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 謝砂は頭で言い訳を必死に考えていた。剣を持っているのが問題だ。

 怪しまれて剣の突きつけられたくはない。

(よその家の稽古を覗き見てたって思われたらどうしよう。問いただすために呼ばれたとか。今謝ったら認めることになるし)

 だがラッキーなことに目を直接合わせてはこない。ちらちらと見るだけだ。

 見る限り中学生か高校生ぐらいの年齢に見えた。

 柳鳳のそばに残っているのは少年ばかりだ。

「ここも女子と男子で区別して鍛錬してるのか?」

「桃家は明確に区別はしません。世家の中では仲がよくて自由な家風です。謝家からしたら考えられませんよね」

(謝家に行きたくなくなってきた。実家のほうが厳しくてそれを決めてる本人って。帰らないほうが謝家の為だな)

 手をあげ恐々と口を開いた子がいた。

髪を一つにまとめてポニーテールのように結んでいる。柳鳳とは違って中性的な顔は爛に似ていた。整っていて美形。いかにも真面目そうだが人に興味がなさそうに見えた。

何人の女の子が涙を流すだろう。拗ねたくなるぐらい羨ましい。どうせなら同じ顔じゃなくて美形がよかった。

「はい、君」

桃展とうてんといいます」

「桃展殿、言いたいことは言ってごらん」

「ありがとうございます。謝宗主、僕たちは師兄に鍛錬に付き合えと言われただけです。逃がしてください」

 小声で「そうだ」と何人か続いて言った。

(しかし美少年率が高くないか。たまに地味目がまざってるけどあえて華やかな集団にいることによって素朴に見えるだけだな)

 謝砂はそのやや素朴な少年を指した。

 素朴といっても一般的に美形の分類だ。

 キリっとした顔つきながら愛想がよさそうで凛々しさを合わせ持った印象を受ける。

「君も桃家?」

「僕は桃常とうじょうといいます。桃家の傍系です」

(傍系って遠い親戚のことをいうんだっけ。憶えられない)

「君は謝宗主に教えて頂きたいです」

「何も知らないから聞かないでくれ」

 謝砂は速攻で断った。なぜと聞かれても困るが知らないを通そうとした。

「謝家の剣術について聞きたいのではないんです」

 桃常は断られたのは自分の聞き方が悪かったと思ってくれたようだ。

「家の教え方があるだろうし。よそ者が口を出すわけにはいかないだろう」

 謝砂は頭をフル回転させて最もそれらしいく理由を話した。

(諦めてくれ。無理だ。教えられることはない)

 柳鳳に視線で助けを求めた。

「兄さんはこのあと家宴に出席しなければならないから忙しいんだ」

 柳鳳は機転が利くみたいだ。

 師兄に諭されて桃常はしゅんと肩を落とす。

「申し訳ありません。謝宗主は方術も剣術にも秀でていると噂を聞いていたので」

(へぇー。優秀なんだ。やっぱり宗主って肩書は嘘じゃないけど僕はそれに泥を塗ると思う)

「話ができる機会がなかったのですが以前宗主をお見かけした際、剣術が素晴らしくてぜひもう一度拝見したかったのです」

 キラキラの希望に満ちた瞳は負担でしかない。第一に剣持ってないし、剣道なんて体育で遊んだだけで憶えすらない。怖くて逃げてたし。しかしこの憧れを一瞬で壊すのはあまりにも忍びない。

「分かった。だけ病み上がりなので剣術を披露することはできないが、ほうきを持ってきなさい」

「法器ではなく掃くほうきですか」

「技をおみせしよう」

 体育を見学しまくり、帰宅部だったが罰掃除で習得した箒の早掃きは自慢できるはずだ。

 ここにも使用人が掃除や家の雑務をしているようだから庭の掃き掃除なんていう罰はしたことがないだろう。

 全員に箒を手に持たせた。

 昔ながらの持ち手が竹製の箒だ。剣ぐらいの長さはあるからちょうどいい。

 髭はないが顎を片手でなでてそれっぽい雰囲気を演出させた。

「剣術の腕を磨くのもいいが、剣は己で扱うものだ。だからこそ精神を鍛える必要がある」

「箒はなぜですか?」

「展君、いい質問だ。それは身近にある箒こそ一番の鍛錬に適しているものだからだよ」

 柳鳳まで黙って謝砂の話を興味津々に一言も聞き逃さないといわんばりに集中している。

「精神を鍛えるには掃除が一番。一見は綺麗に見えても砂埃や周りには葉っぱなどのものが落ちているだろ。修練に応用する」

「こんな広い面積だから掃除するだけで時間がかかるだろ。基本は隅から掃いていくんだ。力加減が必要だ。さあ開始」

 謝砂が合図すると一列になって隅から黙々と掃いていく。

 予想通り不慣れなようで箒に手こずってる。

「はい、注目」

 近くにいた桃展の箒をかしてもらう。

 謝砂は自信満々に箒を一回転させて持ち、隅っこから一気に掃いた。

 箒のしなり度を確かめて力をこめて一気に掃く。

 勢いがいいのに土埃や葉を思い通りに運ぶ。

 謝砂が掃いたあとは散り一つ残っていない。

 集めた埃や土、落ち葉などが絡められたゴミの山が盛られた。

「どうだ。箒も同じく道具は使いようなんだ」

 謝砂が自慢気に言うとおぉと感心する声が響いた。

 あまり深く考えてなかったが褒められるといい気分になる。

 謝砂は調子に乗って箒で旋風を起こして一帯のゴミを掃いて集める技を披露した。

 一芸を披露すると拍手されて気分よく掃除を終えた。

 桃展に箒を返すとその瞳は憧れの人を見るように純粋にキラキラと輝いている。

「僕たちにあわせて箒を使ってくださったけど謝宗主は剣術だけでなく、内力の力加減の仕方も同時に修練されたんですね。風を操ることで修練するとは思いつきませんでした。ありがとうございます」

 桃常は教えてもらったことに満足し、感激したみたいだ。

 一斉に頭を下げられた。

 これであの子たちの憧れている存在は守れたはずだ。

 桃家の弟子たちに別れを告げて柳鳳に爛の元に案内してもらった。

 調子に乗りすぎたとあとから後悔した。

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