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柑橘の香り

 家宴と聞いて桃家の人たちに挨拶をしていないことが今さらすごく気になってきた。

「お邪魔してるけど屋敷の人に挨拶してない。怒られないかな?」

 爛は真っ白に金色が散りばめられたキラキラしている服を着ていた。

 裾には鶴の刺繍がされていて華やかだが顔が整っていてしつこさも嫌味もない。

「他にも客人は泊っているから気にする必要はない。謝砂も着替えて」

 謝砂に用意されていた衣装はもっときつい。

 黒色なのはいい。だが合わせてる色合いが艶やかな朱色に銀の刺繍って派手じゃないか。

 俳優さんとかかっこいい人が舞台で着る衣装のように感じる。

 爛の隣でこれを着てるって罰ゲームか羞恥プレイの何かか。

「落ち着いた色合いはないの?」

「以前着ていたものをそのまま用意したようだから別のを持ってこさせようか?」

「これが好きだったのか?」

(成りすますなら覚悟しないと。突然趣味が変わったら怪しまれる)

「用意されてたものを着てただけだ」

「違うのもある?」

「好きな色はあるか?」

「特にこだわりはないな。でも茶色は着ないと決めてる」

「なぜ?」

「茶色を着てるときに蝉が追いかけて飛んできたんだ。一度じゃなくてバッタとか色々。それから怖くて着たことがない」

「虫が苦手なのは同じだな。陳皮を蝋燭に練り込んで虫よけに焚いていたんだ。常に虫を避けたいらしく虫が嫌がる薄荷と柑橘香りの香りを服にしみこませていた。私は香り袋で持ち歩いてる」

「爛から柑橘のいい匂いがしたたんだな。同じのをくれないか?」

「渡してある」

「爛からいつもらった?」

「剣につけた」

 爛が指さしたほうをみる。

 置いてあった自分の剣を見た。小さな巾着が鞘に飾りのように巻きつけて結んである。

「剣は腰に佩いて家宴に出席する。人前では剣を佩いていたほうがいい」

「虫よけだと思って剣は持ち歩くよ。気に入った」

 嬉しそうに爛に剣を持って見せた。爛は小さく笑い返した。

「それで着替えるのか?」

「家宴の準備が整いました」

 部屋の外から声がかかった。呼びに来たみたいだ。

 爛は「わかった」と短く返事を返す。

「今から別のを用意してもらうのも時間がかかるし家にお邪魔してるのにわがままは言えないだろ。このまま着替えるよ」

「単なる集まりだから気にしなくていい」




 急いで着替えて室を出た。

 部屋を意味する室と言っても離れのつくりで一軒ずつ家のように離れて建っている。

 人の家をじろじろと見るのも失礼になるかと思って足元だけをみて歩いた。

 本当は恥ずかしくて顔をあげられなかっただけなのだが。

 平らな石の上を歩き、石でできた階段を上る。

 爛が急に足を止めた。

 謝砂も寸前で足をきゅっとブレーキをかけドンとぶつかることは避けれた。

 目的の場所に着いたようだ。

 謝砂は顔をあげると扉の前には案内人のような男が立っていた。

 そして鋭い目をした鳥の像が両脇に一羽ずつ彫られた柱がある。

 爪が尖った片足をあげているのは戦っているみたいだ。

 彫られている鳥は見覚えがあった。大きい鶏を同士を戦わせていた競技があったはずと記憶をたどった。

「そうだ。軍鶏しゃもだ!」

「鳳凰だ」

「すまない」

 像にも爛にも謝った。鳳凰と軍鶏を見間違えるのはきっと自分だけだろう。

「謝宗主と爛の若君です」

 足を入れると大広間にはすでに食事が用意された卓に大勢の人が座って集まっていた。

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