出発の日
翌朝、準備を終えてた爛と謝砂は爛の部屋の入口に座っていた。
「お兄様顔色が悪いですよ」
爛の部屋を訪ねた姜は出てきた謝砂の顔を見てすぐに言った。
「顔が悪いんじゃなければいい」
目をギュッと閉じて開くと何度か瞬きを繰り返す。
謝砂の目つきが悪くなる。
「えっと酒臭くはないですね。目つきは以前みたいなので気になりません」
謝砂は夜通し起きていた。
寝ようかと思ったが太陽が昇るほうが早い。
朝日が注いでからうたた寝したがすぐに爛に起こされた。
朝日と入れ替わるように眠っていた生活習慣を引きづっているのか、
遠くに遊びに出かける前日に眠れないと同じで神経が高ぶって眠れなかった。
謝砂にとっての遠出するは恐怖で神経が高ぶって眠れない。
同じようで全然違う。
頭で考えてしまって眠れず朝になった。
「謝砂様、どうぞ」
姜に言われたのか瑛が濡れた手巾持ってきて謝砂に渡した。
しっかりと絞れていなくて冷水がポタポタと滴っているがどうでもいい。
「ありがとう」
服が濡れたって乾く。
謝砂は感激して絞り直さず受け取り目の上に置いた。
「冷たく、て、いいよ」
口を開けると水が入り話しづらいが水分補給も考えられている。
ずっしりとした重たさもちょうどいい。
「目も覚ませ」
爛はあきれたように言う。
謝砂の顔の上から濡れた手巾をとり顔の上で絞った。
「わっ!」
謝砂は口を慌てて閉じたが鼻に入りツーンとした痛みが襲う。
顔を水で洗ったようにぼとぼとの状態になっている。
爛は笑いながら瑛を抱っこして「よくやった」と褒めた。
爛に怒りたいが瑛は手伝っただけなのに怒れない。
謝砂は姜に乾いた手巾を貰い拭いた。
「姜ちゃんは一緒に行かないの?」
「この度はついていきません。姜は謝家にもどります」
「瑛は一緒に行く?」
謝砂は爛に抱っこされてる瑛の手を握って聞いた。
瑛は首を横に降り断られた。
「爛様! 謝宗主! 準備出来ました」
桃展が弟子の代表で呼びにきた。
爛の室前に数名が2列に並んで待っている。
爛は瑛を降ろした。
「いってらっしゃいませ」
謝砂が手を握ってない右手で姜は手を振った。
「お兄様早く手を放して」
姜に瑛から剥がされた。
「一緒に帰ったらだめ?」
「お兄様の名誉に関わります」
「名誉なんてくだらない」
謝砂が嫌がる様子に桃展はやや驚いたようだが黙って待っている。
「寄り道ぐらいして帰ってきてください」
「ひとりで帰りたくない」
謝砂は膝をついて瑛をぎゅっと抱きしめる。
名残惜しそうに瑛の柔らかい髪の毛を撫で苦しくないよう手を放した。
今にも泣きそうな謝砂の頭を瑛が撫でてくれる。
「謝家の門に着たら分かるので、瑛と一緒に迎えに行きます」
今回は様子を調べてくることが目的なので柳花も柳鳳も一緒に行かないらしい。
どちらかひとりは居てほしかった。
「帰るときは私も一緒についていく」
立ち上がろうとしない謝砂の襟首を爛にぐっと掴まれた。
「仕方ないけど、もう諦めて」
謝砂は爛の肩に荷物のように担がれた。
爛は見かけによらず力が強い。
展は口をぽかんと開けてあっけに取られていた。
爛は数歩進んで立ち止まり展に顔を向けた。
「待たせたね展、皆のところに行こうか」
爛が方向をかえると遠心力で目が回りそうになった。
「あっ。はい。謝姜殿、瑛殿失礼いたします」
桃展はしっかり瑛にも挨拶をして爛の後ろを歩いた。
しっかりと腰を支えられているから地面に落とされる心配はない。
謝砂の体重が軽いわけではないのだが爛にとっては重くないようだ。
謝砂は姜と瑛に手を伸ばしたが塩対応だ。
「謝砂を忘れないでくれ。ちゃんとご飯も食べるんだよ」
姿が見えなくなるまで手を振った。
爛に担がれたままの謝砂と顔を見合わせることになるため列の先頭を歩く順番を急遽決め直すことになった。
弟子たちは列の先頭を決めるのに「どうぞ」「どうぞ」とお互いに譲りあった。
結果ーー面識があると言う理由で桃展と桃常に決まった。
若干の緊張が漂っている中、謝砂は「やぁ」と挨拶をした。
一緒に行くのは箒を教えた一応顔を知ってる師弟たちだ。
桃家の屋敷は標高が高いところに屋敷が立っていたようだ。
歩かなくていいのは楽だったが、歩く速度が早い。
師弟たちもついて歩いているから普通なんだろう。
謝砂は爛に運ばれていて助かった。
降りろと言われるまで担がれているつもりだ。
山道を歩くことこんなにすたすたと歩けるものなんだろうか。
歩けるように平らに均されて道にはなってる。
謝砂と一緒に歩いているときは歩幅を合わせてくれてたようだ。
来たときは気を失っていて知らなかったが門は鳥居のかたちをしている。
入口を見張っていた弟子が担がれた謝砂を見て驚いたのは一瞬だ。
両手を重ねて胸の前に出し「行ってらっしゃいませ」と挨拶をした。
「爛様、これから歩いて向かわれるのですか?」
屋敷から少し遠ざかったところで桃展が尋ねた。
「御剣して塵家荘近くまで飛ぶ」
「分かりました」




