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桃樹園

 樹園は桃の花を咲かせた木が一面に広がっていた。

 入口から散策するのに歩きやすいよう道が整備され、中心には東屋のような休憩場があった。

 庭の中に入っていき、謝砂は花見をするみたいに木に囲まれている場所を選んで腰を下ろした。

「綺麗だな。いつでも花が咲いてるの?」

 謝砂の質問に桃展は答えてくれる。

「霊脈が湧いている場所なので枯れることがないんです。結界と同じ役目をしていると聞いています」

「ここなら隠れられるいい場所だ。それにしてもなんで一人増えてるんだ?」

 桃展の隣にもうひとりいた。

「桃常とここで約束をしていたんです」

「邪魔はしません。門弟でないのに、謝宗主の修練を見れる日が来るなんて感激です」

 二人とも同じ年なのに雰囲気が正反対だが仲がいいようだ。

 展は背景が満開の桃の花でも違和感がない。

むしろ花たちのほうが妬みそうだ。

優雅で貴公子という言葉そのものだ。

常は地味じゃないのに落ち着いていて花より木が似合う。

「やり方を知らないからできなくてもいいと思ってくれ」

 悪いことはしてないが声を潜めて肩を寄せ合い座ってる。

 展から受け取っていた光霊石を手のひらで覆った。

「筆は使わないんですか?」

 桃常が聞いた。

「筆を使ったほうがいい?」

「見たいんです」

「分かった。常君が手順を説明してくれ。その通りにする」

 謝砂がどうするのか説明を求めると怪しまれる。

 手順を勝手に話してくれるなら従えばいい。

「筆を持つか、指先から血を絞る」

「血を出すの? 針で?」

「噛むか剣の刃で切ります」

 指を噛むのもまず嫌だが、血を出すなんて痛いことは絶対したくない。

「血を流すなんて怖いことしないからな。それなら筆にしよう」

 謝砂は手首を翻して筆を出した。

「仙噐の筆は霊力を流すことで筆先が墨を付けたように呪符や術も札がなくても書けます。しかし霊力を先に溜めるので難しいんです」

(筆でも墨をつけて書くほうじゃなくて霊力がインクの代わりになった筆ペンって思えばいいのか)

 常と展が交互に説明する。

「血も同じで呪符も書くことができますが師兄たちは指を噛んで呪符の代わりに使うんです」

(血が墨なんだな。自分で噛んで血を出すなんて出来っこない)

「あっ違うだろ。桃常、たしか術は使えても血を流しても修復はできないはずだ」

「そうだった。勘違いしてた」

「二人ともしっかりしてくれ。次は亀裂をなぞればいいのか?」

「糊をつけたように亀裂の間を塗ります」

 謝砂は説明を疑いながら筆に霊力を込めた。

 筆を持つ手がほんのり温かく感じると霊力が流れてるとわかった。

 そのまま光霊石の亀裂を筆先でなぞる。

 謝砂が直している間息をすることも忘れているようだ。

 なぞった亀裂はピシピシという音とともに塞がりはみ出したようにわずかに筋が残る。

 謝砂は光霊石をぐるっと一周なぞり筆をしまった。

「これでいいのかな?」

 姜に渡されて霊力を込めた時と塞がり方が違っていた。

 手のひらで霊力を込めたときのほうが太い線の甲羅模様だったが、

 筆を使った今回は薄っすらとした繊細な螺鈿細工のようにキラキラしている石になった。

「「すごい!」」

 興奮しているように声を合わせて桃展と桃常の二人はぐいと身を乗り出し謝砂に顔を近づける。

 謝砂の心臓は突然のことに驚いて一瞬止まりかける。

「うわぁ! これはやるから下がってくれ」

 桃展の手に光霊石を渡して謝砂は深呼吸をして落ち着かせる。

「話には聞いたことがありますが、見たのは初めてです」

 二人はいろんな角度から石を観察しあっていた。

「聞きたいんだけど、桃宗主は若く見えるだけ?」

 常が答えてくれた。

「爛様の叔父上ですが三十五歳です」

「あれで叔父さんなの?」

「爛様の父君は先代の宗主ですが、爛様が父の弟である桃威とうい様に宗主を譲られ宗主は謝理理様とご成婚なされました。年が離れていますが仲がいいですよ」

 続いて展が補足する。

「仲が悪いわけではないのですが、桃威様が宗主になり結婚されてからは距離を置かれています」

「爛って桃家の当主の息子だったんだよね?」

「桃家の一の若です。宗主を譲られましたけど師兄ではなく爛様とみんな呼んでいます」

 桃の花びらが風に吹かれて舞った。

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