27話6
店主の周りに商売仲間が集まり声をかける。
「丁露、大丈夫かい?」
「配られた呪符を船に貼ってなかったのか?」
店主の男は丁露という名らしい。
「家に貼ったんだ。俺が出ていくと家は妻と母だけになってしまう」
「病み上がりだったんだろ。無理をするな」
知り合いは丁露に優しく声をかけるが見物人は大勢いてひそひそと小声で話している。
視線は疑いや厄介者を見る目だ。
「この辺に暮らしている皆はちびっ子だって泳げるし水鬼が出たことなんてない」
「そうだ。川で死んでも骸は回収してきちんと弔っている」
謝砂の耳にも聞えてきた。
「あの、謝家の仙師様。奇怪なものは俺が連れてきたんでしょうか?」
瞳の奥で怯えながら丁露がきいた。
ひそひそと噂が立つ前に言わないといけない。ぐっと袖を掴んで握りしめた。
「違います」
謝砂は集まった人たちに聞えるように大きな声で言った。
「捕らえたのだから気にする必要はありません」
「あれって謝家の若宗主と桃家の公子では?」
謝砂に覚えがないのだが集まっていた若い街の娘たちの一人が言った。
話の流れが完全に切り替わった。
謝砂たちは見物人を押しのけた街の女子たちに囲まれた。
「絶対そうよ」
「見間違いじゃない? ここは嶺家の仙師しか来ないわよ」
「あの顔立ちですもの。忘れないわ」
(そうですよね。爛に続いて桃家の師弟たちという綺麗な人たちを引連れてますよ。男ですけど美人です)
「嶺家に荷を届けに行ったときに若宗主の謝砂様を見たことがあるの」
(意外と人気があるのかも)
「あの冷え切った目は忘れられないわ。直接合わせたら夢に出てくるわ」
(なんか悪夢扱いされてないか)
「華積の桃爛様に氷雪の謝砂様よ」
「桃家の公子たちがわちゃわちゃしてる様子は心が洗われるようだわ」
街の娘にご婦人たちも合流して話が盛り上がる。
顔を赤めながら話しているが桃家の公子たちは捕らえた水鬼の数でも揉めているのが仲良く見えるようで聞えてないらしい。
謝砂の目には桃雪児と桃常が水鬼の捕らえた数で揉めていて桃柚苑と桃展が間に入って言い聞かせているようにしか見えない。
「眼福です」
隣の爛を見ると数名の女の子に拝まれている。
「見ろ! 嶺家の方だ。場所を開けろ」
集まっていた一人が川を指さして叫んだ。
十人ぐらいの集団が御剣して川の上を飛んで来た。
ぽっかりと場所が開けられると謝砂の前に2列になりふわりと剣から降りた。
「謝砂様、私は嶺家から来ました。騒ぎに間に合わず申し訳ございません」
代表者は謝砂が顔を見る前に頭を下げると一斉に頭が下がる。
「謝る必要はないから普通にしてください。どうすればいいんだ爛?」
おもわず謝砂は爛の後ろに隠れた。
爛と霊弦で繋がれた腕をくっと引っ張ると爛の手の甲が当たった。
「謝砂が指示を出したらいい」
「何も知らないのに言えない」
「さっきは違うと言えたじゃないか」
「はったりだ。なんか言わないとその人のせいにされてしまう」
「他に溺鬼はいないか調べる。川に捕らえた水鬼を街にある義荘に運ぶ。話はそれからにしよう」
「分かりました」
爛の指示に嶺家の門弟はさっと立ち上がり二手に分かれた。




