茶薬屋
門をくぐり町のなかに入ると人で賑わっていた。
驍家荘の近くの町よりもずっと人が多い。
謝砂は歩いているとすぐに人盛りができている店を見つけ足を止めた。
動かない謝砂に爛は師弟たちに先に宿を取りに行かせた。
客は皆小さな小瓶を握りしめて出てくる。
店の前に立ち見上げると『茶薬屋』と書かれている。
謝砂は気になってふらっと店内に足を入れ爛も続いて入った。
店内の奥に前にずらっと並んだ白い陶器の小瓶。
眉麗山湧水と札がある。
「ここは薬草茶を扱う店です」
謝砂は客が落ち着くまでと店内を見ていると店員の男性に声を掛けられた。
「湧き水を求めにこられたのでしょう。ここが湧き水を売ってる店です」
謝砂は隣の爛をちらっと見たが爛はトントンと小瓶を指で軽く叩く。
ここで話を聞けということだと理解し謝砂が店員と話すことにした。
「湧き水は美味しい?」
「美味しいだけじゃないですよ。薬を一緒に飲めば効果倍増だ。治りも早い」
「湧き水なのに?」
疑う謝砂に店員は説明を始める。
「うちの湧水は美麗山にあるあの祠で祈祷したから病気も治る医者いらずの名水ですよ」
「祠にはそんな力があるのか?」
謝砂は大げさに驚いて尋ねた。
芝居っぽいが店員は話したかったようで詳しく話を教えてくれる。
「祠に拝みにいけばご利益がわかりますよ。
祠には山からの湧き水が溜まって出来た湖に大きな石像がありまして」
「どんな石像?」
「龍のようにも蛇のようにも見えてるから近くの村人たちと旅人たちが拝むようになったんだ。旅人たちが話を広めたおかげでこの町にも立ち寄る客が増えて商売繁盛にあやかっています」
「湧水の隣に置かれてるのは?」
「ハト麦、クコの実、薔薇など色々を混ぜ合わせたここだけしか変えない茶葉ですよ」
「香りがよさそうだね。人気があるなら水と一緒に買うよ」
「女子に贈り物として喜ばれます」
「縁結びにご利益があって子宝に恵まれるとお嬢様や奥様方に評判で家僕も大勢連れてここに立ち寄られて湧き水と一緒に薬草も揃えているんです。美肌も殿方を魅了する一つですから」
謝砂を手招き顔を近づくと口元を他から見えないように隠す。
「妓女たちも飲んでるんですよ。肌に騙されてはいけませんよ。お相手は慎重に選んでください」
「忠告ありがとう」
(妓楼に持っていくと思われたのか……。寄れないのに)
「いえいえ。大事なことなので」
「いくらだ?」
「はい。全部で銀子が――になります」
謝砂は値段を聞いても理解できない。
なぜかこの頭は銭のことを知らないし憶えられない。
爛が懐から巾着を取り出して先に支払う。
「買ってくれるのか?」
謝砂が聞くと「うん」と爛は頷いた。
「謝砂が欲しいものは私が払う」
「姜ちゃんから金はもらったよ」
「それでもいい」
謝砂は出発前の準備しているときに姜からお金の入った巾着を渡された。
謝家は金持ちなんだろうが実感がないのはお金の値が理解できないからだ。
感覚も招魂のときに引き継がなかったのは支払うということがなかったせいじゃないかと考えた。
欲しいものを自分で買うことがなく、興味や関心もなかったのなら納得できる。
「すみませんが水はある限りなんで、お一つでお願いしています」
「一つでいい」
爛から代金を受け店員が申し訳なさそうに説明する。
「湧き水は祠ではないんですけど塵家の目が光ってるので近寄れません」
「乾燥した黒豆はあるか? あったら一握り分くれ」
「ありますよ。黒豆は別の袋にいれて差し上げます」
「いいのか? 店主に怒られない?」
「若君ご安心を。店主なので個数制限に協力いただいた礼です」
「ありがとう」
謝砂は爛に買ってもらったが荷物は爛が持ち店から出た。
桃常が手を振り「ここです!」と離れたところから叫んで場所を知らせた。




