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3話 呼び名

 走馬灯のように生前を思い出していたが紗々はまだ死んではいない。

「爛?」

「うん。君が招魂されたことは今のところ私だけ知っている」

「招魂されて前の体はどうなってる?」

「その術をみたのは初めてでよくは知らないが、失敗したときは雷がその体に落ち肉だけじゃなく骨も魂さえも一瞬で焼き払われて散りとなる」

 爛の説明にすーっと血の気が引いていくと同時にぞわっとした寒気が襲う。

(もしかして置いてきた体は感電死か焼死体にでもなってるのか。それともショック死か。どちらにしても丸裸だから見られたくないと思ったら散りになっているほうがいいのか)

「物騒なこと口に出さないでくれ。想像しちゃったから鳥肌たっただろう」

 ほらっと袖をまくり腕に現れた症状を欄にみせつけた。

「この体は無事だよな? 焦げ臭くもないし」

 クンクンと鼻をならし両腕や体の臭いを嗅ぐが無臭でほっとする。

「この体の名は謝砂というんだ」

 その名を呼ぶ声は優しくどこかせつなそうに聞えた。その顔が名残惜しそうに見えて心臓が苦しかった。

「別人だけど名前も似ているからそのまま使わせてもらってもいいかな?」

(たぶんだけどその謝砂が戻ることはない。紗々として呼ばれても混乱する)

「私としては構わないがいいのか? 謝砂として生きていくなら紗々はいないことになる」

 爛は驚いて念押しに訊いてきた。本当にいいのかと言いたいことは理解できる。

 この世界で生きてきた体の『謝砂』として名乗ることを決めたら『紗々』の名は消える。

 謝砂のすべてを引き継いで運命さえも代わりに引き受けることになるかもしれない。

 魂の名である『紗々』と名乗れば別人として生きていくこともできる。

 選べるのは『今』だけしかない。

(それでもその名でいい。未練もないし)

「いいんだ。小さい時舌足らずで『ささ』って言えずに『しゃさ』って呼んでたんだ。それより爛の世話になってもいい? 頼る人もいないし世話してくれない?」

 面の皮は厚くずうずしいと思われるのは承知の上で頼んだ。

 この世界のことも知らずには一人で生きていくのは怖い。

 嫌だと言われてもしがみついて放さない覚悟で言ったがうんと頷かれて肩透かしを喰らう。

「二人だけのときは今までの紗々と呼ぶか?」

 思いもよらなかったが爛の提案に首を横に振った。

 死んだわけじゃないけど現世に未練もないし名にこだわりもない。

「呼び名なんてなんでもいい。名を未練たらしく引きづらないほうがいいだろう。生きているだけで儲けものだ。――あれ、力がはいらない」

 足から崩れるよに力が抜け視界が歪むなか焦ったような爛の顔が近づいた。

 ぐっと腰に手を回して抱き寄せられ床に倒れないならと安心して気を失った。

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