2章2
「行くのは明日にしようよ」
謝砂は町から出るだけでも嫌がり桃常と桃展に片腕ずつ掴まれてずるずると連行されている。
それも爛が師弟に言いつけたからだ。
爛は謝砂の後ろで眺めてくすくす笑う。
「謝宗主、ご存じでしょうが昼間でも妖獣や怪は出ますよ」
桃展が説明したが謝砂は納得できない。
同じ出てこられる夜よりも昼間のほうが怖さがほんの少し和らぐとは考えないらしい。
「せめて馬車にしてくれないか? 何も見たくない」
駄々をこねぐずりながら諦めてもらえないか必死に抵抗した。
「さっき聞いた話は作り話かも知れない噂話ですよ」
桃常もあとからフォローしてくる。
「ほら、ここから近いので歩きましょうね」
これ以上抵抗しても無駄のようだ。
「先頭は歩きたくない」
「それでもいいですよ。どこならいいんですか?」
謝砂はすごく悩んだ末に思いついたことに桃展が聞く。
「真ん中なら歩くよ」
謝砂は先頭も嫌いだが列の最後も怖いし歩けない。
安全なのは真ん中だ。囲まれているほうが一番安全だ。
「分かりました。歩いてくれるならどこだって構いません」
桃展が受け入れ返事をし桃常はため息をついた。
爛も頷いて列を直してやっと町を出た。
先頭に桃常と桃展、真ん中に爛に謝砂、後ろに柚苑と雪児で行動した。
今は六人で行動しているが後ろにあと数人続いている。
数えてみると自分を含めて十二人ぐらいいた。
「えっと君たちは?」
「桃柚苑でこっちが桃雪児」
キラキラとまぶしい美しさはみな同じだ。
ちゃんと見ていなかったが柚苑はやや垂れ目のせいか雰囲気も優しく話し方もゆっくりだ。
雪児は名前のとおり色白だ。切れ長のきりっとした目をした綺麗な子だ。
「ずっと後ろにいたから名前を聞いていなかったね」
「謝宗主じゃなくて謝砂と呼んでくれないか?」
(宗主って呼ばれるたびプレッシャーで胃痛になりそう。爛みたいに名前を気楽に呼んでくれる方がマシだ)
「僕たちには無理ですよ。家が違うので師兄とも違いますし、別の呼び方ってありますか?」
「じゃ先輩? 謝砂兄さんでもいいよ? 君たちより年上だよな?」
謝砂は言い切れずに疑問で聞いた。
雪児が答えてくれる。
「そうです。謝宗主は今年二十歳でしたよね」
「おい爛、十代って言わなかったか?」
「だいたい十代だ。私からは見たら謝砂は若い」
爛はしれっと答えた。
歩いているうちに川に沿ってだんだんと渓谷に入っていく。
カサカサと草が擦れる音がするたびに「うわぁ!」「ぎゃ!」と叫び警戒する。
謝砂にすっかり慣れた師弟たちは「風です」と叫ぶたびに教えてくれた。
「大丈夫です。まだ妖気や邪気は感じません」
何かが叫んだ声がした。
爛が手をあげ剣の柄を握る。
謝砂は後ろを振り向いた。
「なんか人が増えてない?」
人が消えるように減っているよりは増えていてもいい気はした。




