26話3
姜は柳花と並んで歩きその後ろをぞろぞろとついて歩く。
謝砂は瑛を降ろしてもらい手を繋ぐ。
瑛に忘れられていなくてほっとした。
謝砂は師弟と同じようにきょろきょろと屋敷を見渡す。
目に入るのは足元の砂利、塀の竹と岩。桃家の華やかさとは真逆の趣だ。
師弟や門弟とすれ違わないのはなぜだろうか。
謝家も大世家の一つに呼ばれるのに値する広い敷地の屋敷で憶えられそうにない。
「あの、門弟の方々は今修錬の最中ですか?」
後ろから桃常が尋ねた。
「修錬があるほうが喜ぶでしょうね。謝家の月餅作りは作る数が多くて気合がいるんです」
「中庭の修錬場は提灯と灯篭の準備しているので使えません。申し訳ないのですが男性の客室がご用意できずに桃家の公子殿は爛様の室を整えましたので案内いたします。招功師兄」
廊下を歩いていたが一室の前で立ち止まり名を呼んだ。
『筆符室』と書かれていた。
姜が呼ぶと白色に燕模様の刺繍がされている枹を纏ったの青年がうれしそうに部屋から出て来た。
扉が開けられた隙間から部屋を覗くと十人ぐらい整列された机に座り黙々と筆を滑らせている。
一人ずつ箱が置かれて分厚く溜まっているように見えたがすぐにぴしゃっと扉がしまった。
姜が手のひらを翻し閉めたようだ。
招功の頬がやつれて見えたのは気のせいだろうか。
整った顔を毎日見ていたからだろうか耐性がついてきて驚かなくなった。
桃家の見た目の華やかさはなくても整った顔だちは知的で賢い印象を持つ。
「桃家の公子こちらにご案内いたします。謝招功です」
招功が「ちょっと失礼」と桃展たちを順番に袖から腕を出させた。
指を手首から指先に向かってすっと滑らせる。
「公子たちは霊力が乱れていますので補う薬を用意します。あと爛様も無理はなさらぬように」
「謝家の中秋節は大勢人が押し寄せる。桃展たちも後で手伝いなさい」
「わ、分かりました」
桃展は指名されて一瞬言葉に詰まったが招功の後ろについて歩いて行った。
柳花は
「謝家の中秋節は一大祭ですよ。数日しかありませんので気合をいれてください」
「お兄様は自室ですか? 爛様はご一緒でも構いませんか?」
「うん。いつも私が使っていた室を師弟たちに使わせるから姜に迷惑はかけない」
「気遣いに感謝します」
謝砂の部屋だと言われたが書庫のようだった。
巻物に書物、木簡が卓の上に積み上げられている。そして卓の下には半紙のような薄い紙ががばっと入った木箱も置かれていた。
棚にも書物が詰められている。
「書に囲まれてるのか好きだったのか?」
「謝家の報告書に術書、書き写しをする古い書物。謝家は他家には理解できない修復術に関する書物が多く、扱う呪符も多いからまとめて宗主が管理していたんだ」
(好き嫌いじゃないんだ。謝宗主の座って頭がよくないと務まりそうにないよな)
「なんで書物に燕が描かれているの?」
すべてに燕が透かし絵のように描かれてた。
爛が説明をする。
「謝家の家紋が燕だ。血の繋がる一族は大きな白金の燕と白銀の燕、門弟や家僕はそれ以外の燕模様。中秋節に顔を合わせても覚えておけば家の者だと分かるようになる」
「中秋節ってお月見のこと?」
(中秋の名月っていうよな。あと旧盆のことだっけ? 他のことが思い出せない)
「月見も含まれてるよ。市中にしてはお祭り事も兼ねてる。謝家は先祖供養や家内安全、子孫繁栄その他諸々の呪符を仙府の民も求めにくるから呪符づくりも同時に忙しい」
「呪符作りもしてるのか。すごいな」
(だからさっき呪符を書いていたのか。呪符なのに家内安全とかあるのが不思議だけど受け入れよう。呪符はアレンジが効くんだな)
「謝家荘に他の小仙家も大山家も呪符を求めに謝家に押し寄せるからそれまでが忙しいんだ」
(親戚も集まるお盆なんだな。しかし家僕とか門弟とか理解ができないのに家系図があったとしても誰が叔母とか叔父とか親戚分からない。親戚付き合いは小学校までしかしたことない)
「それで月餅は美味しい?」
「謝家の月餅は餡に小豆の中に入った胡桃が美味しんだ」
「謝砂様! 謝宗主!」
室の前で呼ばれた。
爛が扉を開けると先ほどの招功が立っていた。
なぜだかきょろきょろと周囲を警戒している。
「あの、部屋には爛様と謝砂様だけですか?」
「姜ちゃんも柳花もいないよ。部屋の中で話そう」
謝砂が言うと安心して招功は部屋の中に入った。




