桃の朝露茶
がざっと足音が後ろから聞こえて振り返ると爛の姿があった。
「爛! どうしてここに?」
「私が聞きたい。ちょうど謝砂を呼びに行こうとしてたんだ」
楽しそうな爛の瞳に嫌な予感がした。
爛に腕を持ち上げられ立たされた。
「明日桃家を出発することになった。桃展、桃常の二人も準備しなさい」
展も常も「分かりました」と両手を胸の前で組んだ。
「それと光霊石はもらっとく」
持っていた常が爛に差し出し受け取ると手のひらの上で遊ぶようにコロコロと転がした。
「いい出来だけど筆先が震えたの? 手のひらですればよかったのに」
「直接霊力を注げるんですか?」
別の光霊石を謝砂の手に乗せ目で合図を謝砂に送る。
(分かったよ。すればいいんだろ)
謝砂は手のひらに握って霊力を注いだ。
じんわりと暖かく熱をおびた光霊石をそのまま爛に渡した。
前と同じように亀裂だったところがぷっくりとした線が浮かび上がた甲羅模様になっている。
「これが謝宗主が霊力を注いだ光霊石だ」
爛は謝砂から受け取ったまま展に渡した。
「今よりすごい。修復師の書に描かれているのと同じだ」
展は隣の常に渡すが、大事そうに両手で受け取り眺め終えると常は展の手に戻した。
「それは展に。常にはさっきの光霊石をあげるよ」
爛は常に手で遊んでいた石を渡した。
「せっかくだからもらっておきなさい」
「あげていいけど、聞いてくれくれないんだ」
あげるつもりだったけど爛があげるのはなにかが違う。
「爛様、ありがとうございます」
展が礼をいうとつづいて我に返った常も礼を言った。
「ありがとうございます」
常も展も大事そうに巾着の中にしまう。
「大事に持ってなさい」
爛が誇らしげに自慢しているように謝砂には感じた。
「明日出発だと姜ちゃんに伝えないと」
「謝砂ふらついたり、だるさはないか?」
謝砂に爛が心配そうに聞いた。
「大丈夫」
「筆に霊力を注いで集中することよりも直接霊力を込めると一気に使う」
謝砂は爛が説明してくれてもちっとも頭が理解できない。
「分かりやすく説明すると?」
「循環とかけ流し。川の流れと一緒だ」
「それでも難しいな」
「もう頭で理解しなくてもいい。体が覚えてるだろう」
爛は謝砂に説明することをあきらめた。
「そうだよ。爛は天才だな」
「だから謝砂の世話ができるんだ」
嫌味にならないから受け入れる。
謝砂は爛と並んで桃樹園をしばらく歩いた。
美人と花の組み合わせは目にもいい。
爛が通ると演出されているみたいに桃の花びらが降り注ぎ鳥もさえずる。
中庭にある東屋で休憩をとる。
謝砂は待っていて爛に茶を淹れてもらう。
「これは桃の花びらについた朝露を集めて淹れた茶だ。桃露を集めた」
「おいしい。まろやかな味で桃の味がほんのり感じるのは気のせいかな?」
首をかしげてもう一口味わった。
爛も一口飲んで謝砂に報告をする。
「姜と瑛は寄り道をしない」
謝砂は何気なく言われた一言に空気も呑み込んでしまって咳込んだ。
「なんで! 姜ちゃんと瑛と離れたくないよ。もっと遊びたい」
「今日のうちに瑛と遊んでおけば寂しくない」
「寂しんじゃない。癒しは必要だ」
「癒しなら他もあるだろう」
「姜ちゃんに任せて、瑛と一緒に外で待ってるっていう考えた理由が無くなってしまう」




