五星芒術
「珍しいものが見れてよかった」
爛は立ち上がりながら言った。
足の力が入らない謝砂も爛の腕につかまって立ち上がった。
(珍しいって自分の笑った顔を自慢しなくても。清楚美女の有眉さんですら見とれる美しさは自賛しても嫌味にもならないな)
有眉が謝砂を見ていたようで一瞬視線がかちあうとすぐに爛に逸らした。
(嫌われた!)
「謝宗主の笑みを浮かべた顔を初めてみました」
(嫌われてるっていうか怖がられてる。生きてたら笑いもするだろ。感情を顔に出さない主義だったとしても引き継ぐのは無理だな)
「貴重な瞬間を目撃したので生きて帰られるような気がします」
(一切表情がなかったわけじゃないのか。それならいいか)
「理理が言っていた通り優しく笑うんですね」
「えっ?」
独り言のような有眉の言葉に理理の名を聞くと胸がきゅっと締め付けられたように苦しさを感じた。
剣の音が一瞬聞えなくなると砂利の上を滑るようなズサッササーと滑る音が響いた。
謝砂の近くに桃展、柚苑、雪児が弾かれて飛んできた。
展は自分で壁を蹴り宙がえりで着地する。
雪児は爛が手のひらで背中を受け止めた。
「ちょっと! おぅ」
謝砂は受け止めるつもりはなかったのに柚苑が吹っ飛んできた。
柚苑の下敷きになって地面に倒れた。
「――くない」
柚苑はぎゅっと瞑った目を開けた。身を起こし怪我がないことを確認すると喜んでいる。
謝砂は小さく呻いたが柚苑は気がつかない。
「なら立ちなさい。下に謝砂がいる」
爛は柚苑に下っと指で教えた。
謝砂はしかめっ面で眉を寄せ振り返った柚苑の顔をみた。
本当に気づかなかったようでポカンとして反応が遅い。
「無事ならどいてくれ」
「ご、ご、ごめんなさい」
柚苑は慌てて謝砂の上から退いたが衝撃を謝砂が受け止めてドンと息が苦しかった。
謝砂は柚苑に両手を引っ張り立ち上がらせた
お詫びのように謝砂の背中についた汚れを手で払ってくれる。
有眉はすでに石像があった土台の上に立ちを陣眼を作っていた。
謝砂の渡した剣を胸の前に持つ。
手のひらを刃に滑らせるように切り血を出すと輝く朱色の陣が現れた。
そのまま剣先を土台に突き刺すと湖の上に陣が広がった。
「準備できました!」
剣の刺したところから一筋書きで星が描かれれる。
妖龍は宙に浮かんだまま泳いでいるが動きがおかしい。
何かを振りほどくようにくねくねしている。
謝砂は妖龍がウナギや魚がうねるような苦手な動きに血の気が引いた。
「桃常はどこにいるんだ? 陣をつくるのに必要なのに」
「謝宗主!」
「柚苑どうした?」
「尾をよく見てください。桃常がしがみついてます」
謝砂は目を凝らした。
剣を握りしめたまま両手と両足を使って細長い尾にしがみついていた。
謝砂も湖まで駆け寄った。
「うわっ! くっ!」
叫ぶ声が聞えるが妖龍が重さを付けられて嫌がっている。
「桃常! ついでに止めを刺せ!」
謝砂はこれはチャンスだと考えた。
桃常が妖龍を刺して弱らせたら怖くない。
「無茶です」
妖龍の尾を握る腕に力を込めたのか方向転換をして謝砂に顔を向けた。
「方向を変えるなら天井だろ! 操ってくれ」
謝砂が言い合っている間に爛は指示を出して陣の星の角に立たせる。
「分かりません」
(知らない、分からないはこっちのセリフだ)
ギラっとした瞳が謝砂に向けられる。
「爛!」
名前を呼ぶ前には妖龍が謝砂をめがけて頭を突っ込んできた。
妖龍の動きが一瞬止まり隙が生まれた。
避けることもできたが手には筆を呼び出した。その仙筆に霊力を注いで字を宙に綴った。
浮かび上がった字にめがけて手のひらに一撃を込めて払った。
妖龍の頭がぶつかる前に蒸気爆発のような衝撃で妖龍を弾いた。
湖に妖龍が落ちる前に捆妖陣を有眉は発動させ妖龍を閉じ込めた。
陣に打ち付けられた妖龍は陣から出ようと暴れながら動きまわる。
爛は謝砂に突っ込む前に妖龍の尾を素手で掴んで動きを止める。
片手で雪児の後ろ衿をぐっとつかんで一緒に離れた。
爛の手のひらは血だらけになった。
爛は地面に着地すると陣が張られた湖の隅に桃常を行かせる。
既に陣眼は完成していて桃常が空いている一か所に立ち剣を刺すと五星芒術が完成して妖龍を朱色の紐で縛りつけて動きを封じた。




