羽交い絞め
屋敷の外は賑やかな都が広がっていると勝手に思っていた。
都の中心とかに建っているものとだと。
「わぁ大自然」
「大仙家はこんなとこが多い。霊脈が湧いているところに屋敷がある」
「ねえ、町は? 馬車は?」
「馬よりも御剣したほうが早い。塵家についてから馬車か歩いて祠に行く」
「そんな細い剣の上に立つのか?」
「当たり前です。謝宗主どうかされたんですか?」
桃常が謝砂に聞いた。
謝砂は手が震えみるみる顔が青白く血の気が引いていく。
爛に言われて師弟たちは剣を抜いた。
「御剣なんてできない。爛、馬車で行こう」
謝砂の話に師弟たちは戸惑って剣をどうすればいいかためらっていた。
御剣が嫌だと叫んだ者をみたのは初めてだろう。
「私が謝砂を乗せる」
爛がいうと師弟たちは一斉に頷いて浮かんだ剣の上に立った。
「とりあえず降ろしてくれ」
爛は担いだままだった謝砂を降ろす。
地面に足が着くとそのまま爛の後ろからしがみついた。
ギュッと腕に力を込めて羽交い絞めにする。
重みをかければさすがに身動きがとれず馬車にするだろう。
「馬車にしてくれたら放す」
「このままでいい。連れていく」
爛はすでに鞘から剣を抜いていた。
謝砂ごと軽くジャンプして自分の剣の上にふわっと乗った。
「うわぁぁ」
今は地面から浮かんでいるとはいえ超低空で約50cm。
一枚の頑丈な板の上に立っているようで安定している。
「高いところが怖いんだ。低空で飛んではくれないか?」
「怖いならしっかり掴んでたらいい。前みたいに抱えてやろうか?」
「見えないほうがいい。うぎああああ!」
爛の後ろにしがみついたまま突然ふわぁっと地面が見えなくなる高さまで上がった。
一切何も見ないと決めて目を瞑る。
「どうか落ちませんように」
祈るように手を組み指に力を入れた。
「いい景色なのに見ないのか? 風が気持ちいだろ」
爛に聞かれても答える余裕はない。
師弟たちも話しているのだがまったく聞き取れない。
爛の後ろにくっついているおかげで風を受けなくて済んだ。
謝砂は指が痺れるぐらい力を入れ、落とされないようずっと願っていた。
「着いた」
謝砂の耳に待望の言葉が聞こえた。
薄っすらと目を開けると言葉通り地面が近い。
一メートルぐらいの高さに浮かんでいる。
すでに師弟たちは飛び降りて剣を鞘に戻した。
掴んでいた手を放そうにも指は強張っている。
ふわっと足元が浮かんだ。
階段を一歩踏み外した感覚は足場になっていた剣がないと言うことだ。
謝砂が尻もちをつかずに両足で着地できたのは爛のおかげだ。
「放してくれないか? 町のなかに入る」
謝砂は爛に言われて町の中までくっつく必要はないと手を放そうとするが指が硬直している。
「ちょっと待ってくれ。ふんっ!」
謝砂はぐぐぐっと両手を引っ張りはがした。
「悪かった。ごめんな」
「塵家荘に行く前に町で調べたい。早いが今日は宿に泊まり夕餉にしよう」
「塵家に泊まらないのか?」
「泊まらない」
爛が不機嫌そうに眉を吊り上げた。塵家が気に入らないらしい。
桃常が謝砂に近づき爛に聞えないようこっそりと耳元で知らせる。
「謝宗主が言ってはもともない。爛様は謝宗主が嫌がると思って気を使っているんです」
爛が塵家に泊まりたくないんだと思ったが師弟たちの手前言わないでおく。
「宿って決まったところがあるのか?」
謝砂は爛に聞き直した。
「寝るだけでいいなら各地に小さい家はある。謝家もある」
「うーん。妓楼はだめか?」
姜も瑛も柳花もいないし女の子もいない一行だ。
行くなら今が最適に思えて口に出した。
聞えた師弟たちはみな耳まで真っ赤になった。
妓楼という場所はあるらしい。
興味のなさそうな桃展までもが赤い。
爛は興味が一切ないようで表情も顔色も変えない。
「行きたいのか?」
興味があってどんな雰囲気なのか招魂された特権として一度ぐらいは行ってみたい。
妓楼で一番人気という絶世の美女をこの目で拝んでみたい。
家宴で美女たちの舞を見てから妓楼もあるのかと考えていた。
綺麗なお姉さんたちの芸を見て楽しみたい。
目の前に今まで見たことがないぐらいの美人たちがいるがそれとは違う。
「話を聞くなら酒楼か妓楼が一番だろ。最近何があったか皆が噂している」
爛に素直に下心を言えず理論を述べた。
師弟たちは話を挟むことができずにもじもじとしてる。
爛はちらっと師弟たちを見た。少し考えたあと首を横に振る。
「妓楼はだめだ。師弟たちもいる」
「分かった。酒楼に行こう。町の中で一番ご飯がおいしい名店を探そう」
謝砂はご飯さえおいしければいいと気持ちを切り替えた。
行先が酒楼に決まり師弟たちはすこし悲しんで見えた。
(今度一緒に行ってみような)
謝砂は師弟たちと心の中で約束を交わした。




