26話6胡麻団子
謝砂が厨房にいくと桃展と桃常が混ざっていた。
顔に白い粉を付けてる。
謝砂は邪魔にならないよう運ぶ人が運び終わるまで待っていた。
出来上がった料理は大広間と外に設置された祭壇に並べているらしい。
謝砂が判断できたのは祭壇に運ぶのは女性だったからだ。
一列に並んで手に持ち運んでいたが謝砂に気づいたというより、正確には後ろにいた爛を見て目を逸らせては顔を赤らめ出ていくという繰り返しを十数人見たからだ。
「姜ちゃん以外のお嬢さんって謝家ではじめて見た」
謝砂のお嬢さんという言葉に爛は「ぶっは」と噴き出した。
(お嬢さんっていうしかないだろ。他に何て呼べと。お嬢さまのほうがいいのか?)
「普段はすれ違わないよ。今回は中秋の月行事で特別なんだ。月と関係のある女子が執り行うという謝家のしきたりがあるから姜が取り仕切ってるんだ。人手が足らないから柳花にも手伝わせてる」
(柳花が来た理由は手伝いだったのか。遊びにきたのだと思ってごめん)
謝砂は心の中でそっと謝った。
「ずっと姜ちゃんが取り仕切ってたの?」
「謝理理殿が嫁いだあとからは姜が引き継いだが取り仕切るのは初めてのことだ」
桃展が爛に気づいて近寄ってきた。続いて桃常も来る。
「爛様のおかげで早く作り終りましたと姜殿が先ほど来られて言っていました。僕たちも手伝うことは終わりましたよ」
爛は本当に月餅を作っていたらしい。
謝砂は爛が作った月餅は取り合いになりそうな気がした。
「柚苑と雪児は?」
爛が桃常に聞いた。
「一緒にいますよ。梱包を手伝ってたので、ほら戻ってきました」
桃常が言うと謝砂の後ろに立っていた。
「爛様、謝宗主会いたかったです」
爛に柚苑が抱きついた。
雪児は泣くのを我慢しているように見えて謝砂は肩にトンと手を置いた。
「お互いよく頑張ったよ」
「謝様も手伝いがあったんですね。僕たちは包むのが上手くなりました。手伝うことは残ってませんよ」
桃家の師弟なのに謝家の手伝いから思考が離れないようだ。
「手伝いじゃない。えっと団子を作れる粉はあるかな? 餅粉がいいんだけど」
甘い菓子が出回っているようだから砂糖もあるみたいだ。
砂糖も塩も高価なものというはわけでない世界で食の好みもあう。
異世界なのに美味しいご飯を食べれていることは毎日感謝しているが月見に団子は譲れない。
「ありますよ。お団子ですか?」
厨房は広いようで奥から料理人のような貫禄のある女性が出てきた。
白い割烹着がよく似合ってる。
「丸めて団子を作って皿の上に山にするんだ」
「胡麻団子ですか?」
さすが料理人。話が早い。
(胡麻団子でも形は丸いし並べたら雰囲気は一緒だ。味のない団子よりも美味しそうだ)
「そうだ。胡麻団子も欲しいから作ってくれ」
「はい。任せてください。餡も残ってますから作れます」
調理人は手早く手伝う間もなく出来上がった。
胡麻もこんがりとした黄金色で縁起がよさそうに見える。
「美味しそうですね」
色白の手が調理人の後ろからすっと伸びてきた。
驚いたのは謝砂だけじゃない。近くにいた雪児も怖かったらしく二人で「うわっ!」と叫んだ。
「柳花師姉! どこから来たんですか?」
柳花が気配なく突然声がして桃常は思わず手に使い終わった月餅の型を握りしめた。
柳花は口の中に団子をポイっと入れてもぐもぐと口を動かす。
謝砂の後ろの出口ではなく厨房の反対側を指さした。
ごくんと呑み込むともう一つ掴んで指をさした方に差し出した。
「瑛もいますよ。瑛おいで」
瑛は壁に隠れていたようだが胡麻団子につられて出てきた。
柳花が持った団子の匂いを嗅ぐが初めてみたのか警戒している。
受け取ってもいいのか柳花の顔色も伺い迷ってるようだ。
瑛は姜には懐いているが柳花とも打ち解けてはいるように見えるが、柳花は姜がいないと目が鋭く表情が乏しいので怖く見える。
(まだ顔色を伺う習慣は直らないか。まだ子供でいていいのに)
瑛は自分の子供の時と顔色を伺う仕草がよく似ていた。
謝砂は胡麻団子を一つ手にとり半分に割った。
出来立ての熱さは防ぎようがなくて息をかけて冷ます。
「熱っ! ふぅ。ふぅ。瑛ほら半分こしよ」
瑛に差し出した団子に謝砂に近寄り受け取り小さな口をもぐもぐさせる。
いい匂いにつられて出てきた瑛に謝砂は急に心配になった。
「お菓子につられて知らない人についていかないように言い聞かせないと」
「謝砂とそっくりだ。謝砂が気を付けないと」
「どこが似てるんだ? 怖がりはそっくりだけど」
「食い意地が張っていて、人についていくところ。知らない人にはもらってはいけないよ」
謝砂は手に持っていた半分の団子を爛の口の中に入れて黙らせた。
「胡麻団子も供えるのですか?」
柳花が謝砂に不思議そうに尋ねた。
「月にはうさぎが住んでいて餅をついてるんだ。だから月見のときは団子を供えるんだ」
謝砂がいうと桃展、雪児、柚苑と立て続けて言われる。
「そんな話は聞いたことありませんよ」
「うさぎですか?」
「わざわざ月で餅つきをしてるんですか?」
「瑛に話してるんだ。ずっと月を見上げてはうさぎがいると信じてるから笑いたければ勝手に笑え。散々笑われてきたから慣れてる」
「私は謝砂が言うなら信じるよ」
謝砂は爛を見た。からかっているわけでもない。
「謝砂が言うことはすべて信じる」
爛は謝砂にもう一度繰り返して言った。
謝砂は胸の奥から感情があふれ出しそうになった。
ずっと信じてくれる人、信じてくれる友と呼べる存在が欲しかった。
話しても自分には見えないと否定されるならいいが拒絶されるぐらいなら一人でいいと思って他人とは距離を取っていたのに隣にいる人たちは呼吸するように自然と言った。
馬鹿げてるというのに信じてくれるんだ。
月のうさぎを信じてくれるのなら謝砂のことを信じて受け入れてくれるに違いない。
謝砂はくっくっと袖を引っ張られた。
「瑛もうさぎ好きだよ。謝砂が笑われるなら瑛も一緒がいい」
(恐ろしいぐらい可愛い。上目遣いまでマスターしてるじゃないか)
「そうですね。だれもうさぎが住んでいないとは言ってません」
瑛のあとに桃展言うと師弟たちは勝手に内輪で議論し始めた。
「うさぎは神の眷属ですから神獣として月で飼われているかもしれません」
「謝宗主に訊いたのはうさぎが餅を食べているのかです」
「謝宗主が言うならうさぎが食べてるんでしょう」
「あはははは」
謝砂は我慢できずに声に出して笑った。
「嘘だったんですか?」
謝砂の笑いに桃常が聞いた。
謝砂は慌てて否定する。
「嘘じゃないよ。うさぎで真剣に議論してるのが可愛くて」
「謝宗主!」
謝招功が謝砂を呼びに来た。
「皆さんも厨房にいたんですね。月が出てきたので正門を開けました」
「分かった。皆で月見はじめようか」




