。
「こっちに来るな!」
謝砂はとっさに手に仙筆を出して宙に文字を書くと大きな呪符が出来上がると腕を前に出して顔を隠した。
飛び込んできた鬼を盾のように呪符が防ぎ動きを止めた。
爛は素早く鞘から剣を抜き白く煌めいた刃で鬼の首を斬った。
噴き出した返り血は謝砂の袖に飛び散った。
「謝砂大丈夫だ」
爛に言われても謝砂は中々腕が降ろせない。
謝砂はなんとか片腕を降ろしたが鬼が叫んでいるほうに仙筆を使って宙に呪符を書き飛ばした。
呪符が効いたのか鬼は力をなくしたのか叫ぶ声が止んだ。
「隠しているから目を開けても鬼は見えない」
謝砂は仙筆をしまって両腕を下ろす。
爛を信用して目を向けると謝砂の目の前には爛が立っていて、鬼は爛の背中に隠され見なくて済んだ。
「襲ってきたのは溺鬼ではなく別物である狂屍が混ざってたからだ」
「怖いのに違いはない」
謝砂はドクドクと血が逆流しているかのような鼓動を落ち着けることだけに神経を集中させた。
水鬼の顔を街の人に確認させが誰も面識がなく知らなかった。
一緒についてきてもらった丁露も知ってる顔はいなかった。
「だったらなぜ丁露さんの船だけ狙われたんだ?」
謝家の門弟が聞くと嶺家の門弟が理由を話す。
「他の小舟が無事なのは護符で弾いたからですね」
「護符を渡しますので家の門と船にお貼りください」
謝家の門弟が懐から呪符を出して丁露に渡した。
「川に浮かんだ籠は回収しました」
御剣し終えた嶺家の門弟が義荘の中に入ってきた。
川に浮かんでいた籠を回収し一列に並べて干していた。
「全部流されなくてよかったですね。傷んでないし破棄しなくて済んだ」
謝砂は手近なところにあった竹籠を持ち上下に振り水気を飛ばした。
「竹を細く割いて作るんだよね。軽いのに丈夫だ」
「命を助けていただいた礼にその魚籠を受け取ってください」
「くれるの? ありがとう。でも指示をしたせいで竹籠を吹き飛ばしてしまったから買い取らせてもらう」
謝砂が言うと丁露は両手を振って拒否する。
「そんな滅相もない。今お渡しできるのは残ったものしかありませんが魚籠は漁師の命も守るものです」
「だけど嶺家に支払ってもらうから遠慮せずに代金を頂いたらいい」
「その通りです。駆除できなかった責任があります」
謝砂はさらっと言ったが嶺家はそのつもりだったようで丁露に銀子を渡した。
「病み上がりだと言っていたが体に異常は?」
謝砂が聞くと嶺家の門弟が丁露の隣に来て脈に触れた。
白く細長い指先、長い睫毛に艶やかなふっくらとした唇が特徴の可愛らしい雰囲気をした女性だ。
「これでも嶺家の医者ですから信用してください。嶺楊と言います」
謝砂は目を慌てて逸らしたが気づかれていたみたいだ。
「魂に妖気で傷がついていますがそれは今ではありません。あなたはどこから来られたんですか?」
「東街からきました。橋の上で舌を出すという妖に会い寝込んでましたが家族が紙銭を燃やしてくれると目が覚めたんです。でも直接その妖を見てないんです」
「紙銭を燃やした後だし長舌鬼の妖気か。でも溺鬼に狙われてはないはずです」
丁露と嶺楊が話している間に謝砂は義荘の中を見ていた。
木のどっしりした長細い箱が並んでいる。
近くの木箱からはヒノキの香りがした。
白樺のような材質も揃ってあり様々な同じ形をした木箱が並んでいた。
線香が焚かれているが鼻につくような異臭が混ざって感じる。
置かれてしっかりと蓋を閉じられた木箱の上にも黄色の呪符が張られて『封』がされていた。
爛は謝砂のそでを掴んだ。
「謝砂、棺の中は覗かないほうがいい」
「棺?」
「遺体だから」
義荘という場所が遺体を一旦安置する場所だと知り謝砂は爛の背中に飛びついた。
「無理! ここから出てく! 今すぐに出る!」
爛は謝砂を背負ったまま義荘から出て隣の茶屋を貸し切った。




