挨拶
「謝宗主と爛の若君です」
呼ばれて部屋に足を入れると家宴と言っていたのに大勢の人が集まっていた。
大家族が集まっても大広間いっぱいにはならないだろう。
なのにざっと見ても二十数人はいる。
しかも給仕や案内などを人数に含めたら更に多い。
人が大勢いるところにいるのは数年ぶりだ。
謝砂は席に案内されるまで見世物だった。
謝砂は視線が怖くて爛の隣をくっつくように歩いた。
両脇に一列ずつ座っていて真ん中が通路になっていた。
爛も分かっているようで歩く速さを一定に合わせてくれてはいたが隠れられない。
(まだたどり着かないのか。誰の目にも視界にも入らない扉近くの隅っこが落ち着くのに)
「きゃっ! こちらをご覧になったわ」
「お綺麗だわ」
「横顔がとっても美しい」
「爛様が通ったあとは空気が洗われたようだ」
爛は空気洗浄も担っているらしい。ご苦労なことだ。
賞賛が飛び交うことに慣れているのか聞えているのに表情は変わらない。
爛を見る目は綺麗なものを遠巻きに眺めているだけだ。
恥ずかしがる物は扇子を広げて覗き見る。
爛は男女問わず目の保養を担っている。
男女の区別はないが序列は決められているみたいだ。
爛は恥ずかしがることもなく、かといってうれしそうでもない。
「どうした?」
「なんでもない」
爛の側は幸せそうな結婚式かイベントのように盛り上がっているのに対して
謝砂が歩いていうる片側は静かだ。
知り合いに挨拶をしていた人も謝砂に気づくと慌てて自分の席に戻る。
気の重い葬式かというぐらいシーンとしている。
謝砂と一瞬でも目が合うと相手は見なかったように下を向いた。
視線を逸らしてくれるのは助かったが何かあったのだろうか。
謝砂が目の前から通り過ぎると爛の姿を少しでも見たくて後ろ姿や斜めから覗き込み拝んでいる。
「こちらです」
上座に座った女性のはっきりした顔立ちは謝砂の目を奪った。
髪は上に持ち上げてすっきりとまとめられて肌はきめ細かい雪のようで袖から見える手の指はしなやかに細く、ピンク色した石がついた指輪をはめていた。
耳飾りの玉は揺れながら光ってる。
そして女性の隣には髭を生やした渋めな男性が座っていた。
全体的に落ち着いた雰囲気で威圧感は感じない。穏やかな印象を受けた。
「桃爛と謝砂が桃当主に挨拶いたします」
立ち止まって両手を胸の前で組む会釈のような拱礼)と教えられた動作をした。
合っているのか分からず隣の爛をカンニングする。
「顔をあげて」
女性の方から声がかかった。
「久しぶりですね。謝砂の顔をやっと見ることができたわ」
懐かしむような微笑みを謝砂に向けられた。
ズキッとした一瞬痛みが心臓に走ったがすぐに消えた。
「お久しぶりです。えっと――」
謝砂は戸惑いながらとりあえず話を合わせた。
(誰かは存じませんが初めまして。なんて呼べばいい?夫人? 奥方? 奥さん? なんか違う!)
「以前のように姉上でも師姉と呼んで構わないのよ」
戸惑っているのを遠慮していると感じたらしく話を続けられる。
「嫁いだからといって他人のように接しなくても大切に思ってるのには変わらない」
(姉上って血のつながったお姉さん?)
「そうだ、謝砂殿は私の大切な弟君だ」
(どっちと家族なんだ? 取り合いされるぐらい愛されてるのによそよそしくしたのか)
謝砂よりも爛が先に言った。
「心配されなくても謝砂は若宗主として立派に家と仙府をまとめています」
爛の助け舟に謝砂は爛を見て話す。
「ご心配ありがとうございます。宗主としても至らぬ点は爛殿がいてくれているのでありがたいです。安心してください」
謝砂の言葉に桃家の当主がまだ言いたげなお姉さんを止めてくれる。
「分かった。だがいつでも頼ってきなさい。謝砂の性格では頼ってもらえないだろうが」
「私がいるので必要ありません」
爛が断言した。
「不要なのは分かっているが私たちの気持ちとして爛をもらってくれ」
「いただけませんよ」
(一体どういう意味で? 返品できないものはいたただけません)
「謝砂殿はすぐに連絡を絶ってしまうから無理をしていないか心配なだけなんだ」
隣にいるお姉さんまで頷いていて謝砂は心配されていることにうれしく感じた。
「桃爛が側にいることで私たちが安心するんだ。だから遠慮することはない」
返事を要求されてレッシャーに当たり障りのないお礼を選んだ。
「ありがとうございます」
「数日前に報告があった食魂のことで助けられたと礼をいう」
「その話はあとで」
爛は早口に低く言った。
「では私たちも席につきます」
爛が話を切ってくれたおかげでやっと席に案内してもらえた。
両脇に分けられ上座に近いのが席に爛が腰を下ろす。
そして爛の隣に用意された席が謝砂の席だった。
ふわふわな座布団に座った。
茶と酒が用意されており隣の卓子との間には果物の乗った入れ物があり、食事もすでに並べられていた。
後ろには給仕が控えている。
向かいの席を観察すると茶を飲み干すと次の茶を注いでくれるようだ。
家宴という名の宴会はとっても豪華だった。
美しい舞姫たちが入って舞いを曲にあわせて披露するのを見れた。




